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第34話 白の∴哮縺青の必翫°

 ――こいつ許さん、絶対許さんぞ。


 オレは目の前で雫と戦っている魔物を睨みつける。

 今いるのは見慣れた広場、初めてライブをした場所だ。

 ステージはすでに解体されているので被害が出てるわけではないが。

 思い出をぶち壊そうとする魔物なんて、当然ギルティだよな。


「せなさん、あいつは絶対倒そうね!」


 隣で白亜ちゃんが白い何かをぶんぶん振り回している。


 ……何持ってるんだ、それ。


 でもやる気だけは伝わってきた、彼女の手元をじっと見る。


「それ、メガホン?」


 最近あんまり見なくなったよなそれ。

 オレ生まれてからそんな経ってないけど。


「そう、フラウ隊長が作ってくれたのよ!」


 誇らしげに掲げてくる。

 よく見ると側面に魔石がいくつも埋め込まれていた。

 じゃらじゃらと、やたら主張が強い。


 ……絶対普通のメガホンじゃない。


「白亜ちゃんさ、現場に出てきていいの?」


 雫が魔物と渡り合っているのを横目に話を続ける。

 やる気はありがたいけど念話の役割、放っておいて大丈夫なのだろうか?


「むしろ行ってこいって言われたのよ!」


 白亜ちゃんが胸を張る。


 どうやらフラウさんも白亜ちゃんのやる気に押されたらしい。

 まぁあの人なら何かあっても対処してくれるだろう。

 白亜ちゃんが前に出てくれるのは、素直に嬉しい。


 戦っている姿も、頑張っている姿もちゃんと誰かに見てもらいたい。

 たとえそれが目立たない役割でも、魔女たちの努力には価値があるんだって。

 みんなに届けよう。

 オレは一般の人だけじゃなくて、魔女にも元気を与えられる存在でいたい。

 それがオレの役目……そう思っていれば、きっと大丈夫。


 ―――どうしてだろう、何故かそんな事を考えていた。


「そこのお二人さーん、いつまでイチャついてるんですかー?」


 鋭い金属音とともに、雫の声が飛び込んできた。


 思考が途切れる。

 ボーっとしていたオレの事を白亜ちゃんは気づいてないみたいで、ほっとした。


「余裕そうだなー!」


 雫に対して声を張り上げながら、改めてオレと白亜ちゃんは魔物へと視線を向けた。


 ――カジキ


 上顎が剣みたいに突き出たその魔物が雫と激しくぶつかり合っている。

 刃と刃がぶつかる音が絶え間なく響いていた。

 雫は双剣で攻撃を受け止め、流し、弾く。

 さらには空中に浮かぶ複数の剣。

 同じ形の刃が、彼女の意思に従って舞っていた。

 飛ぶ刃が、四方からカジキを追い詰めていく。


 まるで阿修羅だな。

 六本腕ないけど、やってることはまさにそれ。

 知識が偏ってるなぁとズレたことを考える。


 雫の攻撃は圧倒的だった、連続する斬撃が空間を埋めていく。

 重なり、交差し、逃げ場を塞ぐ。


 だがなぜか—――当たらない。


 カジキの魔物は、そのすべてを紙一重でいなしていく。

 まるでここが海中であるかのよう。

 ほんのわずかな動きで致命の軌道を外していた。

 回避の精度が、異常すぎる。


「技能『危険予知』ね」


 白亜ちゃんの声。


「また防御寄りの技能かぁ、厄介だな」


 うんざりとしたオレの声がこぼれる。

 そろそろ攻撃系の技能くれてもよくない?

 もう倒したあとのことまで考えてるあたり、だいぶ気が早い。


「それってつまり、せなさんの攻撃も当たらないかもしれないよ?」

「ますます厄介だなぁ」


 軽く返す。


 最終兵器みたいな立ち位置なのに、いざとなったら何もできませんでしたはさすがにまずい。

 こいつらはもしかして、オレに対抗するため防御系の技能を持っているのか?

 内側で実は、じわじわと焦りが広がっていた。


 え、顔に出てないよな?


 それがめっちゃ気になって白亜ちゃんを見る。

 当の本人はきょとんと首を傾げるだけだった。


「せんぱーい! なんとかできませんかー!?」


 雫が少しキレ気味だ、まあ気持ちは分かる。


 優勢なのに決まらないのってイライラするよな。

 あいつ我慢ができないからな、このまま続けたら相手に隙を見せることになるかもしれない。


 ただオレが攻撃したとして、避けられたらかっこ悪くないか?


