第二十話:俺の罪
「おい!クソガキ!聞いているのか!」
ハッと我に帰る。
どうやら看守に話しかけられていたようだ。
看守は酷く酒臭い…。
「すみません、呆けてました。」
「全く、これだからガキは…ヒック。まぁいい、これからの事について説明するぞ…。」
とりあえず俺はこれから一昨日の夜に起こったこと全てを白状させられるそうだ。おお、怖い怖い。どうせ聞き入ってくれない。この扱いからして完全に出来レースである。
そして子供の足で歩いて丸2日かかる道のりをどうやって歩いてきたかの説明から必要だ。適当にほっつき歩いていたら王国に辿り着きましたとか言った日にはバカにするなと鞭を打たれるだろう。本当に困った…。
とりあえず俺は身柄を取調室へと移される。
取調室には歴史の教科書とSMのエロ本でよく見た拷問器具…ゴホン、とにかく様々な拷問器具が置いてある。特にあのギザギザした切れ込みに正座して重りを乗せられるやつ。あれは痛そうだ。勘弁願いたい。
何とかアレを喰らわないような答弁をしなければ…
「クソガキ!テメェから聞くことは山ほどある!だがまずは、うちの人務大臣暗殺の件についてだ!正直に言え!テメェが殺ったんだろ!」
ダァン!!とテーブルを叩く看守。
かなりビビった。ちょっとチビった。
この威圧感、俺の命を握られている感じ。
少なくとも前世では経験がない。
もはや首から下の感覚が無くなったような錯覚すらある。
いや、落ち着け…冷静になれ…。
空っぽになる思考回路をどうにか引き戻さなくては。
少し冷静になって思うと、定型文のような尋問文句だ。
まるで漫画やドラマのワンシーン、酷い言われ様だ。
この世界には奴隷のような差別階級があるのだ。
きっと司法は壊れている。
ならば。頑張るだけ無駄だろう。
頑張って生きようと足掻くだけ、無駄だろう。
上手いこと言うだけ、無駄だろう。
ならばせめて、目の前の尋問官だけでも…
「いいえ、私は殺っていません。」
「観念しろ!証拠は揃っている!お前か殺ったんだろ!」
「では証拠は?」
「テメェは発見時、ナイフと魔術書のような書物を持っていた。大臣に何らかの恨みのあったテメェが、黒魔術を使い、殺害した。違うか!?」
「違いますね。現場は見ましたか?」
「知らねぇな!だかテメェは見たところフジの村から真っ直ぐシンクバトラ王国に向かってきた!そして大臣はその経路を使いフジの村に行った!そもそも、その服に染み付いてる夥しい血の跡と血の臭いが何よりの証拠だ!そんな帰り血を浴びるような殺傷事件はシンクバトラ王国では有り得ねぇ!」
これは俺の血なんだが…
いや、話がややこしくなりそうだ。伏せよう。
「確かに、大臣とその護衛は死にました。でも私ではありません。賊です。大臣ら賊に殺され、金品を奪われました。」
「テメェが賊の一味じゃねぇって証拠は何処にある!」
…イラッ。
「大臣を殺した賊であるならば、わざわざ王国に向かって歩いて行かないのでは?そして私が大臣と護衛を殺したとして、私は子供ですよ?子供に全滅させられる護衛など、王国の程度が知れますね。」
「だから何らかの黒魔術を使って殺したんじゃねぇかって言ってんだ!」
「そのような便利な黒魔術は存在するのでしょうか?少なくとも私は知りませんし、存在もしないのでは?」
「テメェ…!」
「ところで看守様、貴方は大臣が何処に何しに行ったかはご存知ですか?」
「知らねぇな!何か?要人訪問だったか?テメェには関係ねぇ話だ!」
「そうですか…。どうやら貴方は事情を知らないようだ。大臣の訪問先も分からず、訪問目的も分からないとは。貴方に事件の概要を説明しても意味を為さない。話の分かる人にお会いしたい。」
「テメェ!ガキの分際で減らず口を叩きやがって!俺様を舐めてんな?仕置きが必要か!?テメェはただ、大臣を殺ったとだけ言っていればればいいんだよ!!」
まずいな…。
この逆上具合、非常にまずい。
若干イラッとしてつい言い返してしまった俺の非もあるが…
前提として、俺に人権はない。
このまま尋問官の趣向や気分で拷問に処され、結果俺が耐えきれず死んだとしても、結果死刑になる身だ。尋問官は罪には問われないかもしれない。
上手い答弁は出来ないものか…。
いや、それも無駄か。
「ええい!今日の答弁は終いだ!こいつを牢に放っておけ!」
まるで話が通じない。
大体予想はつく。
どんな形であれ、自白させた事が手柄になるのだろう。
報酬が出るのかもしれない。
警察が誘導尋問などで問題になるケースが現代の日本ですらあらのだ。この世界にないわけがない。
盗賊の討伐へ出るよりも、ここで俺を犯人とでっち上げて処刑しておいた方が圧倒的に楽である。軍隊を出さずに済む。安上がりで簡単だ。
ここからは持久戦だ。
聞く耳を持たない相手に対してこちらも聞く耳を持たないこと。言いなりになれば結局処刑。結局死ぬ。
ならばせめて、抗ってやろうじゃないか。
………。
牢に入れられて2日が経つだろうか。
あるいはもっと経つだろうか?
