第32話 三人縺のデーゅは商店街で
「おーい、みんな見てるかー。せなだぞー」
いつも通り頭上に飛ばしているドローンを目の前まで呼び寄せて、ひらひらと手を振る。
「前言ってた通り、今日は白亜ちゃんとのデート回な!」
場所は、とある駅前の商店街。
ふと空を見上げると分厚い雲が広がっていた。
雨になるかもな。
帰るまでに降らなきゃいいけど。
:配信しないって言ってませんでしたっけ?(白目
:いやまぁ助かるんだけども
:おめー人間相手に嘘つかないって言ってなかった?
:予定は未定ってことか
「なんで配信してるかって? ハハッ面白いこと聞くよな、おまえらって」
ほんとこいつらは何を言ってるんだ。
やれやれと、大げさに肩をすくめる。
:面白い事言ってんのはお前じゃい定期
:即落ちニコマか?
:で、誰もツッコまんの?
:うーん、触れてええんかコレ
:デート回なのになんでそこに三人いるんですかね…
「配信してないともし先輩が誰かに話しかけられたら、殻に閉じこもるしかなくなりますしね!」
「あぁ、そういうこと。私と出かけるときは配信の予定はないってはっきり言ってたのに」
柔らかい声音が左右から重なる、雫と白亜ちゃんだ。
耳が痛いことを言われているので聞こえないふりをしよう。
「雫がなんでいるのかはオレにもわからん、というか白亜ちゃんって知らない人と普通に喋れるの?」
じとっとした視線を二人に向ける。
しかし二人は気にした様子もなく。
「私、別に引きこもりじゃないけど? 学校にもちゃんと行ってるし」
「むしろ先輩がレアケースですよ?」
またも同時攻撃。
さすが魔女、連携が取れてるな。
えらいぞ。
これなら二人は大丈夫だなと、オレは親目線でウンウン頷く。
:なんでこいつこんな偉そうなん?
:逃避でなーんか別の事考えてんのやろな
:草
:雫ちゃんがなんでいるのかは結局わからんのww
オレと白亜ちゃんの歩調に合わせて歩いている雫がチャットをちらっと見る。
「先輩がいるところに私がいるのは当然では?」
「こいつがいると、キャラ的に話が進めやすくて助かるんだよなぁ」
「ちょ、ちょっとせなさん、何言ってるの?」
焦った表情の白亜ちゃんがオレの肩を揺すってきた。
雫は余裕の表情で軽く肩をすくめる。
「そういうメタ的発言はよくないと思いまーす」
――雫いじりって一定の需要があると思うんだよな。
:聞かなかったことにしよう
:ところでYOUは何しに商店街へ?
:古き良き時代の商店街って、今や珍しいよな
白亜ちゃんがオレの肩に手を置いたまま――くるりと顔を寄せてくる。
「そうよ。私これから何するか、何も聞いてないんだけど?」
顔が近い!
この子、意外と距離感バグってるな。
クラスメイトの男子に同じことしてないだろうか、お父さんは心配です。
:せなちゃーん、今コロッケ揚がったから食べにおいで!
:余った野菜受け取りにきてくれー
:新しいガチャポン入荷したよ!
