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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第2章 安寧への道のり
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第三十話:英雄譚




向かう先は裏通り。確かこの家の隙間に…いたいた。


「やぁ、ジル。リリ。帰ってきたよ。」



先に挨拶したのは兄のジルだ。


「よう!ファロイド!…なのか?どうしたよその高貴な服!まさか盗んできたんじゃないだろうな??それに…何か雰囲気違うぞ?なんかこうもっと荒んでなかったか?」



後ろからリリがトテトテと兄のあとを着いてくる。

「あ…!ふぁろいどおにいちゃん…?おかえり…。」



「盗まねぇよ!ジル、お前じゃあるまいし。それにリリ、今はお兄ちゃんとはちょっと違うんだが…まぁいいか。どうよ。調子は?」



「全然ダメ。まーた失敗しちまった。ここ最近、店番の目が厳しいの何の…。人も増えたし、一切隙がねぇの。」


「お前なかなか有名人だな。」


オマエに言われたくねーよ!、とジル。

リリもうっすら笑っている。

元気で何よりだ。


さて…



「さて、今日はお前達に残念な話を持ってきた。残念だがそうやってパンを盗んではゴミと埃の中で暮らす生活も今日で終わりだ。」



「えっ?」

「…え?」



空気が一変する。


今日のことをこいつらに伝えなければならない…が、幼い子供に大人の事情を言うのは、大人に言うよりも実は難しい。幼稚園児に「奴隷制度が云々」と言って分かるだろうか?分かるわけがない。どう伝えたものか…。



「簡単に言うと、だ。お前達を仲間にしたいと思う。」


「はぁ?どういうことだよ?」


「俺の下で働いてもらう、ってことだよ。ジル。」


「働くって言っても…お前も奴隷だったじゃねぇか! 」



んー、困ったな。

そうなんだけど、何て伝えたものか…。


まぁ、こう言えば理解できるかな?



「…お前達兄妹のお父さんに会わせてやる。」


「え?」

「えっ?」



子供達が凍りつく。

だが俺は話を止めない。


「生きているぞ。話すと長いが、酷い怪我をして、今は俺に与えられた宿で眠っている。お父さんに会わないか?お前らの分も宿は確保してある。」



「…嫌だね。会わない。」



「なに?」


「父ちゃんは…父ちゃんは俺たちを捨てたんだ。今更会って何になるって言うんだよ…。しかもノコノコ生きてたんなら尚更だ!俺たちは…俺たちは父ちゃんを…許さない!」


唇がワナワナと震えている。

怒り、憎しみ、悲しみが複雑に混じりあった表情だ。



「なら…何故お父さんは君たちを捨てたと思う?」


「理由なんて知らねーよ!俺たちを捨てたことに変わりはないじゃないか!」


「そうだな。だが…そのお陰で、お前達は生きている。」


「どういうことだよ…ッ!」


「詳しい話は後だ。話そうにも、どうにもここだと目立つ。もっと奥まったところへ俺を連れていってくれないか?人気のない所で話したい。」


「分かったよ…。リリ!奥へ行ってくれ!」


「う…うん…。」



路地裏の家々の隙間、子供しか入れないようなスペースを、ゴミの中をかき分けかき分け、一番奥まで進んでいくと畳3畳ほどだが小さなスペースがあった。そこにはボロボロの布団の切れ端やらが散乱している。



そうか。

ここが孤児達(おまえたち)の家か。

これがお前達の生活か。



「他にもここで暮らす子供はいるのか?」


「俺たち以外に3人いるよ。今はいないけど。」


「なるほどな…」



そう。

ここでこの兄妹を引き取ったら。

残された3人はどうなる?

ここで強引に拉致するか?

子供達の気持ちを引き裂いて。



いや、先ずは話すか。



「さて。お前達は聞きたくないかもしれないが、ここらでそろそろお前の父親について話させて貰う。聞きたくなければ遮って貰って構わない。」


「ああ。話してみろよ。まぁクソ親の話を聞いたところで、俺たちの答えは変わらないだろうけどな。」


「分かった。だが、お前の父親について語る前に、まずはお前の母親の事から話さなければならないな…」




語るは英雄譚。

母親を奪われ殺された父親の復讐の物語。

子供に罪を被せまいと親戚に預けた断腸の思い。

悪い盗賊に協力を求めてまで復讐を為し遂げたこと。

大罪人として囚われ、罪を着せられたこと。

数多くの拷問や体罰を受けてボロボロであること。

子供が捨てられたことを悔やみ、自分を責めていること。




リリは泣いている。

ジルは悔しさを滲ませている。

当てようのない怒りがジルの中を駆け巡る。


そう。

父親もまた戦っていたのだ。

自分達と同じように。



俺には英雄譚を語る以外、何もできない。

出来ればジル達を助けたい。そしてジル達を助けることは、他3人の孤児を見捨てるということ。だがジル達を助けなければ、合わせて5人の子供を見捨てることになる。


だが、それでも…



「父ちゃんの話は分かった。父ちゃんに会ってやってもいい。でも、それでも俺は、仲間を残してここを離れられない…!」



そう、ジルも生きてきたのだ。

必死で。仲間と。励まし合い、身を寄せあって。

簡単に見捨てることは出来ない。それは道理だ。



「そうか。…分かった。なら、また明日来よう。とりあえず今日はお前達の父親は疲れて泥のように眠っている。会うのはそれ以降だ。」


「ああ、そうしてよ。俺らも、よく考えとく。」




兄妹と別れを告げ、路地裏を後にした。



人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公。

だいたい年齢は6歳くらい。

金色の長い髪と、赤い瞳を持つ美少女(♂)

見た目は子供、頭脳はオッサン


○ジル

シンクバトラ王国の路地裏で出会った孤児奴隷。

芯のある男の子。7、8歳くらい。

主に盗みで生計を立てている。

責任感と正義感が強い。

路地裏の子供奴隷(ストリートチルドレン)ではリーダー格。


◯リリ

ジルの妹。5歳くらい。

オドオドしている小動物系女子。

心優しき女の子。

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