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第26話 青の暴走

「えー今、緊急で配信してるんだけど」


 フラウ号の自室でソファに座り、真正面に浮かぶドローンに向かって話しかける。

 なぜか手がそれっぽく動いていた。

 配信者っぽいジェスチャー。


:あ、はい

:今までと何か違いあるか?

:ずっとせなを見てきた者たちだ、面構えが違う


「今日はこいつの取り調べを行う、入りたまえ」


 オレは仰々しく手を振り自室のドアへ向かって声をかける。

 扉が開き、ひょっとこの仮面を被った女の子が入ってきた。

 そのままオレの隣まで歩いてきてソファに腰を下ろす。


 この人物は、当然雫だ。


:ノリノリで草

:これ雫ちゃんでしょ?

:俺らは何を見せられてんの?ww

:この茶番はいつまで続くんですかね


「そう、雫だ!」


 オレが言う前にネタバレしたリスナーは許さん!


 雫はひょっとこの仮面を外すとぽいっと床へ放り投げた。


「おい、折角用意したのに投げるな」


 オレの抗議など気にもせず雫はドローンへ向かってにこりと笑う。


「リスナーのみなさん、雫です!」


:雑に扱われるひょっとこさん

:仮面「解せぬ」

:わかってますって

:これいつ始まんのww


 全く、物を粗末に扱うなよな。


 オレは雫の太もも越しに身を乗り出し床に落ちた仮面へ手を伸ばす。

 その瞬間、雫の手がするりと頭に乗った。


 ――撫でてくる。

 しかもやたら慣れた手つきで。


 ほんとこいつ、オレのことを妹か何かだと思ってないか?


 自分では『後輩です』なんて名乗っているくせに、扱いは完全にそれじゃない。


 まあ記憶がないからその辺をツッコめないのが問題なんだけどな。


「今日はなんで呼ばれたのか、わかるな?」


 ソファにぽすっと座り直し、仮面は肘掛の間に置く。


「わかりません、なんですか!?」


 堂々と雫がにこにこで言い切る。


 ……わかっているくせに。


「今日はオレがなんで生まれたかを、おまえが説明するんだよ!」


 あえて雫ではなく、真正面に浮かぶドローンへ向かって声を張り上げた。


:てぇてぇを見せられるのかと思ったのに温度差よ

:ええんか? こんないきなりで

:リスナーのざわめきが手に取るようにわかる

:てか雫ちゃんがわかってるの?

:フラウ隊長介さなくて大丈夫なのだろうか


 オレの言葉にチャット欄の流れが一気に加速する。


 まぁ当然か。


「リスナーもびっくりしてるし、もう吐いてしまえ……というかオレが一番知りたかったんだが?」


 腕を組み、聞く体制になる。


:せな自身も知らんかったな、そういや

:すでに人間に溶け込んでて忘れてたわ

:ん? でも知りたかったって過去系?

:もう事前に聞かされたってことか


「聞いた、びっくりだよ。めちゃくちゃしょーもない理由が原因だった」


 オレは天井を見上げ大きく息を吐く。

 さっき雫から聞かされた話を思い出してしまったからだ。


「えーっとですね」


 隣に座る雫がさらりと髪をかき上げて耳へかける。

 その耳元には小さなイヤリング。

 オレと赤里ちゃんと三人でお揃いのものだ。

 部屋の明かりを受けてきらりと反射する。


「―――先輩は、私の邪念から生まれた魔物かもしれません」


 軽く言うにはあまりにも重い言葉だった。

 その瞬間、チャット欄が爆発する。


 ……まあそうなるよな。

 いきなり結論をぶん投げたんだから。


 コメントはすでに流れすぎて読めない、このまま話を聞くことにした。


「まず、先輩の本当の名前は月都星奈ではありません」


 だろうな、とオレは頷く。

 理由は簡単だ。


「名前が分かってるなら生きてた頃の容姿や住所だってほぼ特定できたはずです」

「けど、それはできなかった。写真すらなかったしな」


 オレのことを知っている人間が雫以外にいないことが明らかにおかしい。

『はい』と雫が肯定する。


「先輩に命を助けてもらってから……私はずっと願い続けました」


 雫がゆっくりと言葉を紡ぐ。


「先輩が生き返って、ひょっこり現れてくれるのを。ひと時も欠かさず――それこそ夢に出てくるくらい」


 その顔は、今まで見たことがないほど真剣だった。


「夢かと思いましたよ、配信に映った先輩を見た時は。過去をやり直したい私の元へ来てくれたんだって」


 ……けれど。

 正直、オレには理解できない。

 助かった命なら未来を見て生きていく。

 それが助けてくれた人への一番の恩返しじゃないのか。


 オレは、違う思いを描いていた。


「その気持ちは嬉しいよ。ありがとな、雫」


 もしオレが人間だったなら同じ思いを抱けていたのだろうか……?


 雫の頭を優しく撫でる。

 本音は伝えない。

 だからこれは嘘にはならないよな?


「けどさ」


 撫でる手を止めずオレは続ける。


「なんでこの姿なんだ、オレは?」


 実はその理由をまだ聞いていない。

 自分の体へ視線を落とす。

 小さな手。

 軽い体。

 後輩であるはずの雫よりどう見ても年下だ。


「あー……」


 雫が頬を指で掻く。

 視線は泳ぎ『アハハ』と乾いた笑い声まで漏れた。


「?」


 そんな言いにくいことなんだろうか。


「先輩はその……。生きてた時の姿ではなく、性格も含めて私の妄想です……。私だけの先輩でいて欲しくて」

「……はい?」


 オレは固まった。

 今の顔を鏡で見たら目も口もぽかんと開いているに違いない。


「この銀髪も、金の瞳も?」


 指を指しながら聞く。

 雫がコクンと頷いた。


「オレがオレと呼ぶことも?」


 コクン。


「コミュ障なのも?」

「あ、それは生きてた頃から同じです」


:こんな事実があってええんかwww

:撤収! 全員てっしゅーでーす!

:こいつがラスボスを生んだんか

:コミュ障は変わってないwwww

:そこは変えてやれよぉ

:どんな邪念注ぎ込んだらこんなバケモン生まれるんだよ(誉め言葉

:まぁそれならせなの情報がないのも頷け……ないが?


「おまえ、せめてコミュ障は治しとけよな!」

「だって! 小動物みたいでかわいかったんですもん!!」


 ふざけんな。

 こいつのせいでコミュ障人生歩んでるのかオレは。

 ……ん?

 元からなら雫は関係ないのか?


「今からオレを作り直せ!」


 雫の脇腹を突く。


「無理に決まってるでしょ。痛っ、魔力込めないでくださいよ先輩!」


 次の瞬間、雫がぐいっと押し倒してきた。

 魔力込みで。


:てぇてぇですね

:…これが?

:ただの痴話喧嘩では

:おーい、カメラまだ回ってますよお二人さん


 どたんばたんと配信そっちのけで雫と押しのけ合う。

 こいつはこいつで楽しくなってきてるのか、どんどんヒートアップしてきた。


 次の瞬間。

 突然室内が真っ赤に染まった。


「あ」

「あ」


 オレと雫は同時に動きを止め、ゆっくりと天井を見上げた。


:あ

:あ

:あーあ

:魔力込めすぎるから

:そらそうよ

:やらかしたな








 フラウ号の魔力感知システムが作動し、艦内に緊急警報が鳴り響いた。

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