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第27話 三姉妹で公園ライブの下見デート

 ―――ライブイベントの下見に行きましょう!


 雫の提案でオレは赤里ちゃんも誘い、今度ライブをする予定の公園へやってきていた。


「ちょっと日差しが強いですけど、晴れてよかったですねー」


 雫が空を見上げ、手のひらで日差しを遮る。

 オレの左側を歩く彼女を見上げた。

 髪色と同じ淡い水色のブラウス。

 それに白を基調にした、軽やかなスカート。

 私服姿が公園の景色にすっかり溶け込んでいる。


「本当にいい天気。そういえば、この前フラウ隊長に怒られてたのはなんだったの?」


 右側から赤里ちゃんが声をかけてきた、次にそっちへと視線を向ける。


 淡いピンクのオフショルダーブラウス。

 すっきりとしたシルエットのベージュのパンツ。

 手には白い日傘。

 赤里ちゃんの私服は、少し大人びた服装だった。


「はしゃいでたら警報を鳴らしちゃってさ、さすがにあれは怒るよな」


 苦笑しながら二人の間を歩く。


 オレの服装はいつも通り。

 白いインナーに薄手の黒ジャケットだ。

 結局、この格好が一番しっくりくる。


「あの時の配信ね、せなちゃんはショックじゃなかったの?」


 赤里ちゃんが少し言いにくそうに言葉を続ける。


「その……、自分が作られた存在だということに」


 白い日傘の影からそっと顔を覗かせる。

 そしてオレと雫を見比べた。


「うーん、特に気にしてないかな」

「先輩は自分のことに関しては楽観的ですよね」


 雫があっけらかんと言う。

 雫との間でオレの存在に関しては無関心を貫こうと決めてある。

 実際――こうして赤里ちゃんが心配してしまっているからな。


「少しギャラリーが増えてきましたね」

「そうみたいね」


 雫と赤里ちゃんが足を止めゆっくりと周りを見渡す。

 公園のあちこちから視線を感じた。

 一歩行き過ぎたオレは慌てて二人の間へ戻る。


「せなちゃんが来てから、すっかり私たちも有名になっちゃったわね」


 赤里ちゃんが小さく息を吐く。

 けど困っている顔ではない。

 どちらかというと、柔らかい表情だった。


「今までもそうだったんじゃないの?」


 オレも周りを見渡しながら聞いてみる。

 確かに、遠巻きにオレたちを見ている人が少しずつ増えていってるみたいだ。


「今までは魔女という立場上、一線を置かれてましたからねー」

「でも最近では、私たちもアイドル扱いになってるわね」


 雫の言葉に赤里ちゃんが続いた。

 さっきから感じていた視線が急に気になり、不安になる。


「え……、オレのせいで迷惑になってない?」

「そんなことないわよ」

「なんで先輩は人の事になると途端に弱気になるんですか」


 さっきとは反対に赤里ちゃんが即答し、雫が苦笑しながら続いた。


「学校の休み時間に友達がいろいろ話しかけてくれるようになったわ」

「半分以上が先輩に対する質問ばかりですけどね」

「ふふ、そうね。でも以前よりみんなと打ち解けられて、学校がもっと楽しくなったの」

「どさくさに紛れて先輩を紹介してくれって言ってきた男子はビンタしておきましたよ」


 ――良かった。

 二人はオレの頭上で顔を見合わせて笑っている、楽しそうだ。

 少なくとも気を遣って無理に言っている顔ではない。


 ずっと考えていることがある。

 この世界はオレが現れてからどう変わったんだろう。

 魔女も街の人たちもみんなオレに優しくしてくれる。

 だからオレもそれに応えたい。

 魔物と戦って、配信で誰かを元気づけて。

 今は、それで十分だと思う。

 けどオレは――魔物だ。

 この世界にとって本来は敵である存在。

 フラウさんや雫たちはどう考えているんだろう?


