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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第1章 異世界生活は分からない事ばかり
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第十四話:風呂は命の洗濯




21時。

夕食を終えた俺は、アルテシアさんに教えてもらった場所に行く。今日探検した場所とは反対の方向にある、他の家よりも一回り大きな建物だ。煙突からはモクモクと煙が上がっている。the 銭湯という感じではなく、外見はあくまで普通の家だ。露天風呂はなさそうだ。


夕方は特に混雑し、農作業を終えた男女で賑わうそうだが、今はとうに営業時間を終え、入口には物寂しげな雰囲気が漂う。


人気はないが、それでも俺は裏口から入る。

この白い甚兵衛のせいである。

通常、この白い甚兵衛を着る者の一人「奴隷」は風呂に入ることすら許されていない。しかし、同じ服を着た俺が入浴することは、やはり都合が悪い。俺が入浴するにあたり、アルテシアさんの出した条件の一つだ。もちろんこの制度に関しては今日の一件で把握できたため、了承した。

裏口でドアをノックする。



「ファロイドさん?入って入って!」



アルテシアさんの声だ。家に入る。


「お世話になります。」



思えば他の人の家に入るのは初めてだ。

しかも女性の家。

俺にとってはこんな些細な事も敷居が高い。

だが、どうやら1階部分は全て入浴施設になっているらしい。居住空間はない。


奥へ進むと、姉のエメティカさんが俺を見…た瞬間に嘔吐物でもみるかのような目付きに変わった。

悪かったね全身砂埃まみれで!

悪かったねここ3日風呂入ってなくて!

どんだけ俺のこと嫌いなんだ…

エメティカさんはそそくさと2階の住まいに去っていく。



「ごめんなさいね…姉さん、今日はちょっと機嫌が悪いみたいで…」


「いえ、いいんです。慣れました。」



この姉妹、どちらも綺麗な顔をしているのに、表情1つでここまで違うとは…やっぱり笑顔って大事だな…。


ちょうど入り口とは逆側に裏口はあり、風呂場はすぐ近くだった。ちゃんと男湯女湯別れているようだ。今日はもう男湯は抜いてあるということで、特別に女湯で入浴させて貰える事となった。いぇい。

まぁ客は俺一人である。全く興奮すらしない。

…ここでザバーンと飛び込むのがお約束だが、俺は例え最後だろうと良識を忘れないのだ。まずは身体を流して…


勿論シャワーなんてないから、桶で1回1回湯船からお湯を汲む。ただ子供の筋力で持ち上げられるお湯の量はちょびっとだから、何度も何度もお湯を汲んでは頭にかけ、お湯を汲んでは身体にかけ…疲れる!


お、石鹸があるな。

木箱の中に入っているのは…アロエだ!

潰したアロエが入っている。

現代でも美容効果が高いとされているアロエにこんなところで出会おうとは。さっそく手に取り、チュルチュルと身体に着けてシャカシャカと手で身体を洗う。アロエのいい臭いに包まれる。


この膝まで伸びる長い髪もよく洗っておこう。

ってかここまで長いとどう洗っていいかもよく分からない。何より洗うの面倒だ…。


シャカシャカシャカシャカ…ザバー


髪は…どうすりゃいいんだ。

とりあえずまとめて、束ねて、頭の上に乗せて…重っ!


さ、湯船に入りますか。

湯船の広さは8畳ほど。案外広い。お湯の温度は38℃くらい。多少ぬるいのは仕方ない、火は落としてある。入れること自体に至極感謝だ。


あぁ…

気持ちいい…

これだ…この感じだ…

疲労が、ストレスがお湯に溶け出ていく…

満たされていく…幸せだ…

「風呂は命の洗濯」とはよくいったものだ。

やはりお風呂は人間に必要だな。



結局、1時間ほどお風呂を満喫してしまった。

アルテシアさんごめんなさい。

何せ久しぶりだったもので。


身体をタオルで拭いて…服を着る前に2つめの条件を終わらせる。それは「風呂掃除」だ。通常より1時間以上も閉店を待ってくれているのだ。それくらいはやらないと。


ヘチマのタワシを使って、壁、椅子、湯船、床…丁寧に垢を落としていく。自分の家の風呂とは違い、1日何十人も入る風呂の汚れはおぞましいものだ。まぁ俺は仕事柄、そういうお風呂を掃除し慣れている…が、洗剤が存在しないのは辛いな…。時間がかかってしまった。


