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第45話 オレは処刑されてもおかしくない存在なんだ!

 隊長席に腰掛けたフラウさんが以前と変わらない穏やかな目でオレを見ている。


「魔物の悪意を、自分への攻撃に変える必要はない」

「?」


 言葉の意味を拾いきれず思わず首を傾げる。

 フラウさんは気にした様子もなくゆっくりと言葉を重ねた。


「みんなと一緒に、夜に染まった気分を乗り越え――暁を迎えに行こうじゃないか」

「??」


 やっぱりよくわからない、優しいのは伝わる。

 でも内容が頭に入ってこない。

 どう解釈すればいいのか迷って、助けを求めるように隣を見上げる。


 金城師匠。

 そのさらに隣には赤里ちゃんと白亜ちゃんの姿もあった。

 雫以外の魔女全員が揃っている。

 彼女たちがオレの傍に居てくれる、それが妙に安心感をくれた。


 ――言葉の意味はわからないままなんだけど


「隊長、わざわざ難しく言い換えないでくださいな」


『メッ』と可愛らしい視線で金城師匠がフラウさんをたしなめる。

 この場の雰囲気は絶対悪くしないという意思がはっきりと伝わってくる。


 ――それも当然か。


 日本全域を巻き込んだ魔物騒動はひとまず収束した。

 今は状況報告のため全員がこの場に集められている。

 青子さんは武器のメンテナンスに追われ休む間もなく働いているらしい。

 雫はまだ入院中だが、回復の魔女の手当てで一日もすれば戻ってくるという。


 あれだけの規模の騒動にもかかわらず、被害は驚くほど少なかった。

 オレがいなくなった直後に発令された緊急警報、全国規模での即応体制。

 そのすべてが噛み合った結果だ。


 ――本当に、この人はスゴイ。

 オレとは大違いだ。


 自然と下を向いてしまっていた。


「ほら、せなさんが困っているではありませんの」


 勘違いした師匠がそっとオレの肩に手を置く。

 つられて顔を上げるとみんながこっちを見ていた。


「隊長らしいことも、一つくらいはしておきたくてね」


 穏やかに笑うフラウさん。

 すると間髪入れず金城師匠がため息まじりに続けた。


「この人、せなさん相手に全く戦いにならなくて拗ねているんですわ」


 その言葉に赤里ちゃんと白亜ちゃんがくすりと笑う。


「そうなの? あの時はオレのために手加減してくれてるのかと思った」

「……」


 フラウさんが固まる、一拍遅れてこっちにいた魔女三人が揃って吹き出した。


「嘘をつかないせなくんの言葉がこうも刺さるとはね」


 肩をすくめ、やれやれといった様子で小さく笑った。

 その空気を区切るように赤里ちゃんが口を開く。


「あの、隊長。騒動については一通り報告は終わってますけど」


 最初に笑いを引っ込めたのは彼女だった。


「ああ」


 フラウさんの表情がすっと引き締まる。


「みんな、ありがとう。本当によくやってくれた」


 穏やかな声。

 一人ひとりを見渡すように視線を巡らせて――

 最後に、オレへと向けられる。


「もちろん、せなくんもだ」

「なんで……オレはみんなのことを傷つけたのに」


 操られていた間の記憶は霧がかかったみたいに曖昧だ。

 けど、断片だけははっきり残っている。


 全国の魔女たちが人々を守るために動いていたこと。

 フラウ隊のみんなが核の魔物を倒すために最前線で戦っていたこと。


 ――じゃあ、オレは?


 魔女を傷つけた。


 違和感はあった。

 おかしいと気づける瞬間も、きっとあったはずだ。

 それでもオレは、何もせず操られて、気づけば牙を向けていた。

 仲間に。

 一緒に戦うはずだった魔女たちに。


 フラウさんが言っていた、魔女に危害を加えた者は例外なく処刑されると。


 なら――


 仲間を傷つけた『魔物』のオレは、どうなる?


 答えなんて考えるまでもない。

 あの戦いもいつも通り全部配信されていた。

 オレを止めるためにリスナーたちも声をあげてくれたのを知っている。

 言葉があれほど温かいものなのだと教えてくれた。


 けどあの映像を見て、もう一度オレと一緒にいたいなんて思うわけないよな。


 ――だって、いつ牙を向くかわからない『魔物』だぞ?


 考えが次々に浮かんでは消え、まとまらないまま頭の中をぐるぐると巡る。


 けれど、それを口にすることはできなかった。


 言葉にしてしまえばきっと終わる。

 今までの生活も、関係も、全部。

 だから。

 処刑されるなら――せめてその言葉は。

 オレ以外の誰かの口から聞きたかった。


 いつのまにか指が震えていた。

 それが腕に伝わって足へ、やがて全身へと広がっていく。

 止めようとしても、止まらない。


 恐怖。

 悲しみ。

 後悔。


 ぐちゃぐちゃに混ざったそれがオレの中からじわじわと侵食してくる。


 視界が歪む。


 それでも歯を食いしばった。

 涙だけは、絶対に流さない。


 ――オレにそんな資格はない。


 人の負の感情から魔物が生まれるのなら、魔物の負の感情は何を生むんだろう。

 ふと、どうでもいい考えが浮かぶ。

 答えなんて出ない問いにしがみついて、現実からほんの少しだけ目を逸らした。


「あれは魔女同士の喧嘩だよ。前も雫くんとじゃれ合っていただろう、その延長さ」


『緊急警報を鳴らされたときはさすがに呆れたがね』と口元だけ笑っている。


「その程度で済む話じゃ……」

「その程度なんだよ、せなくん。魔女も人々も君をどうこうするつもりはない」

「……」


 信じられるはずがない、疑うように周囲を見る。

 けれど誰も否定しなかった。

 他の魔女たちも、静かに頷いている。


「そんなせなくんにはまだ仕事が残っているんだよ」


 ふっとフラウさんの声色が変わる。

 嫌な予感しかしない、この流れは知っている、いつものパターンだ。


 オレがピンチになるやつ。

 ……今回はすでに断頭台に立たされている状況かもしれないけどな。










「一週間後、武道館でライブをしてもらうよ。もちろんみんなの前に立ってね」

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