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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第1章 異世界生活は分からない事ばかり
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第十三話:戦術的敗北




子供が連絡もなくご飯をすっぽかし、どこへ行くかも知らせず、喧嘩して泥だらけになって戻ったとしたならば、大抵の保護者はかなりの勢いで怒るだろう。


だが俺は中身は大人。そこらへんはエルダ婆さんも分かっている…とは分かっていても、やっぱり怒られるんだよなぁ。



エルダ婆さんは怒っている。

静かに、確実に。



「すみませんでした。」



全身砂ぼこりまみれの俺は、頭を下げることしかできない。怒鳴られはしないが、威圧感はある。



「それで?どこをほっつき歩いていたんだい?」


「湖畔端を歩いていたら子供に絡まれました。」


「やり返したのかい?」


「いえ、やり返してません。ひたすら避け続けました。」


「あんたねぇ…。それは悪手だよ。」



いや、俺にも確かに反省点はある。

戦闘に至ってしまったという点だ。例え相手に怪我はなくとも、一方的に相手が殴りかかってきたとしても、戦闘という事実は残ってしまう。


ましてや、全く事の経緯を知らない通りがかった人が途中から目撃しれていたらどうだろう。その人にとっては中身が大人の俺が子供と喧嘩していたという事実しか残らない。

それこそこの先の立場が危うい。

この先、子供達と面倒な事になろうとも、戦闘を避け、全力でその場から逃げ去ることがベストだったようだ。



「いえ、反省すべき点は分かっています。すみませんでした。」



しかし、やはり相手に一切反撃しないという俺の判断は正しかったようだ。この白い甚兵衛が語るところは、つまるところ「階級制度」にある。

「罪人」や「奴隷」と同格、家族も親族も、所属先すらない得体の知れない者が着る、この「白い甚兵衛」で、「平民」に暴力を与えることは、例え事情や風習を知らない俺がやったとしても、いや、そんな俺だからこそ、かなり問題となる。

つまるところ、不平不満が溜まる「奴隷」唯一の枷を解放しかねないということだ。

そこまで深くは考えなかったな…。


数刻前まで戦術的勝利とか考えてた俺がバカみたいだ。

完全敗北もいいところだ。


今の俺は頭を下げることしか出来ない。

でも。それでも。



俺、ほとんど悪くなくね?



とりあえずエルダ婆さんの怒りが収まるまで謝罪を繰り返して耐えよう…。お腹すいたなぁ。


結局、30分くらい怒られただろうか。

とりあえずこの砂まみれの服を着替えて風呂に入りたい…あっ、風呂のこと聞けなかったなぁ。この状況じゃ聞けないし…。

諦めようか。


手だけ洗ってかなり遅い昼飯にありつく。

冷ましてしまってごめんなさい。

独り暮らしが長いから、人が自分のために真心込めて作ってくれる料理に凄く有り難みを感じる。

温かいうちに食べてほしかったことだろう。

エルダ婆さんの怒りは、こういう理由もあるのかも知れない。そういう事を鈍感な俺に悟らせてくれる存在であるエルダ婆さんを、大事にしよう…。

朝の掃除とか日課にしようか。

それくらいなら、俺にもできるだろう。

エルダ婆さんの助けになれるかもしれない。



そんな事を考えつつ、外を眺めていたら、看護婦さんの一人が話しかけてきた。

くすんだ長い赤髪、気弱そうな女性だ。

名前はアルテシアさんという。



「着替えありますよ?」


「ありがとうございます。頂きたいです。」



図々しいが、これも聞いてしまおう。



「お風呂とかってあります?ここ数日入ってないのと、全身汗と砂まみれでして…」


「あ、えと、お風呂ですか?この病院にはありませんので…」



ダメか…。

やはりこの病院には風呂はないらしい。

ならば水浴び?水浴びをする場所もこの施設にはない。冷たいタオルで身体を拭くしかないか…。



「あの…宜しかったら、うちに来ますか?」


「えっ?」



ちょ、マジか。

どんだけ優しいんだこの人。

願ってもないことだ。下心なしで是非お願いしたい。大事なことなので二度言う。下心はない。


…というかこの人、どこか雰囲気が…。

いや、刺繍の模様も見覚えが…。

もしかしてあの子供嫌いの看護婦の…。



「あの…すみません。貴女はもしかして…」


「はい。エメティカの妹です。」



oh...子供嫌いのあのエメティカさんの妹か…

あの絶対零度の眼差しとは比べ物にならないけど…しかし刺繍が同じ模様ということは、二人が同一親族である事を示す。


それにしても何でこんなに姉妹で違うものなのか…。いや、エメティカさんに伝わると後が怖いからこれ以上は黙っておこう。



そしてここまで来ればオチも分かってくる。



「あの、もしかしてお風呂というのは…。」


「はい。私達の本業は公衆浴場のお仕事でして。」



下心など全く寄せ付けない鉄壁ぶりだった。




人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公『鳥羽(とば) 幽仙(ゆうせん)』が名前に関する記憶を失い、新たに与えられた名前。

だいたい年齢は6歳くらい。

金色の長髪、赤い瞳を持つ美少女(♂)。

現在1戦1敗。


○ヴェレリウス

通称べリス。

ファロイドが入院している病院の院長。

白髪の老婆。

肝っ玉おかん気質。


○アルテシア

くすんだ赤髪ロングの若い女性。

ほんわかしている。

子供嫌いツンデレ気分屋エメティカの妹。

姉妹で風呂屋を営んでいる。


○エメティカ

第4部で登場。

赤髪ロングの若い女性。

気分屋。子供嫌い。

特に夜勤明けは絶対零度の眼差し。

姉妹で風呂屋を営んでいる。

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