第24話 黄の野生力
「オーッホッホ! 今日は一緒に戦ってくれると聞きましたわ、せなさん!」
夜になったばかりの街にやたらと気合いの入った高笑いが響き渡る。
「うん! 今日はよろしく、師匠!」
その勢いに負けないようにオレも元気よく声を張り上げる。
住宅街に現れた魔物を倒すために師匠と二人、現場に来ていた。
:今日は騒がしくなりそうですね
:人がいたら確実に近所迷惑だな
:避難してるのでセーフ
:避難先まで笑い声が聞こえてきたんだが?(錯乱
当然今日も配信をしている。
「せなさん」
師匠が手招きしてこちらへ来るよう促す。
「?」
首をかしげるオレに師匠は優雅に微笑んだ。
「戦いの前にリスナーさんたちへアピールをして差し上げましょう」
そう言うと師匠はオレの腕を取りぐいっと引き寄せる。
二人並んで腕を組み、ばっちりとポーズを決めた。
今この瞬間、背後で『バーン!』とエフェクトが出てもおかしくない気がする。
:戦いが終わってからやりなさいよ
:ニチアサかな?
:なんにせよ共闘の許可でたのはいいことじゃない
:せなちゃん見てる間ずっとそわそわしてるもんね
:魔女が心配なんやろ
「さぁ、悪者退治と参りましょうか」
師匠が指先で巻き髪をふわりと払う。
流れるような動作は戦いの前だというのに優雅だ。
「ぼっこぼこにしてやる」
オレも見よう見まねで髪を払ってみる。
その拍子に、耳元のイヤリングが小さく揺れた。
:魔物逃げてー!
:始まる前から結果がわかってんのよ
:フラグにもならんね
:イヤリングが夜に映えるね
:ほんとずっと着けてる、相当気にいったんだな
静まり返った住宅街。
誰もいない道路の真ん中から空を見上げる。
空中には月を背にしたサルのシルエットがあった。
逆光のせいで姿は影しか見えない。
敵のくせにやけにかっこいい位置にいるな、あいつ。
なぜか少しだけ嫉妬した。
「飛行の技能を使いますのね?」
サルの魔物を睨みつけたまま師匠が言う。
「わかるの?」
オレは同じ魔物だからか技能を使っていればすぐ理解する。
けれど魔女である師匠には本来そんな感覚はないはずだ。
……まあ、今回は別か。
空に浮かぶあの姿を見れば、一目瞭然だ。
「えぇ、青子さんが教えてくれましたわ」
その言葉に、空を見上げていた視線を師匠へ向ける。
そういえば魔女たちって戦いの間どうやって指示の受け渡しをしてるんだ?
彼女を見てる限り、スマホやインカムのような通信機器を使っている様子はない。
ここはすでに戦場だってのに連絡を取っている気配がまるでないのだ。
何かの機会に、どうやって情報を回してるか聞いてみてもいいかもな。
:あのサル、開幕から技能つかってんのな
:結構珍しいな
:空中でどこまで動けるのかってとこやな
師匠とチャット欄は、すでに敵へ意識を集中させていた。
「来ますわよ」
その言葉と同時にサルの魔物が動く。
魔力で作り出した球状の塊を掴み、振りかぶる。
投げた。
速い。
狙いは師匠だ。
だが師匠は危なげなくそれを回避する。
魔力の塊は空を切り、背後のアスファルトに叩きつけられた。
サルは流れるような動作で、二球目を放った。
空中にいるはずなのに、重心がまるでブレない。
飛行中でも姿勢を保てるらしい。
次の狙いは――オレだ。
飛んでくる魔力の塊を見据える。
だが避けない。
「――『反射』」
弾かれた魔力の塊が勢いそのままにサルへと跳ね返る。
だがサルは慌てて身をひねり空中でそれを回避した。
動きがやけに素早い。
いや、それだけじゃない。
空中にいるはずなのに動きに制限がない。
まるで地面の上と同じように自由に体を動かしている。
あいつ、空中でも好き放題動けるのか。
:反射つえーな
:転移に反射に転化、無敵では?
:防御面に隙がないな
:防御面は、ね
チャット欄はなぜか敵ではなくオレの考察が始まっている。
空気緩すぎないか?
「鬱陶しいですわねえ」
師匠がぽつりと呟く。
言葉とは裏腹に声音は穏やかだ。
:空飛んで遠距離攻撃はうざい
:まぁ対地上戦の定石ですし
:動きも素早いしな
「どうする? オレ、遠くへの攻撃手段ないんだけど」
そう言って師匠へ視線を向ける。
その間にも、サルの投擲は止まらない。
魔力の塊が次々とこちらへ飛んでくる。
オレは避けたり『反射』で弾いたりして対応する。
師匠はというと――
飛んできた塊を、拳で殴り返していた。
殴り飛ばされた塊は勢いそのままに住宅へぶつかり破壊する。
:あぁ俺の家が! ストゼロが!
:あれストゼロニキの家なんかww
:草
:まぁフラウ隊長に請求してもろて
:最近配信でがっぽがっぽ儲けてるだろうし、痛くもかゆくもないでしょ
:リフォームしようぜ
相変わらずチャット欄はゆるーい空気だ。
魔物がいる世界ではこれくらい図太いと生きていけないのかもな。
……それとも。
フラウさんはこうなることも見越して配信をしているのだろうか。
サルは、挑発するかのように次々と魔力の球を投げつけてくる。
妙に余裕のある投げ方だ。
もしこれで『キーキー』とでも鳴いていたら、完全におちょくられているところだった。
「困りましたわ。わたくしも、空を飛ぶ敵への攻撃手段を持っていませんの」
そう言って師匠は優雅に首を傾げる。
うーん、と小さく唸る仕草までついていた。
この人もあまり緊張してないな?
殴れる相手ならいつもの脳筋で騒がしく突っ込んでいくだろうに。
相手が空中にいるせいで防戦一方。
そのせいか今日は妙におとなしい。
「赤里ちゃんは攻撃手段増えてたけど、師匠はパワーアップしてないの?」
師匠に聞いてみる。
「そうですわねえ……」
小さく呟きながら少し考えるように目を細めた。
さすがに何もないわけではなさそうだ。
:まぁさすがにこれだけ魔石あればな
:みんなめっちゃ強くなってるしな
:せなはそれ以上に強くなってるがな…
:ラスボスなのに成長要素あるってバグでは?
「おまえらね」
リスナーに向かってひとつため息を吐く。
「オレだって、みんなを守るために強くなりたいの」
腰に手を当て、もう片方の手の人差し指を立ててドローンへ向けて言い聞かせる。
「それより、師匠がどう強くなったか一緒に聞こうよ」
:それもそうだな
:せなが強くなるのはいいこと
:金城ネキの強化ってなんやろな
:魔女ペディア更新はされてる?
:今さらっと見てる限りでは変わってないな
:ん? どゆこと?
オレはワクワクしていた。
きっとリスナーも同じ気持ちのはずだ。
期待を込めた視線を向ける、オレの瞳はきっと星のようにキラキラしているはずだ。
その視線に気づいた師匠は優雅に微笑んだ。
「力が強くなりましたわ!」
自信満々の声だった。
「え?」
思わず聞き返してしまう。
意味がわからなかった。
「ですから」
小さくつぶやいたあと、師匠は胸を張る。
そして、とんでもないことを言った。
「パワーが、アップしましたの!!」




