第25話 全員で轟き叫べ!
「パワーが、アップしましたの!!」
漫画なら背後に『ドドオン!』と巨大な擬音が浮かんでいそうな勢いだった。
師匠は胸を張り得意げに笑う。
身長も声もやたらと高い。
「えぇ……?」
:えぇ?
:せなと俺らがシンクロした瞬間
:魔女相手にすると意外とせなが苦労人になるんよな
:こいつがまさかの常識枠だと?
:IQゼロの女とコミュ力ゼロの女
:なぜか魔物も空気読んで止まってますけど?
:なんでだよ
「見ていてくださいまし」
そう言うと師匠は、先ほど破壊された家の破片をひとつ拾い上げた。
くるりと体をひねり、サルと同じ投擲の構え。
そして思いきり振りかぶった。
「どっせーいですわー!!」
破片が一直線に飛ぶ。
狙いは悪くない。
だがサルはほんのわずか体をずらすだけ。
破片は空を切り、かすりもしない。
:人の家を武器に使うなww
:草
:魔物戦配信のほうでは青ネギちゃんが頭抱えてんな
:脳筋にもほどがある
:魔法を使えとあれほど
「あの、師匠。いいかな?」
オレはおずおずと手を挙げる。
「なんですの? 次は当てられそうですわ」
そう言いながら師匠は両腕をくるくる回し両手を組む。
その輪の隙間から片目を細めてサルを覗き込んだ。
……それは狙いを定める姿勢じゃないんだけどなぁ。
「オレがあいつを何とかするよ」
「仕方ありませんわね、お願いできます?」
師匠が即答する。
「いいの?」
「構いませんわ、遠距離攻撃のできる赤里さんを選ばなかったフラウ隊長が悪いんですもの」
そう言って師匠はフンと小さく鼻を鳴らす。
そして、ぷいと可愛らしく顔を背けた。
師匠の姿に思わずくすっと笑う。
オレはすぐにドローンへ視線を向けて、びしっと指を突きつける。
「よーしおまえら、聞こえたな? 今からオレがあのサルをやっつける。けどみんなにはやってほしいことがあるんだ」
ふんふんと鼻息荒く語り掛ける。
:お、なんだ?
:敵前なのに余裕ですねほんと
:聞かせてもらおーか
リスナーの返事は上々。
「オレが叫んだあとにみんなも続いてほしい! ライブのお披露目に組み込みたい!」
ずっと考えていた。
オレは人前でうまく話すことはできない。
でも。
オレの叫びに、みんなが返してくれる形なら?
それならできるかもしれない。
今のままではいたくない、不格好でもいい。
どんな形であれ、オレはみんなと分かち合いたい。
:コールアンドレスポンス?
:いいんじゃね?
:ばっちこーい!
:俺らもとうとう陽キャの仲間入りかぁ
チャット欄を一瞥し、オレはにやりと笑う。
そのまま指を天へ突き上げた。
「―――スペル・オーダー!!」
声を張り上げる。
隣では、師匠が黙って頷いていた。
:スペルオーダー!
:スペル・オーダー!!
:うおおおおいいじゃねーか!!
掲げていた手を低く構え直す。
拳へただ魔力を込める。
魔法じゃない、ただの一撃だ。
魔力が収束し、拳が銀色に輝いていく。
――地面を踏み抜く。
跳ねるように蹴り、空へ躍り出る。
サルへ向かうオレの軌跡はまるで彗星。
「スターライトナックルー!!」
チャット欄が技名で埋め尽くされる。
光速じゃない。
だが魔力を乗せた跳躍を魔物が避けられるはずもない。
だってオレの魔力だぞ?
