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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
後悔の航海
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第百七話:(閑話)意見の相違



話は少し遡る。

ファロイドが出航してから1ヶ月のこと。

とある国では、ある異変が起きていた。


どこか調子が悪い気がする。

何故か頭が冴えない気がする。

気だるい感じがする。

身体を動かすのが億劫な感じがする。


本当に小さな異変だ。

感じない人は感じない。普段通りの日常だった。

だが感じる人は確かに感じる異変だった。

気弱な人や感受性の高い人、人見知りな人、臆病な人は特にそう感じる人が相対的に多かった。

また、国の政治の中心である城に向かうにつれ、何らかの異変を感じ取る人間の比率は多くなったという。


この国はカトラ皇国。

尖った屋根、白亜の壁、豪華な装飾。

この世界の贅沢を集めたような豪華な建物。

政治の中心であり国力の象徴であるカトラ城。

その一室。


窓もない真っ白な空間。

ここは選ばれた人間しか入ることができない。

そこに置かれた大きな円卓。

等間隔で並んだ12個の椅子。

そこに等間隔で座る3名の男が、1人は険しい顔で、2人はどこ拭く風という顔で座する。


異変の中心はそこであった。


円卓に座する特別な人間とは誰か。


1人はカトラ皇国次期皇帝「ラキ」。

金髪青眼の美青年であり、特記戦力の1人。

『キタマゴタケ』の亜人。

その美貌は、今や般若の面と化していた。


もう1人は荘厳な城に似つかわしくない貧相なボロ切れを着た、国立学園園長にして孤児院院長。

茶髪混じりの白髪で赤眼、無精髭の浮浪者。

その名をヴォルバタ。同じく特記戦力の1人。

アマニタ一族『フクロツルタケ』の亜人。

彼はカトラ皇国の一角『貧民街ギャオ』で、あろうことか貧相な暮らしをする人たちを興味本位で見学し、結果として悪い大人に追い詰められていたファロイドたちを救出し、多くの孤児院仲間や国立学園の学生の衆目の中、ファロイドを公開処刑し、過度すぎる懲罰を与えたのだった。


そしてもう1人はファロイドがラカタへと旅立ったことを報せを伝えに来た男。

錆びた金色の髪、白い肌。白い燕尾服を着る男。

顔だけ見ればラキとうり2つ。

違いがあるとすれば綺麗な金髪のラキに対して、ややくすんだ色をした金髪と、青いサファイアのような瞳のラキとは違う、ルビーのような赤い瞳のみ。

皇帝ラキの影武者であり、実質の影を演ずる者。

その名を『サブジャンクリア』。

特記戦力のナンバー3。

キノコの亜人にして最強種アマニタ一族。

そのNo.3『Amanita Subjunquillea』

『タマゴタケモドキ』の化身。



さて、そんな3人を囲う空気は、決して穏やかなものではない。ラキはかなり怒り心頭だった。何故ならヴォルバタのしたことは、全て非人道的であり、無論自分が許可した行為ではなく、そしてファロイドのことを思っての怒りだからである。



長い沈黙を破ったのはヴォルバタだった。


「おー、怖イ怖イ。イイ面構えだァ。」


「ヴォルバタ…お前…自分のやったことがどれほどのことか、分かっているのだろうな…!」


「エエ、そりゃアもちろん。」


「ならば!」


「ただねェ、皇帝陛下。報告の通り、興味本位で貧者を覗くのはどうか、ってもんですよ。アソコはお遊びの公園じゃアない。お化け屋敷を覗く感覚で入っていい場所じゃア無い。税金で飯食って、大人に保護されて、学びを乞う分際でしていいことじゃア無いんでさァ。」


「それは認める!だが、やりすぎだ!子供に対して公開処罰など、本人の尊厳を欠く行為ではなかったのか!?」


「エエ。ですが他の子供たちにはしっかりと伝わったんじゃアないですかねェ。あの日以来、授業をサボりがちだった子供が真面目に登校するようになったり、孤児院で奉仕を怠けていた子供がしっかり奉仕に励む様になったらしいですよォ。」


「そのために…あの子たちを犠牲にしたってのか!」


「何事にも犠牲はつきものでショウ?それに…」


「それに?」


「ファロイドは不幸を望んでいた。」


「…」


ラキが閉口する。


「ファロイドは生粋のアマニタ一族でさァ。 彼はよく分かってる。不幸を見ることが、不幸を感じることが、受難に直面することが、不遇を受けることが、不運に苛まれることが、アタシ達『アマニタ一族猛毒種』としての能力をより強くする、ってことを。」


「何故そう言える。」


「だって彼、公開処罰の時、笑ってましタし。」


「………。」


「間違いなく彼はコッチ側の人間でさァ。自分の不幸で笑顔になれる人間はそうはいない。呆れから来る笑いの奥に、罰を受けることに(よろこ)びを感じている笑顔が見て取れる。」


「……。」


「彼は強くなりますよォ。良かったじゃアないですか。強いアマニタ一族の「採集」と育成がアナタの目的のひとつデショウ?」


「お前…!」


「それに、彼は以前の世界では『争いを知らない』『安全な』世界からきたようでスし?」


「………。」


「多少の試練を与えてやった方がああいう『お子様』は強くなるってモンでさァ。」


ラキは答えない。

ラキは第一次世界対戦の欧州の出身。

ヴォルバタは中世ブリテンの出身。

それぞれ不安定な世界情勢の最中に生まれ、明日の命の保証がない不安を感じつつ生きてきた。

だがファロイドは違う。

戦争を経験したことがない。

食糧危機も経験したことがない。

船旅で命を落とす人間は殆どいない。

そんな世界、そんな国から来た。

では、この『平穏でない』世界でそんな温室育ちの人間が逞しく生きていけるだろうか?特記戦力として、最強の亜人として敵を殺し、戦い抜けるだろうか?答えは否である。

それはラキも勘づいていた。

今回の懲罰は間違いなく『やりすぎ』だ。

しかし、それによりファロイドが成長する機会を得たのは事実。時間が無いのだ。ファロイドが皇国国立学園を卒業する10年後には、シンクバトラ王国壊滅事件の規約により、ファロイドは一時的にラカタ王国の所有物となってしまう。

ラキはラカタ王国を信頼していない。

あの国は悪い噂が多い。

万が一のことがあっても、ファロイドが利用されないように、()()()()()()()()、この10年間である程度精神的に成長してもらう必要がある。いずれはラキ直々に課題を与えるつもりではあったが…。


「他の子供たちはどう考える?ファロイドは転生者で、中身は大人としてのメンタルを多少は持っているかも知れない。ただ、他の子は違う。純粋な子供だ。心の傷となってしまったら、取り返しがつかないぞ。」


ラキの懸念はそこにあった。


「他の子供たちですかぁ?そりゃア勿論、ファロイドの()()ですよ。これでもファロイドには配慮したつもりなんスけどねェ。」


保険と切り捨てやがった。

バルザやルザル、クヴァという、他の子供はファロイドのメンタルの支えでしかないと。


「今の言葉、教育者としては失格だな。」


「そう怒りなさんな。皇帝陛下。ちゃんとアブルプタには加減するように根回ししてありまスから。船にも学のある人間を乗せてる。」


「俺が言いたいのはそういうことじゃない。子供たちに何かあったら、責任は取ってもらうぞ。」


「『()()()()()()()』面白いことを言いなすって。アマニタ一族の亜人、しかも上位猛毒種が二人も乗った船で『何か起きないわけない』デショウ?クックック…」


やはり、コイツは壊れている。

そう感じたラキであった。

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