 ……きっといつか、答えが出る。


 もし世界がオレを敵だと決めて、倒すべき存在だと判断したのなら。

 その結論に、素直に従おう。

 オレはもうそれくらい、この世界を好きになっていた。


「あっ、ここがライブ会場になる広場じゃないですか?」


 雫の言葉に考え込んでいた意識が現実に戻る。

 目の前には一際広い原っぱが広がっていた。

 ライブ当日が近いからか、野外ステージの組み立てが少しずつ進んでいる。

 まだ枠組みだけのステージが青空の下に立っていた。


「せなちゃんのライブってどんな感じなのかしら。私、ライブって初めてだからちょっと楽しみなの」


 赤里ちゃんってやっぱり優等生なんだな、話す内容からなんとなく想像する。

 彼女の視線は組み上げ途中のステージへ向けられている。

 きっと当日の光景を想像しているんだろう。


「いろんな人が歌うイベントらしくて、オレはその最後に出るみたいだよ」


 そう言いながらフラウさんたちとの打ち合わせを思い出す。

 雫と赤里ちゃんは当日参加はするものの、詳しい流れまでは知らないからな。

 オレは二人にイベントの大まかな内容をざっと説明した。


「なるほどー、だから先輩の曲って一曲しかなくても大丈夫なんですね」

「この前リリースした曲よね? すごい気持ちが上がる曲調で素敵だったわ!」

「いいですよねアレ! 聞くだけじゃないノリがこう、燃え上がるというか」

「聞いているうちに体が自然とリズムを取っちゃってて、自分でも驚いたのよね」


 二人がきゃいきゃいとオレの曲の感想を言い合っている。

 その様子を見ていると胸の奥が少し熱くなった。


 ――当日は絶対成功させたいな。


 そう思いながらオレは胸の前で両こぶしをぎゅっと握る。

 はたから見たらきっと『むんっ』って言ってそうな格好だ。


「先輩はばっちりなんですか?」


 雫が覗き込んでくる。

 赤里ちゃんとの会話で気分があがったのか、ほんのり顔が赤い。


「当たり前だろ、雫こそちゃんと練習しとけよな?」


 びしっと言い返す。

 だが返事をしたのは、なぜか赤里ちゃんだった。


「あ、あれって……、やっぱり私もやらなきゃダメ……なのよね?」

「もちろんですよ、赤里先輩と一緒に叫び返しますね!」


 雫が問題ないという顔で答える。

 あれというのはコールアンドレスポンスの事だ。

 赤里ちゃんは視線を泳がせている。

 人前で叫ぶなんてきっと今まで経験がないんだろう。

 その場面を想像しているのか、耳のあたりが赤くなっている。


「そうだ。このあとカラオケ行きましょうよ、カラオケ!」


 雫がぱっと声を上げた。

 思いついた瞬間にはもう気持ちがそっちに向いているらしい、ステージに背を向けてしまっている。


「カラオケ?」

「練習ですよ練習! 音源はないでしょうから、スマホから流しましょう!」


 雫が『さぁさぁ』とばかりにオレと赤里ちゃんの手を取って引っ張った。


「雫、それならスカイ号でも良い気がするんだけど?」

「違いますよぉ、これは友達と遊ぶ感覚です。せっかくだし楽しみましょう!」

「しょうがないな。個室なら誰とも話さなくて良さそうだし、付き合ってやるよ」


 オレがそう言うと、二人がくすっと笑った。


 ……なんだよ、悪いかよ。


「相変わらずコミュ障ですね、先輩は」

「叫ぶのは恥ずかしいけど、せなちゃんたちとのカラオケも楽しそうね」


 オレと赤里ちゃんは、雫の隣に追いついて並んで歩く。

 すると今まで遠巻きに見ていた人たちがさっと道を空けてくれた。


 まるで王様になった気分だな。


 そんな優越感に浸っているオレに対して雫がある疑問を投げかけてきた。


「ところで先輩は、他にどんなパフォーマンスを見せてくれるんです?」

「聞きたいか? 聞きたいだろー」


 オレはふふんとドヤ顔をする。

 だが、未だこっちを見ている人に聞かれるとまずい。

 オレは二人を手招きして顔を寄せた。


「あのな……?」


 こそこそと二人に耳打ちする。

 すると二人が思わず噴き出した。


「ふふ、それって」







「ほんと―――先輩らしいですよね」

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