湯船は完全にお湯が抜けるまで、まだ時間がかかりそうだ。とりあえずそれはアルテシアさんに引き継ごう。


服を着て、脱衣所を出る。

この風呂上がりのかったるい感じも懐かしい。

牛乳が欲しいところだ。

アルテシアさんに引き継いで浴場を後にした。



頭上には夜空が広がり、その中心、空の一番高いところに白い月が鎮座している。思えばこの世界に来てから初の夜散歩だ。



ところで。

知っているだろうか。

星座とは地球上で見るからこそ『星座』なのだと。

ここが地球ではない他の惑星なら、星座はこの形ではない。星座に点在する星の距離は実はバラバラで、地球から平面的に見ているから星座の形を成しているに過ぎない。

例えば地球と火星くらいなら大差ないが、地球とアンドロメダ銀河のどこかの星で見る星座はまるで違うものとなるのだ。


知っているだろうか。

星にも寿命があり、いつかは消えてしまうのだと。

星は基本的に年を取るに連れて赤やオレンジ色となる。

そして、最期は消えて地球から見えなくなる。

オリオン座で例える。

ベテルギウスは前の世界でも既におじいちゃんの星だ。

リゲルは青くて若い星。しかし、リゲルは青くて非常に大きい星だから長生きできないとされる。

予想寿命にして数千万歳だったかな。

ベルトの位置にある三ツ星もそうだ。

星は基本的に青い色の星ほど速く年を取ってしまう。

リゲルや三ツ星はあと数百万~数千万年でオレンジ色になり、赤くなり、大爆発を起こして地球からは見えなくなってしまうのだ。


そしてこの世界の星は…。

見たこともない星空だ。

見たこともない形の星座だ。

北斗七星やカシオペアを探すが見つからない。

オリオン座すらも(かたど)れない。



これらの推測から分かることは2つ。

この世界は『超時空の彼方にある地球とは別の星』もしくは『数千万年あるいは数億年先の未来の地球』だということだ。



だが、ここが地球であると言える証拠があった。

夜空に浮かぶ『月』である。

どんなに超時空の彼方にある、地球と似通った環境の星だろうと、パラレルワールドのような「そのまんまコピー」でなければ絶対に共通しない証拠。それは

『鏡のような月の海が綺麗なウサギの形をしている』

ということだ。


だからこの世界が絶対に地球であることが分かる。


つまり俺の予測では、この世界は

『数億年先の未来の地球』

もしくは

『数億年先の未来の地球のパラレルワールド』

と考えられる。



他にもじっくり空を観察すれば色々分かる。

例えば北半球に位置する日本は東から太陽が昇り、西に沈む。太陽が一番高くなるのは南に位置する時だ。物件選びとかで『南向きは日当たりがいい』と言われる所以(ゆえん)がこれだ。

だが南半球、オーストラリアでは太陽が一番高くなるのは北の空だ。東から昇り北の空を通って西に沈む。つまり南半球では北向の物件の方が日当たりがいいのだ。


そして、ここは東から日が昇り南を通って東に沈む。

つまりここはパラレルワールドであろうがなかろうが、『数千万年以上未来の地球の北半球』ということだ。




しかし、未来の地球、ねぇ…。



この世界の地図は、ユーラシア大陸くらい大きなドーナツ状の島が1つあるだけだった。


前の世界の知識では、『プレートテクトニクス』により、全ての大陸は2億年後にくっついて、『超大陸アメイジア』を形成すると言われている。

元々、前の世界の南アメリカやアフリカもくっついていたものが別れたもので、地面は常に動いているのだ。昔全ての世界が1つの大きな島『超大陸パンゲア』を形成していたことはよく知られていることだ。


それでも超大陸『アメイジア』の予想図はオーストラリアがユーラシア大陸に衝突してたり、アフリカがヨーロッパにめり込んでたりと複雑な形をしていたんだけど。

こんなキレイな形に大陸が収まるはずないのだが…。



ふむ…。



結局結論は出ず、か。




長いこと見ていたら、せっかく暖まった身体がすっかり冷えてしまった。早く帰ろう。



人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公『鳥羽(とば) 幽仙(ゆうせん)』が名前に関する記憶を失い、新たに与えられた名前。

だいたい年齢は6歳くらい。

金色の長い髪、赤い瞳を持つ美少女(♂)

地学を得意とするが文系の学校卒。


○アルテシア

鮮やかな赤髪ロングの若い女性。

ほんわかしている。

子供嫌いツンデレ気分屋アインの妹。

姉妹で風呂屋を営んでいる。


○エメティカ

第4部で登場。

赤髪ロングの若い女性。

気分屋。子供嫌い。

姉妹で風呂屋を営んでいる。

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