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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
後悔の航海
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第百五話:船旅は続く


島に着いて8日目の朝。

昨日は夜まで宴だった。

何日ぶりだろうか。あんなに食べたのは。

何日ぶりだろうか。魚以外を食べたのは。

何日ぶりだろうか。揺れない場所で寝たのは。

何日ぶりだろうか。寝坊することができたのは。


寝ていたところを手荒く起こされる。

周囲を見渡すとクルーは誰一人としておらず、食べ物や物資を運んだり、マストを調整したりと、せっせと出航準備をしていた。

これでも勘弁してくれた方なのだろう。

日は水平線より10cmほど昇り、普通なら漁を終えて魚を捌き終わる頃合だ。

寝ているのは俺たちだけだった。


3人を起こし、思わずまた仰向けになる。

ああ。いい風だ。いい日差しだ。

こんな中、二度寝することができたら、どんなに幸せだろう。身体が溶けて地面に吸収されてしまうのではないかというほど、身体は重かった。


しかし、船はそんな俺らを待ってはくれない。

もう二度と乗りたくない船に、(なまり)のように重い足取りで戻った。


最後の小舟で乗船すると、既に出航準備は整っていた。錨が上がり、船が動き出す。

沿岸では住民が大手を振って白鬼が率いる漆黒の海賊船を送り出してくれていた。

ある意味シュールである。


出航して最初の仕事は積み込んだ物資の整理と武器のメンテナンス。

ここ数日は漁と洗濯と掃除がメインだったから、船に積んであった刀剣類は錆びてしまっていた。

子供たち4人でせっせと研ぎ直す。


それが終わったら甲板に上がって洗濯物を干す。

昨日砂まみれになったのだ。俺達も衣服を洗い、ロープに吊るして干した。

そして昼ごはんを食べて小休止。

暖かい日差しに温められた甲板に横になる。



今日は結構スピードが出てるな…。

マストに強く打ち付ける風の壁を感じる。

ただ暖かい日差しのお陰で寒くはない。


クヴァはもう寝てた。

バルザもルザルもウトウトしている。


ああ、日差しの温もりが気持ちいい…。



結局、夕方まで寝ていたらしい。

荒くれに水をぶっかけられて起きた。

温まっていた身体は一瞬にして冷める。

と同時に塩分混じりの水が日焼けして真っ赤になった肌に刺さる!痛い!

子供たちは身悶えていた。

そういえばバルザやクヴァは大分黒くなったなぁ。

ルザルは色白なのでそこまで焼けていないが、それでも大分「海の子供」っぽくなったと言えよう。

それに対し俺は真っ白の肌のままだった。

俺の場合は色白とかそういう問題ではない。

そういう種族だ。

どんなに日焼けしても明日には再生して元通り。

殆どのクルーが真っ黒に焼けている中、俺は一際目立つ存在のままだ。まぁそれでも俺の事を色白とかひ弱とか弄る奴はいない。他にも真っ白な奴がいるからだ。白鬼の船長ことアブルプタ。彼も種族的に真っ白なのである。


口には出さないけど、多分気づいているだろうな…。

一切日焼けしない純白の肌と、ルビーの様な赤い目。

内情を聞いてくることはしないけれど、薄々皆勘づいている様だった。きっと子供たちも気づいているのだろう。『何かがおかしい』と。

それでも変わらず接してくれる事に感謝しなきゃな。


夕まづめの魚を手早く加工し、調理場へ運ぶ。

調理場から出てくる料理はとても豪華なものだった。


なんと、レモンと豆と卵があるではないか!!

