第二十九話:奴隷雇用
薄暗い厳粛な雰囲気の玉座を後にする。
日の光が眩しい…。
そして俺の身体は…戻っていない。
あれ?予想では夜またはそれに似た暗い場所のみ発動する能力で、昼ないし明るい場所では元の姿に戻るものだと思っていたんだが…
何故だろうか。
まぁ、色々実験できるのだ。
悪いことではない。
俺はシンクバトラ王国の国旗の模様が刺繍された青い服に着替える。一般的にこの服を着ることができるのは、カトラ帝国やラカタ王国などの、民族衣装そのものが異なる文化を持つ国から来た限定的な来訪者、または国賓に値する者しか着ることを許されていないという代物だ。
この服を着ている限り、宿や店では最大限の持て成しを受けることができる。今までのような差別の目を向けられることはない。それだけで舞い上がるような解放感だ。堂々と歩くことができる。
まぁ、ただお金は別で、当然ながら仕事も無ければお小遣いもない。つまり無一文に代わりはない。衣食住を保証されているとはいえ、お金がないというのはいささか怖いな…。ちなみに隣を歩くジグも捕まったときに兵舎に置いてあった全ての物を取り上げられているため、同じく無一文である。
ジグの扱い、というか今の身分は俺の専属奴隷だ。カトラ皇国に着いたら解放してやる予定だが、それでも一時の間、俺の下に就く以上は給与とか与えてあげたいし…
「どうした?もしかして俺の事について考えているんじゃないか?あらかた、奴隷の扱いと言ったところだろうが。」
そんなことを考えていたところ、ジグが声をかけてきた。
「…よく分かったな」
「顔に書いてある。分かりやすいぞ。」
それは困った。
考えが読まれるほど不利なことはない。前世でもとてもとても嘘が下手だったが、やはりこの世界に来ても変わらないか…。
ジグは続ける。
「あらかた、お前の悩みは俺の給料とか俺の扱いについてだと思うんだが、どうだ?図星か?」
「ああ、そんなところだ。」
「給料に関してだが、そもそも俺はお前を一度殺めておきながらお前に救われた身だ。しかも衣食住も束の間だが確保された。これ以上何かを求めるのはバチが当たるというものだ。」
「…いや、それとは関係ないな。俺とお前は主従関係にある。お前の身柄は俺に拘束されているも同じだ。それの対価は払いたい。」
「そもそも奴隷に給料を与える奴を見たことがない。奴隷に与えられるのは良くて最低限の食事くらいのものだ。奴隷に金を与えて豪華な暮らしでもされてみろ。それこそ批判の的だ。」
ふむ、そういうものなのだろうか。
前世では例え前科者であれ、職務に着いている限りその対価となる賃金は発生する。まぁ一般人と同じとは行かずとも、それは法で保証されているのだ。
だが、先程の処刑劇で分かった通り、この世界に法律はない。およそ王族や大臣格で構成される司法機関なるものはあるのだろうが、結局は名文化された法典ではなく、その時の自分達の価値観や感情で人を裁くことができる仕組みに代わりない。奴隷の扱いも、雇い主の裁量と世間一般の目によって決められているようだな…。
だが…
「…ダメだ。どう考えを巡らせてもお前に払う賃金を確保する算段が取れない。すまないがカトラ皇国までの間は無給で頼む。」
「もとよりそのつもりだ。お前からは衣食住を与えられている。それで充分さ。」
「すまないな。」
とは言え、金に関する懸念は尽きない。
カトラ皇国までの道のりは片道3日程度。その間の食料を買うお金は別途必要になるかもしれないし。あるに越したことはないのだ。どうしたものかな…。
あと雇用主がする事と言えば…契約機関の告知か。
「ジグ。お前が俺に拘束される期間はカトラ皇国に就くまでだ。悪いがカトラ皇国に着いてからは面倒を見てやることは出来ないだろうと思う。それでもいいか?」
「ああ、問題ない。そもそもカトラ皇国には『奴隷制度』なんてものはないからな。」
「え?」
「カトラ皇国やミノア帝国のような大国には、奴隷制度はもはや必要とされていないのさ。豊かだからな。最も、例えばカトラ皇国では働かざる者や犯罪者はそれなりの職に強制的に着かされるし、ミノア帝国には奴隷兵団なんてものもあるが…」
「なるほど。」
あらかた鉱山の掘削などだろう。
引きこもりニートを許さない厳しい世界だ。そうなると怪我や病気による障害者の労働も気にはなるな…。まぁ、あらかた察しがつくけれど。
最後にジグに言わねばならないことがある。
雇用規則のようなものだ。
「さて、お前を雇うに当たり、約束事がある。」
「あらかた察しは着いているよ…。何だ?」
「まず1つ。先程も玉間で言った通り。お前には息子と娘に会って謝罪する責任がある。そして養育する義務もだ。これはお前の最大の贖罪、そして俺が身代わりになった意味でもある。逃げず、怖れず、自分の気持ちを伝えろ。」
「…分かった。」
「2つ目。俺とお前は主従関係にあるが、対等なものと思ってくれていい。敬語も敬称も引き続き必要ない。別の言い方をすれば子供二人を守るための協力関係とも言えるだろう。俺に生きる知識を提供してほしい。この世界の規則、慣例、土地柄、産業、雇用、武力、そして魔法に関してもだ。」
「それは勿論だ。もとより協力は惜しまないつもりだ。しかも子供の事まで…こっちとしても願ってもないこと。本当に感謝する。この身この命、好きに使ってくれ。」
そして、釘も刺して置かなければな、
「3つ目。お前が子供を預け、そして捨てた親戚に会いに行く事は許さない。子供からどんなことを聞かされても、お前は耐え、我慢しなければならない。お前の考えそうな事だ…。その命を再び復讐者として焦がす事は許さない。」
「…なんだよ。読めていたのか…。」
「ああ。今のお前の命の軽さは手に取るように分かる。一度復讐に身を焦がした者は特に、己に出来ることは復讐だけと思いやすい傾向にある。それに、これはお前が招いた災いだ。子供達に償う方法は他にある。」
「…分かったよ。」
「よし、以上3点さえ守ってくれれば他は自由にして構わない。もとより束縛するつもりもないからな。これで契約成立で構わないか?」
「それでいい。感謝しているよ。ファロイド。」
「とりあえず、今日明日はゆっくりと休め。聞きたいことはいくらでもあるが、今のお前は立っているのもやっとのはずだ。真っ直ぐ宿に帰って、寝ていろ。」
「そこまでお見通しか…。」
ジグは声すらももはやマトモに出せない。
寄り道せず直ぐに帰宅。
宿に着いた途端、ジグはベッドに沈んだ。
さて、一段落。
だか俺にはやることがある。
向かうとしようか。
人物紹介
○ファロイド
この物語の主人公。
だいたい年齢は6歳くらい。
金色の長い髪と、赤い瞳を持つ美少女(♂)
人の上に立ったことはない。
◯裏切り者の兵士『ジグ』
30半ばくらいのオッサン。
妻の不倫、妻の死。親族の裏切りなど。
数多の悲劇をその身に受け、復讐の鬼となる。
カトラ皇国までの道のりをファロイド専属の奴隷となる。




