第三十二話:ハローワークへ行こう
紆余曲折を経て久々の投稿となります。
設定を大幅に変更したため、人物名や国名、土地の方角などが一部変わっております。恐れ入りますが最初から読み直して頂けると幸いです。
世界設定はキッチリ組めましたので、今後もマッタリと続けていきたいと思います。
それから暫く街を散策する。
まだ髪はレモンイエローで、股間にぶら下がる男の子の証もない。これだけ長い時間、この謎の能力を行使したことはなく、反動も怖いのだが、それでも元に戻る方法がわからない。
わからない以上、考えても仕方がない、切り替えて今すべき唯一の行動をするのみだ。
今必要なもの、それは金と知識だ。
武力は二の次でいいだろう。
どんなものが売っていて。
それはどれくらいの相場で。
どういう仕事があって。
それはどれくらいの給料で。
この王国周辺にはどんな資源があって。
どんな環境なのか、など。
全くもって無知なのだ。
そして無知は死を意味する。
自分を守ってくれる人はいない。
自分を守ってくれる場所はない。
だが今は学ぶ場所はない。
言葉は分かる。
それだけが救いだった。
今できること。今すべきこと。
それは職業案内所へ行くことだ。
道行く人に職業案内所の場所を聞いて、そこへ向かうこことした。
この世界にも職業案内所があることは自分にとっては救いだった。
異世界物語の定番だと「冒険者組合」のようなものがあって、そこで依頼を受けて冒険に旅立つ、というのが定番なのだが、生憎この世界に「冒険家」はいないらしい。何故って?この世界は魔物もいなければ国家間もあらかた平和で協力的、探索を終えていない部分はないからだ。
地図も希少だが身分のいい人間の間では出回っており、人の往来や流通にも利用されている。
ではどんな仕事があるのか。
なんのことはない。
元いた世界とさほど変わらない。
面白そうな職業もいくつかあるが…
・農家の手伝い
・八百屋の店番
・倉庫整理・積み降ろし
・裁縫職人・服屋
・兵士の装備磨き
・傭兵
・鍛冶職人
・鉱山採掘
・薬草採取
・公衆の衛生保全
・道路工事
・建築
・家事代行
・旅支援業
などがあり、種類はとても少ない。
そのうち奴隷のジグや子供の俺ができて、かつ一週間なと短期の募集は非常に限られている。
法律さえ知っていれば起業も考えたが、下手に起業して法に触れたらこの先不利となってしまう。
奴隷にも賃金が支払われる職業は…やはり炭鉱夫など危険な仕事や、便所掃除など汚い仕事が多い。特にジグは『裏切りの護衛兵』という烙印を押されてしまっている。傭兵などもってのほかだろう。対し自分はこの青い客人の服装が仇となり、稼ぐには酷く目立つ…。ホントにこの衣服を使ったカースト制度はよく出来ているものだ。逃げ場がない。
さて、どうするか…
職業案内所で『短期』でかつ『子供や奴隷に有償の賃金』『王都付近の仕事』という条件で探してもらう。
自分は『薬草採取』と『家事代行』『衛生保全』ができ、ジグは『衛生保全』くらいしかできない。
自分に取っては読み書きが出来ないのがネックだった。やはり学問は偉大である。
とりあえず自分は『薬草採取』に決めた。
この世界には病院と医療魔法はあるが医療機器がない。ワクチンや薬もない。医療魔法は希少で、庶民はその力になかなか肖れない。
その中で薬草の知識は今後も生かせる知識となるし、極めれば金となるだろう。唯一異世界らしい職業かもしれない。心が踊る。
ジグには悪いが『公衆衛生』、要するにトイレや水回りの掃除をやってもらう。出来高制で、トイレを掃除すればするほど、キレイにすればするほど多くの賃金が支払われる。汚い仕事だがやり甲斐はあり、それしか稼ぎの選択肢がなければ仕方のないことだ。
自分は介護職の経験があるので、汚便所だろうがウンコだろうが気にせず突っ込める。ウンコの処理をした後平気でカレーを食える。汚い仕事も慣れが必要だ。まぁ慣れるまでに3ヶ月を要したけれど。
そもそも子供や奴隷に有償の仕事が残っていただけ奇跡的というものだ。この期を逃してはならない。他の人に取られないよう『確約』させ、予約板をもらって帰ることとした。
日も傾き、家々に徐々に明かりが灯る。
この世界には電気がない。日本も明治にはガス灯があったが、この世界にはガスもない。夜となれば灯りは松明や蝋燭が頼りとなる。24時間営業のコンビニなんてものはないのだ。
撤収作業に忙しく動くもの、八百屋に駆け込みで食材を買いに来るもの、酒屋で騒ぐ男たちで路地は騒然とする。
殺伐とした雰囲気だが、別の捉え方をすれば活気があると言えるし、それでも皆、表情は幸せそうである。
さっきから頭に浮かぶのは、これから何度目かも分からない漆黒の夜を汚い路地裏で過ごすであろうジルやリリの姿だ。やはり子供のホームレスは心が痛い。お腹も空かせているのだろう。
俺は客人用の豪華な宿でディナーだが、夕御飯、お代わりするフリをして、せめてパンだけでもあいつらの分も取っておこう。
宿にはどうにか暗くなる前に着くことができた。
ジグはまだ爆睡、いや昏倒に近い寝方をしている。
寝させておいてやろう。
夕食はフランスパンのような硬いパンとビーフステーキ、サラダのオイルあえ、コーンポタージュだ。昨晩と違い、スラスラと献立が出てくる。無礼のないように、とでも王宮からお達しが来たのか、それともこの青い客人服を見て態度が変わったのか…。
一流の『おもてなし』を受けた。
また、思ってもみないことだったが、ダメ元で「奴隷に食わせるため、いくつか食事を持ち帰りたい」と申し出てみたところ、小さい木箱を2つほどくれた。奴隷を持つ良心的な貴族の中になこういった計らいをする人もいるようだ。
適当にお代わりしては、こっそりお代わりした分のパンは、半分に切ってサラダやビーフを挟んでハンバーガー状にする。それを5つ拵えて木箱に詰める。子供たちの分だ。
コッソリやってたつもりが、バレているようだ。ウェイターが微笑んでいる。
自分の分はなくていい。自分はここ数日食べていないが、今空腹を感じていないし、空腹で動けなくなるといったこともいまのところない。
この能力の一番の恩恵と言える。不死はさておき、飲まず、食わす、寝ずでも負担がないのは十分チート能力と言えるだろう。
自分のパンはジグ用にしてもって帰ろう。
一応、コーンスープくらいは飲んで帰るか。
木箱にぎっしりと食材を積み、食堂を出た。
※登場人物紹介
◯ファロイド
主人公。見た目6歳。金髪の美少女(♂)
今は能力を使っているため本物の美少女。
元介護職。