レモンなんて、カトラの広告を出て数日と、昨晩の宴を除けば殆ど食べていなかった!干物やオイル漬けにレモンと豆が足されるのである。これほど幸せなことはない。1人1切れほどだがこのペースなら数日はもつらしい。

魚の備蓄もあるし、やっと船旅は軌道に乗ったように思えた。



次の日。

いつもの様に漁や掃除、洗濯を終え、体力も余っていた俺たちは、久々に『武術』を練習することにした。いつぞやの、孤児院の屋上で行ったスローモーションでのトレーニング。本当に久しぶりにやったからお互いに動きがぎこちない。バルザが島からちゃっかり持ってきた太めの枝で剣術も練習する。孤児院や学園とはちがってここは揺れ動く船の上。手合わせではバランスが取りずらい。そんな状況でも何とか感覚を取り戻そうと、皆必死だった。



次の日も次の日も、学校で習った武術や剣術を練習していく。学校で習ったことは多くないし、型も少ない。時として興味を持った大人たちに「ああじゃない」「こうじゃない」なんてちょっかいを出され、より戦闘的な知識と動きを身につけていく。

大人たちの中には学園を卒業した人がいて、武道に関しては幸いにも「先生」と呼ばれる人もできた。


不漁の日など体力を温存する日は、勉強の復習を行う。これもアスキャさんが隙を見て教えてくれるようになった。アスキャ先生は時々世界情勢や他の国々のことも子供に分かりやすいように教えてくれる。メチャメチャためになった。

そんなアスキャ先生にはお礼としてたまに魔力を分けてあげた。お世辞にも覚醒していない俺はそんなに魔力量が高いわけじゃない。微々たるものだが、この船で魔力を持つ人間は数人。こんな俺でも貴重なのだ。



足腰は漁で鍛え、握力は雑巾絞りで鍛え。

マスト登りで腕を鍛え。皿運びでバランス感覚を鍛え。

時には手すりに登って決闘ごっことかしたりして。

学校には行けないけれど、充実した日々を暮らせるようになったと思う。気持ちにも余裕ができ始め、船の上の生活にも慣れてきた。



時々無人島にも寄港して、小島に自生する食べられる草木や果実の収集に当たる。いつぞやの薬草採集の知識が生かされ、カゴいっぱいに薬草を積んで帰った時には、クラプラさんからご褒美としてご飯大盛りの権利を貰った。


ある日の寄港では鳥の狩りを行った。

弓はないから石で。まぁ当たらないの何の。

一番最初に当てたのはルザルだ。

冷静沈着なルザルは射撃の適性があるらしい。

俺は『弓術:1』だったかな?

どうにもサバイバルゲームでフレンドリーファイアしたトラウマが拭えないんだよなぁ。

撃ち落とした鳥は1匹、しかもカラスみたいな鳥だったけど、大人には内緒にして食べようと、捌いて流木を燃やして食べたら、煙でバレた。

怒られたなぁ。

狩猟したら必ず年長者に報告。

年長者の許可を以て食べる権利を持つ。

それは子供だけではなく、大人も。

誰かしらに必ず報告する決まりとなっていた。

因みにカラスは不味かった。


他にも食べられるものは何でも食べた。

ウミガメ、あざらし、サメ、カモメ、カラス。

飢えを凌ぐために、何でも。

寄生虫が疑われるものや加熱しないと食あたりするものは調理場で火を通して貰った。この船は一応火を使うことはできるけど、薪が尽きれば終わりだし、何より竈の数が限られているからクルー全員に焼き魚は配れない。

だから殆どは塩漬けされた干し肉と、魚の干物と、オイル漬けと、たまにビスケットになるわけだ。

野菜や豆、フルーツなんて滅多に出てこない。

海藻のスープも2日に1度くらいかな。


栄養不足は否めないな。

干物にもいい加減飽きてくる。

焼き魚が食べたい。

冷たい干物よりホカホカ焼きたて。

んー。

どうやって焼けばいいんだ…?


んー。


そうか!

囲炉裏!


タライに砂を敷き詰めて、その上に炭を置けば…!


今度クラプラさんに相談してみよう。




そうして1ヶ月と半分は過ぎようかと言う頃。

ちょうどラカタ王国まで半分の位置にある大きな島の漁港に立ち寄ることとなった。


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