チャットを眺めていた雫が不思議なコメントが流れ始めたことに首を傾げる。
「これなんです? 先輩」
『ん?』とオレもつられて視線を向ける。
「あー」
「最近増えたのよ」
横から白亜ちゃんが口を挟む。
「商店街の人たちも結構見てたみたいで、わざわざアカウント作る人が増えてるみたい。チャットならせなさんと話せるってね。お店のおばさんやおじさんがいろいろ世話を焼くためみたいよ。ここへは最近せなさんがよく来るようになったでしょ? フラウさんの宿題で」
早口で白亜ちゃんが説明してくれる、しかも情報量が多い。
彼女は普段リスナー側だから、最近のチャットの動向もしっかり把握してくれている。
「ショック療法でもしてるんですか?」
横で雫がぽつりと呟く、普通に失礼だなこいつ。
「じゃあせっかくだし、揚げたてのコロッケでも食べに行きましょうよー」
白亜ちゃんの説明に納得したのか、雫がすたすたと歩き出す。
「そのお店はどこに?」
勢いよく進んだかと思えばぴたりと足を止めて、すぐに戻ってきた。
「……知らないのかよ」
「雫さん、あそこですよ」
肩をすくめるオレとは違って白亜ちゃんがやわらかく指をさす。
彼女の指の先には、店先でおばちゃんが両手を大きく振っていた。
:あそこのコロッケ屋まじで美味いんよ
:しかもめちゃくちゃ安いっていうね
:まじかよ、今度買いにいこ
:偉い人、お店の名前教えて
:あのお店、大行列ができるんだろうな…
「せなちゃーん!」
呼び声と一緒に、揚げ油の香ばしい匂いが風に乗って届く。
お腹が思わずぐぅと鳴りそうだ。
雫を盾にしながら、顔だけを覗かせて近づく。
エプロン姿のおばちゃんが、朗らかに笑っている。
「みんなこんにちは。ほら、揚げたてだよ」
差し出されたコロッケは紙袋越しでも分かる熱さ。
オレはそれを、両手で受け取ろうとして――
力が、入らない。
指の感覚が、どこかおかしい。
するりと、手の中をすり抜けた。
「あっ」
「あぶないっ」
落ちかけた瞬間、白い手がすっと伸びてきた。
視界の先でコロッケがふわりと止まる、白亜ちゃんが咄嗟に受け止めてくれていた。
「間一髪だったね」
何事もなかったみたいに微笑んで、彼女がそれをオレの手に戻した。
「ごめんおばちゃん、落としそうになって。白亜ちゃんもありがとう!」
「あらあら大丈夫よ。いっぱいあるからね」
そう言いながら、おばちゃんはもう一つのコロッケを白亜ちゃんにも差し出した。
「今のよく反応できたね」
オレは思ったままを口にする。
「これでも一応魔女だからね、身体強化くらいならできるわよ」
「あなたが白亜ちゃんね、やっと姿を見れて良かったわー。私の妹の娘もね、魔女なの」
おばちゃんが遠慮なくまっすぐに見つめる。
真正面からの視線に、白亜ちゃんの頬がじわりと赤くなった。
「その子ね、あなたの念話で青子ちゃんに指示を出してもらって、命が助かったって言ってたのよ」
「……」
「ありがとうね」
そう言っておばちゃんは白亜ちゃんの頭をそっと撫でた。
白亜ちゃんは何も言わない。
ただ、撫でられるままにじっとしている。
「あなたも、せなちゃんも。誰かを助けてくれてるの」
優しい視線が、オレたち二人に向けられる。
「だから『いなくていい』なんて言わないでね?」
「わかった!」
「……うん」
胸の奥が、じわりと満たされていくのを感じた。
—――この前の配信、見てたのか。みんな見守ってくれているんだな。
隣を見る。
白亜ちゃんも同じような気持ちを抱いてくれてそうだ。
お出かけに誘ってよかったな。
:めちゃくちゃいい場面じゃないですかー
:映画のワンシーンかと思ったわ
:驚くことにせなだけは配信越しの会話だがな
:俺らも見てていいのでしょうか…
:どこでお金を払えば…?
:まぁめっちゃ放置されてるしいいでしょ(適当
:ドラマだとここでCM入るよな
台無しである、チャット欄は相変わらず好き放題。
ふと白亜ちゃんと目が合う。
どちらからともなく、くすっと笑いがこぼれた。
「ところで先輩」
その声で、空気が切り替わった。
今まで何故かずっと黙っていた雫。
ゆるい空気のチャット欄と優しい気持ちになってるオレと白亜ちゃんとは違う。
わずかな冷たさを纏った彼女が真剣な目を向けていた。
「体に異変が起きていませんか?」
第32話 三人でのデートは商店街で