 魔物を殴ってみようという気にならず、そのまま見守り続けてしまった。

 雫が『無視ですか!?』と言ってるがめっちゃ聞こえてる。

 でも今は聞こえてないことにする。


「私がなんとかしてみようか?」


 隣からやけに自信のある声。

 視線を向けると白亜ちゃんがメガホンを肩に乗せて、得意げに笑っていた。

 ふふんとでも言いそうだ。


「なんとかって、それで何する気?」


 問いかける。

 彼女の能力って念話であって、言葉を届けるものだよな。

 それがあの魔物にどんな有効打を与えられるのか皆目見当がつかない。


「よしじゃあ、見せてあげるね――魂源解放」


 白亜ちゃんがメガホンを両手で持ち直し、顔の前へ。

 ぐっと、息を整える。

 次の瞬間、空気が変わった。

 メガホンに埋め込まれた魔石が一斉に光を帯びる。

 白い光が脈打つように強まっていく。

 同時に、彼女自身の魔力も流れ込んでいくのが分かった。

 じわりと圧が増す。


「……っ」


 白亜ちゃんの額に、汗が浮かぶ。


 そこまで魔力が必要なものなのか。


 白亜ちゃんの足が静かに開き、姿勢を整える。

 大きく、息を吸って――


『とまれっ!!』


 声は決して大きくない、けれど。

 放たれた魔力が空気を震わせる。

 見えない衝撃が一直線に走り、カジキの魔物へと叩きつけられた。


 その瞬間。

 魔物の動きがぴたりと止まった、空中で、完全に。

 雫の刃も、同じように空中で止まっている。

 オレも思わず息を呑んで動けなかった。


「ふぅ……」


 時間が、戻る。

 白亜ちゃんが小さく息を吐いた。


「あ、余波で雫さんの動きも止めちゃったかも」


 軽い調子で言うな、それ。


「それより、あいつが動けないうちに早く!」


 白亜ちゃんの声が強くなる。

 オレは即座に踏み出し、手を掲げた。


「―――スペル・オーダー!」


 配信の向こう側へ声を叩きつける。

 リスナー、仕事だぞ!


「なんかオレって最近調子悪いって思われがちだからな、元気だって見せつけてやる!」


 両手に魔力を込める、銀の光が集まる。


「スターライトグラップル!!」

【掴んで離すな栄光を!】


 技名を叫ぶとチャットのレスポンスが一斉に流れ込んだ。

 それを背に地を蹴る。

 一瞬で間合いを詰め、宙に止まったままの魔物の胴体を掴む。

 そして地面へと叩きつけた、地面が震える。

 その瞬間、魔物と雫の止まっていた時間が動き出す。


「どいてください先輩――魂源解放!」


 雫の声が走る。

 次の瞬間彼女の体が淡い水色の光に包まれた。

 その光景は思わず目を奪われるほど静かで、美しい。


「いいとこ見せますよ水双剣《すいそうけん》――」


 構えが、変わる。


「切り刻め、六花鏡蓮《ろっかきょうれん》!!」


 空間に水の鏡が現れる。

 そこへ叩きつけられた魔物の体が吸い込まれる。

 直後、鏡の内側で無数の斬撃が走った。

 見えない刃。

 鏡面が揺れるたびに、確かに刻まれていく。

 逃げ場はない、防ぐこともできない。


 オレは魔物がみじん切りにされそうになる前に慌てて魔力を吸収する。

 いつのまにか白亜ちゃんの隣にいる雫が背後で声をかけていた。


「その魂源すごいですねー」

「いろいろ課題点が多いわ」


 白亜ちゃんは額の汗を拭いながら、雫に答える。


 一回の魔力量が多いこと。

 当たらないこともあること。

 さっき経験した通り、敵味方関係ないこと。


「白亜ちゃんも雫も、みんな強くなっててすごい!」


 オレは二人に駆け寄る。


「そうですね」

「うん」


 短い返事、それでもどこか満足そうだ。


「さて、フラウ隊長に報告しにいきましょうか」


 雫が誇らしげに言う、だが声音は柔らかい。

 お姉さんモードだな。


「そうだな、みんなで美味しいもの食べに戻ろう!」








 ―――凱旋だー!

 第34話 白の咆哮と青の必殺技

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