第39話 ほ�えましい繧ールfトー医のはiなk翫
とあるカフェ、私の目の前で仲良く並んで座っている雫と白亜ちゃんを眺める。
その視線に気づいた雫と目が合った。
「赤里先輩、どうかしました?」
「二人はいつの間に仲良くなったのかなと思ってたの」
私たち三人は個室の席でお喋りに興じていた。
魔女だけで外に出ればどうしても目立ってしまう。
なのでフラウ隊長おすすめのお店を選んだのだが、どうやら少し背伸びしすぎたらしい。
店内はすべて個室という珍しい造りで、落ち着いたモダンな空気に満ちていた。
学生の私たちにはほんの少しだけ敷居が高い。
けれど座席や調度品はどれも洗練されていて、そこに身を置いているだけで少しだけ大人になったような気分になる。
すぐ隣には全面ガラス張りの窓があり外の光を惜しみなく取り込んでいる為、個室でありながら不思議と閉塞感はない。
向かいに座る二人もそんな空気に当てられたのかもしれない、普段ならス〇バでは頼まないような飲み物をそれぞれ注文していた。
雫が目の前のコーヒーカップに手を伸ばし、ゆっくりと口元へ運ぶ。
机に置かれていたときに覗いた中身は砂糖もミルクも入っておらず黒いままだったはず。
……この子、ブラックなんて飲めたかしら?
静かにコーヒーカップへ口をつけたその瞬間、
「にがっ!」
口に含んだそれをどうにか吐き出すことだけは堪えたものの、雫はたまらず舌を出し見るからに苦そうな顔をした。
見かねた白亜ちゃんがミルクピッチャーを手に取り、遠慮もなくコーヒーへとクリームを注ぎ込んでいく。
さらに角砂糖までいくつもぽとんぽとんと落としていった。
個室に満ちていたコーヒーの落ち着いた香りが、次第に薄れていく。
―――入れ過ぎじゃない?
「やっぱりそうなると思ったわ。どうせ赤里さんの前だからって、かっこつけたかったんでしょ?」
白亜ちゃんも自分のグラスを手に取る。
「だから紅茶にしとけば良かったのに」
そう言いながら氷の入ったミルクティーをストローでくるりと回す。
氷が触れ合い、涼やかな音を立てた。
彼女がかわいく小さな口で、そっと一口。
「渋いー!」
雫とまったく同じ仕草と表情。
慌てたように小さい籠からガムシロップのポーションを取り出し、そのまま次々と注ぎ込んでいった。
「何してるのよあなたたち」
思わず笑みがこぼれ、そのまま堪えきれずに吹き出してしまう。
口元に手を当てながらくすくすと笑いが続いた。
「もうせんぱーい、笑いすぎですよー」
雫の非難めいた声、けれど声色も表情も柔らかい。
「私もそれにすれば良かったなー」
取り繕うように白亜ちゃんがこちらのグラスを指さす。
そこには私が注文したキャラメルマキアート。
「それ、ス〇バでも飲めるじゃないですか」
雫が口を挟む。
「コーヒーもス〇バにあるじゃない」
私はゆっくりと口をつける、甘さが静かに広がった。
「でもやっぱり上品な味よ?」
『違いがわかるわけじゃないけれど』と心の中で付け足す。
「ところで私、二人に聞きたいことがあるのだけど」
手にしていたグラスを机へ戻す。
コトッと控えめな音が静かな空間にくっきりと響いた。
その音を合図にしたように二人の視線が一度だけ交わり、揃ってこちらへ向けられた。
「なんです? 何か改まって聞くようなことありましたっけ」
雫がわずかに首を傾げる。
その隣で白亜ちゃんも同じ角度で小さく首を傾けた。
私が聞きたいこと、それは――
自分でもはっきりと言葉にするのはためらわれるけれど、最近どこか取り残されている気がする。
そう思うようになったのもせなちゃんが目を覚まさなくなってからだ。
白亜ちゃんが前に出るようになった。
フラウ隊長の動きはどこか読めなくなった。
金城さんも何かを考えている様子なのに、それを口にはしない。
そしていつの間にか、雫と白亜ちゃんは自然に言葉を交わすようになっていた。
変化は確かにそこにあるのに私はそのどれにも関われていない、何も知らされていない。