もはや時間も日付も分からない。
勿論食事はない。水も出ない。
寝ようとすると叩き起こされる。
寝させない。
どれも持久系拷問の定番だ。
次第に疲労と低血糖で意識が朦朧とし、自白を促すのだ。原理は分かっていても、受けてみると想像を絶する。
むち打ちはもはや痛みを感じない。
正座拷問で足の感覚がない。
最早立つことも出来ない。
このままこの地獄で死ぬんだろうか。
そもそも…
俺は、何故拷問を受けているのだろう。
俺は、そんな酷いことをしてきたのか…?
よく親に反抗した。
よく上司に反抗した。
よく周りに迷惑をかけた。
周りに心配ばかりかけた。
俺は恵まれていた。
友人に、恩師に、女性に、上司に、親に。
だが、俺がその期待に応えられた事はあったか。
いいや、なかった。
俺は期待と信頼を裏切って。
それに対する罪滅ぼしが分からなくて。
勝手に塞ぎ混んで。
また迷惑かけて…。
与えられた恩に感謝はしているけれど。
恩の返し方がわからなくて。
それでまた失敗を繰り返して。
自分の評価を下げて…
俺は…
俺はクズだ。
俺は壊れている。
間違いなく。
具体的には思い出せない。
頭にモヤがかかったように、思い出せない。
俺が具体的に何をやらかしたか。
ただ分かることは、俺は多くの人に迷惑をかけすぎた…。
俺の人生に、誇れることはなかったのか。
いや、あるな。
人を虐めたことはないことか。
イジメられた事はあった。
だが虐められる原因は俺にあったのかもしれない。
知性を得た今だって俺は異質だと感じる。
ならば無邪気な幼少期の俺は、さぞかし異質だったろう。虐められる原因は、異質な俺にあったのかもしれない…。
いや、結局俺はイジメっ子と一緒だ。
人を傷付けたことを、俺は忘れてしまった。
イジメっ子は、イジメた事実は記憶にあっても、どんなイジメをしたかは思い出せまい。虐めたときのイジメられっ子の表情は思い出せまい。
いや、イジメっ子より俺はタチが悪い。
イジメっ子は故意に人を傷付けるが、俺は無意識に、無意図に、無意味に人を傷付ける。傷付けたことにすら気付かないことが多い。
そうか…俺の存在は…罪深い…
〈オマエニハ極刑ヲ与エル…。〉
〈罪深イオマエニ、フサワシイ極刑ヲ…。〉
落ちていく意識のなかで、わずかに。
どこかから、声が聞こえる気がする。
女性の声か、男の声かは分からない。
誰だ…。
もしかして…俺…
「オラ!起きろクソガキ!!」
〈ドフッ!〉
落ちていく意識、傾く体勢。
その身体の土手っ腹を看守が蹴り上げる。
あれ?
痛くない…。
「何だテメェ…!?髪が…!」
看守が動揺する。
髪…?
見ると、相変わらず膝まで伸びる長い髪だが、その色は以前高熱を出したときの様にレモンイエローをしていて、かすかに光っている。
あれ…?足…。
動く…力が入る。
アザだらけだった足は傷1つない。
身体が軽い…。
「テメェ…何だよその髪!何だよその目!…そうか、そうじゃねぇかと思ってたんだよ!やっぱり正体を表しやがったな…!この悪魔め!また俺たちの前にーーー」
看守が喚いている…。
俺の耳には入ってこない。
酷く頭がボーッとする…。
あぁ…お腹が空いたな…。
目の前の看守が…ご飯に見えるくらい…。
その時だった。
バタン!とドアが開く!
「ソグ看守長様に報告!人務大臣以下2名の遺体が発見されました!王より緊急徴収の命が出ております!金髪の囚人を連れ、直ちに王宮に来いとのこと!」
人物紹介
○ファロイド
この物語の主人公。
だいたい年齢は6歳くらい。
金色の長い髪と、赤い瞳を持つ美少女(♂)
怒鳴られるのは場数を踏んでいるが慣れない。
○ソグ看守長
ファロイドを投獄し尋問にかける。
酒浸りのアル中。不良。
ついうっかり手を滑らせて囚人を殺したことが何度か。
33歳。