振り下ろした拳が直撃する。
サルは叩き落とされ、地面へと墜ちた。
「素晴らしいですわ、止めはお任せくださいまし!!」
これまで黙って見守っていた師匠が静かに一歩前へ出る。
そしてオレと同じように拳を天へ掲げた。
「魂源解放―――おいでませ、金剛爪!」
その拳へ魔力が集まりはじめる。
渦を巻く光はやがて濃密な塊となり金色の輝きを放った。
オレの銀とは対照的な、眩い黄金。
師匠は地面を踏み込み、一直線にサルへ突進する。
「超破壊殴打!!」
振り抜かれた拳は迷いなくサルの胴へ叩き込まれ――
次の瞬間、そのまま胴体を貫いた。
◇◇◇◇◇◇
サルの魔力がオレの体へと吸い込まれていく。
その感触を確かめながら師匠とリスナーたちへ声をかけた。
「どうかな? オレとしては悪くなかったと思うんだけど」
もちろん戦いそのものの話じゃない。
技名を叫ぶという、あの演出についてだ。
その意図をきちんと理解している師匠は目を輝かせていた。
「素敵ですわ!」
胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、体を小さく震わせる。
「いいじゃありませんの! 魂が震えましたわー!!」
その様子はまるで、興奮がまだ体の奥で弾けているかのようだった。
:めっちゃよかった、よかったが
:金城ネキの最後はどうなん?
:審議ですね
:結局二人とも魔力で殴っただけでは?(白目
:せなと一緒に戦ってるみたいだった
:一体感あったな!
どうやらリスナーたちも興奮冷めやらぬようだ。
今回は誰にも迷惑をかけなかった、オレはほっと息を吐く。
そのときだった。
いつのまに近づいてきたのか、目の前には師匠の顔。
次の瞬間両手をがしっと掴まれ、ぐいっと持ち上げられる。
身長差のせいでオレの足は半分浮いていた。
まるで吊り上げられた魚みたいな格好だ。
「さっそく報告しに戻りましょう、凱旋ですわー!」
師匠はそう宣言するとオレの腕を掴んだまま歩き出した。
ずるずると引きずられていく。
身長差のせいで、自然と空を見上げる格好になる。
視界には配信ドローンが浮かんでいた。
オレはひらひらと手を振る。
「じゃあおまえら、またなー!」
もちろんリスナーに向けてだ。
◇◇◇◇◇◇
オレと師匠は隊長室でフラウさんに魔物戦の報告をしていた。
気づけば話題は、オレのライブに向けた打ち合わせに変わっている。
「うん、いいじゃないか。私のほうも会場を押さえることができたんだ。準備は順調に進んでいるよ」
「とうとうライブですのね。歌の練習はばっちりですの?」
大人組の二人が、そろって期待のまなざしを向けてくる。
その視線を正面から受け止めオレは胸を張った。
「問題ないよ。大丈夫、任せて!」
――誰かと喋る以外はな!
その言葉だけは、心の中で力いっぱい叫んでおいた。
その後も今後の流れについての話し合いが続いた。
ライブ当日の段取り、配信の進行、細かい準備。
気づけば三人であれこれと話し込んだ。
この三人だけなのは理由がある。
少し前の事だ。
「雫たちは呼ばないの?」
そう聞くと、フラウさんは小さく肩をすくめた。
「学生だからね。今は学業を優先してほしいんだ」
穏やかな声。
「魔女というだけでも重い責任を背負っている。これ以上、仕事まで背負わせたくはないさ」
打ち合わせを終え、過去のフラウさんとの会話を思い出しながらオレはスカイ号の廊下を歩いていた。
歩きながらふと最初にここへ来た頃のことを思い出す。
……あれ? こんなに広かったか?
試しに両手を横に広げてみる。
だが壁まではまだまだ余裕がある。
初めて来たときは、こんなに余裕はなかったはずだ。
スカイ号もアップグレードしたのか。
改めて豪華になった廊下を見渡しながら歩いていると、前方から人影が近づいてくる。
雫だ。
「あ、先輩おかえりなさい! ライブの打ち合わせは順調ですか?」
「あぁ、問題ないよ」
雫が身をかがめ、オレの顔を下から覗き込んでくる。
魔物戦の話をすっ飛ばすあたりこれっぽっちも心配はしてないのだろう。
とびっきりの笑顔だ。
「じゃあ、私とデートする時間もありそうですね、待ちわびましたよ」
「そうだな、お待ちかねだな」
にこにこと笑う雫を見ながらオレは静かに頷く。
―――次回はお前の尋問回だ!!