――だからといって、仲間外れにされているわけでもない。
輪の中心からほんの一歩だけ外れた場所に立っているような感覚が拭えない。
私は胸の奥に溜まった違和感を振り払うように意識して口を開く。
「二人は、隠し事なんてしてないわよね……?」
問いかけた瞬間に、再度二人の視線がぶつかった。
ほんの一拍の間、けれどそれが妙に長く感じられる。
分かりやすいと言っていいほどの動揺。
雫は手元のコーヒーを一気にあおる。
ごくりと喉が鳴った次の瞬間、小さく舌を出す。
どうやら甘すぎたらしい。
隣で白亜ちゃんはストローをグラスの中で回している。
くるくると音が立つほどに、その動きはどこか落ち着きがなかった。
慌てて表情を引き締めた雫が小さく『あ』と声を漏らす。
「もちろんですよ! 私たち描く仕事なんてしてません!」
どこか言い直すような響きだった。
その言葉に白亜ちゃんが訝しげに視線を向ける。
じっと雫を見つめ、何かに気づいたようにはっと息を呑んだ。
「そ、そう、描く仕事なんてしてないわ! 私たちまだ子供だから!」
彼女がよくわからないことを言う。
「……? 大人でも隠し事はダメでしょう?」
「そうですよ白亜さん! 大人でもダメです!」
「えぇっ!?」
非難めいた声を上げる白亜ちゃん、どうやら雫にあっさり裏切られたらしい。
そのやり取りを見ているうちに胸の奥でくすぶっていたものがゆっくりとほどけていくのが分かった。
もし二人が何かを隠していたとしても――きっとそれは私のためなのだろう。
この世界は、どこまでも私たちに優しい。
たとえそれが常に死と隣り合わせのものであったとしても、明るく生きていくために必要なことなのだ。
――そう、人間や魔女にとっては。
なら魔物にとってはどうなのだろう、分かりきった事ではあるが。
人を襲う魔物は問答無用で切り捨てられる。
ふと最悪の光景が頭をよぎるが、すぐに首を振る。
その考えを無理やり押し込めるように消し去った。
……それだけは、あってはならない。
目の前では声を弾ませきゃいきゃいと騒ぐ二人。
まったく……
机に肘を突き、手の甲で顎を支えながら小さく息を吐く。
個室で良かったわね。
そんな私の様子に気づいたのか、雫が思いついたような顔になる。
「そうそう、私たちまだここのケーキ頼んでないですよね」
軽い調子で話題を変える。
それに反応して白亜ちゃんが身を乗り出した。
机の端に置かれていたメニュー表へと手を伸ばしそのまま引き寄せる。
「ここのケーキとってもおいしいらしいの、しかも今回は隊長のおごりなんだって!」
彼女が肩を小さく揺らしながら楽しそうにメニューをめくる。
隣から雫がそれを覗き込む。
私ももう一冊のメニューを開き、ケーキのページへと視線を落とした。
「タルトにモンブラン、チーズケーキ……王道のショートケーキまで。ちょっと待ってください、種類多すぎませんか!?」
「えぇ、どうしよう。これもいいし、チョコも捨てがたいし。あー、悩むわね!」
楽しげな声が重なる。
その穏やかなやり取りを聞きながら、ゆっくりとページを追っていく。
「時間はいっぱいありますし、ゆっくり悩んじゃいましょう」
「そうね。あ、この後はみんなでせなさんの様子を見に行かない?」
「いいわね。素敵なお店があったって、せなちゃんにも教えてあげましょう」
そんな何気ないやり取りのあと。
テーブルの上は甘い香りで満たされ会話も笑い声も途切れることはなかった。
気づけば時間はあっという間に過ぎていて、私たちは満足したまま席を立つ。
そのまま、スカイ号へと帰る道すがら――さっきまでの出来事を誰からともなく思い出しては笑い合った。
せなちゃんに今日のことを全部話そう、きっと私たちの声は届くはず。
そう思っていた。
けれどその日、私たちはせなちゃんの顔を見ることができなかった。
――なぜなら彼女の姿がスカイ号から消えていたのだから。
第39話 ほほえましいガールズトークのはずなのに




