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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第1章 異世界生活は分からない事ばかり
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第十二話:子供のケンカ




子供達は5人。

うち1人、目付きの鋭い金髪の男の子がこちらに向かってくる。他4人は外野に徹するようだ。


「やれやれ!『紋なし』なんかに負けるな〜!」

「そんな気持ち悪いロン毛なんかぶっとばせー!」



どうしようかな。

無視すれば殴りかかってくるだろう。開戦前に服従し貢げばいい気になってその後が面倒なことになるのは間違いない。

全力ダッシュで逃げればいい格付けの対象だ。今後も面倒な事になる。散歩に行く度に石を投げられるようになるかもしれない。

勝つしかない、が、今の俺には勝った後が問題だ。子供に怪我でもさせたら、俺はすぐさま危険人物扱いされる。



耐える、か。

耐えることも慣れたものだ。



何度イジメられ、何度殴られたことか。



方針を決定して間もなく相手が殴りかかってきた。

同じ年の人間と殴り会うのは15年ぶりだろうか。

飛びかかってくるのは子供だ。

でも、結構な迫力だ。

子供のパンチとは言え、正直言うと少し怖い。

緊張する。身体が固まる…。

でも、今は殴られるのが最善…。

しかたない、一発くれてやろう。

下を噛まないように歯を食い縛る。


〈ゴッ!〉


相手のストレートが左頬にクリーンヒットする。これが子供のパンチ?なかなか重い一撃だ。相手は間髪いれず相手はボディーを打ちにかかる…が、次は入れさせない。今の一発で緊張もほぐれた。目は拳を捉えている。


ボディーがみぞおちに入る前に、相手の拳を手のひらで止める。(はじ)く。受け流す。その後もストレート、裏拳、ボディーと、子供にしては様々な拳が繰り出されるが、そこまでフェイントはない。そしてスピードも体したことはない。対応は容易だ。


次第に蹴りも混ざりだした…が打ち合いの度に相手の足の長さ以上の距離を空けているので不格好で威力不足だ。自分のキックでよろけている。キックは繰り出す側の脚力や体幹筋がなければ話にならない。


強いて言うなら…この長い髪を捕まれないように立ち回ることだろうか。まぁ捕まれて毟られたら流石にたまらないので、その時は相手の髪も頂くけど。フェイントの本命はこの髪だと見て対応しよう。



次第に相手の息が上がる。

技を繰り出す方が多くの体力を使うものだ。

俺は技を繰り出さないが、常に距離を空けて動き回らなければならないので多少は疲れる。それでも相手よりも無駄なく省エネに動けているつもりだ。


打ち合い…ではなく一方的な打ち込み…もといスパーリングが続く。喧嘩をふっかけた相手としては引くに引けないのだろう。肩で息をしながら、それでも俺に向かってくる。

周りは…皆リーダーを心配そうな目で見ている。


ここで俺が持久戦を勝利して曖昧な結果に終わらせたとしても、目の前の男の子のメンツは丸潰れだ。それはそれで相手としては面白くなく、また復讐に来るだろう。



仕方ない…タイミングを見計らって…



「ごめん。ダメだ。僕の敗けだよ。」



降参することにした。

すると…



「ハァ…ハッ!あぁっ!?お前、逃げるのか!!」



お決まりのセリフだ。続けてみよう。



「逃げるんじゃなくて、勝てそうにないから降参するんだよ。君は強いね。さすがだよ。今後いっさい、君の仲間には手を出しません。」



そういうことにしておこう。

手を出したのはお前らだが。


すると男の子は満足そうな顔になり



「いいぜ!…ハァ…ハァ…!お前!名前は!?」



と聞いてきた。

ふむ。名乗ろうか。



「ファロイドだよ。」



「今日はやめだ!お前のことっ!…覚えておく!」



「君の名前は?」


「俺か…?俺は『バルトラ』ってんだ!」


「『バルトラ』…いい名前だね…さぞ強い男になりそうだ。」


「てめぇ…っ!…まだやるってのか!」


「いえいえ、冗談。『バルトラ』。強き男の名前、覚えておきます。では僕はこれで。」



すれ違い、相手を振り返らず帰路につく。

後ろで仲間に「大丈夫?」と心配され、「どーってことねーよ!俺の勝ちだ!」と高らかに勝ちどきを上げる声が聞こえる。


相手の完全勝利…とは行かないまでも、苦戦して勝ち取った勝利を演出し、男の喧嘩の引き際を演出してあげた。こういう名脇役がいるからこそ、目の前のバルトラはリーダーを張っていられる事を感謝してもらいたい。


こうして俺の異世界での初戦は黒星となった。

だが足取りは軽い。

男の喧嘩はこういう清々しさがあるべきだ。

俺の経験したイジメは違ったが。


バルトラには何だかんだ言って感謝している。

さっきの、湖畔端を歩いていたときのような憂鬱な感情はもはやなく、頭の中はいつになくスッキリしている。

今日はいつも以上にご飯が美味しく感じそうだ。




病院に戻る頃にはお昼をとうに過ぎ、日も傾いていた。

人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公『鳥羽(とば) 幽仙(ゆうせん)』が名前に関する記憶を失い、新たに与えられた名前。

だいたい年齢は6歳くらい。

金色の長い髪、赤い瞳を持つ美少女(♂)。

イジメられることに関してはプロ。そんじょそこらのいじめられっ子よりはイジメられている自信がある。

介護職員歴4年。利用者に殴られた経験は数知れず。


○バルトラ

ファロイドにつっかかってきたやんちゃな男の子。

この村には珍しい金髪。年齢は8歳くらい。

子分を従えている。

年のわりに、人間の世界は階級社会であり第一印象が大きいということをよく分かっている…気がする。


○子供達

バルトラと一緒にファロイドを尾行していた。

バルトラをリーダーとしているようだ。

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