第19話 めんどくさい女が来た
「でさー、フラウさんと金城師匠にいっぱい教えてもらったんだよなー」
九州から帰ってきたオレは、さっそく自室で配信をしていた。
なんでいつも自室なのかだって?
ハハッ面白いこと聞くな、おまえ。
金城師匠はまだ九州にいる、後片付けだそうだ。
……片付けってボコボコに穴を開けたことじゃないよな?
それが終わり次第こっちへ戻ってこれるらしい。
:なんだかんだ九州楽しんできたんか
:金城師匠呼びで定着してて草
:こいつフラウ隊のみんなにはすぐ懐いたな
:我々一般人との壁はまだまだありそうですね
のんびりとリスナーとの雑談を楽しんでいた、そのとき。
バァン!
空気が爆ぜるような音とともに部屋の扉が勢いよく開いた。
「うおっ!? なんだ!?」
思わず椅子から跳ね上がる。
:え、何?
:今めっちゃ大きな音聞こえなかった?
:爆発?
音のしたほうへ振り向くと、雫がずかずかと部屋に入り込んできていた。
そのまま一直線にオレのもとまで迫る。
「先輩! なんで私と配信してくれないんですか!」
雫がまくし立ててきた。
「おまえな、ノックぐらいしろよな」
オレはため息をつきながら話す。
「いるってわかってるのに、なんでノックするんですか!」
「えぇ? どっちにしろ必要だろ、常識って知ってるか?」
:魔物に常識を説かれてる雫ちゃんで草
:初コラボがこんな雑な登場でいいんですかね
:まぁ頭フラウ隊だし
:せなは雫ちゃんには喋り方に遠慮がないのな
「青子さんとは配信したのに、いつまでたっても誘ってきてくれないじゃないですか!」
勢いが強いし圧も強い。
「話を聞け、おまえよくそれで組織の人間やってんね」
オレはもう呆れて普通のことしか言えない。
こいつ、思ってたよりだいぶヤバいぞ。
……いや待て、前からか?
記憶にはないが薄っすらと感じる。
:雫ちゃんはなぁ、沸点が低すぎて
:魔物戦では見てる側がハラハラしっぱなしだからな
:でもめっちゃ偏差値高い学校に通ってなかったっけ、雫ちゃん
:文武両道だよ、フラウ隊の魔女はみんな基本スペックが桁違い
「どうせ一方的に喋り倒すだろ、オレの配信の意味がなくなりそうだしな。その点赤里ちゃんなら心配なさそうだし誘ってみようかな?」
「は? 待ってください、私の前で他の女の話をしないでくれます?」
「めんどくさい彼女みたいなこと言うな」
雫がわけのわからんことを言ってくる。
:せなと同じこと言ってらww
:そっくりすぎん?
:そーいうとこだぞ、君たち
:そういえば、雫ちゃんとせなちゃんの関係って公開されてたっけ?
一つのチャットが目につく。
そういえばそうだな。
こいつはオレの事を知ってるらしいが、オレは雫を知らない。
これはどういうことだ?
ゆっくりと視線を横に向ける、隣に立つ雫を見上げた。
もともと身長差はあるが、今は椅子に座っている分さらに見上げる形になる。
雫もオレの視線で何を言いたいのか理解したようだ。
こいつ、冷静な時はほんとすぐに考えを見透かしてくるな。
「せんぱーい、どうやらリスナーさんたちは私たちの関係に嫉妬してるみたいですよぉ?」
甘く挑発する声。
次の瞬間、ぐいっと肩に体重がかかる。
「おい、重いぞ」
前言撤回だ、こいつ何もわかってない。
いや、これはわざとやってるな?
:てぇてぇ…ではなかった
:なーんか違うんだよなぁ
:せなが赤里ちゃんを膝枕してるところがまた見たい
:いや今度は逆だろ
リスナーたちも好き勝手喋りだした。
これはもう収集がつかないかもなぁ、オレは額を押さえて呆れる。
「今、先輩と赤里先輩をくっつけようとするリスナーの名前は覚えました。覚悟してくださいね?」
「アンガーマネジメントって知ってるか、雫。六秒待てば冷静になれるらしいぞ?」
オレの助言に雫が深呼吸をする。
「すぅはぁ……ゼロ。よし、この人たちの死へのカウントダウンが終わりました」
「……おーい」
これ以上カオスにしないでくれ。
:ヒエッ
:あー死んだわ俺ら
:来世でもストゼロ飲むからな
:せな「オレが生き返してやんよ」
:チート過ぎて草
:せなならできそうって思うあたりがまた
「こいつほんと二面性あるよな」
思いついたことが声に出た。
:お前もなんだよなぁ
:金城ネキもそうだしな
:赤里ちゃんも普段の生活の時はポンだぞ
:隊長くらいじゃね?
:あの人は裏も表もやばい…やばい
:てかそれもあるけどなんかせなちゃんと雫ちゃんってそっくりなんだよなぁ
:先輩後輩って感じじゃないよな
:生き別れた双子って感じ
リスナーがよくわからないことを言ってくる。
オレたちが双子?
「どうします? 先輩。今この場で説明してもいいですけど」
雫が流れるチャットを見ながら聞いてきた。
……いや。
「やめとこう今は。この流れで話す内容じゃない気がする」
「そうですか? 私は構わないですけど」
:雑談の流れで言うことじゃないだろうしな
:また別の場で公開したらええんちゃう
:かまへんかまへん
「ところで、アイドル活動の方向性が決まったって聞きましたよ?」
急ハンドルだな、思わず小さく笑ってしまう。
「うん、フラウさんにいろいろやりたいこと伝えてるぞ」
それだけじゃない。
「街中で配信してみたくてさ、それも相談してるところ」
「おー! いいじゃないですか、度胸がつきますよ! 歌を披露するときの緊張もなくなります!」
……ぐっ、その話はオレに効く。
その光景を想像して胸を押さえる。
「まぁ、そのあたりはおいおい、な?」
:すでにアイドルとしての自覚がでてきてるな
:街中配信!? めっちゃいいじゃん!
:前も動画あったけど、許可とか難しくね?
:まぁそのあたりフラウ隊長がなんとかするやろ(鼻ほじ
:こいつ人前で歌えるんですかね?
「そこは嘘でも、『がんばります!』って言いましょうよー」
雫が笑いながら言う、話題転換が上手くいって何よりだ。
「オレの活動もいいけど、魔女たちもだいぶ変わってきてるんだろ?」
これ以上人前に出る話はしたくないので、魔女サイドの近況を聞いてみる。
「そう! そうなんです! 先輩が集めてくれる魔石のおかげでめちゃくちゃ助かってますよ!」
:せな「がんばります!」
:↑ダウトー
:世界革命起こしてるからな
:隊長がはちゃめちゃ忙しいそうだな
:実際魔石はどういう運用しとるんやろな?
「先輩が教えてくれた、魔色変換って呼ぶことにしたんですけど、それで魔防課に魔石を配ったり、私たちの武器もアップグレードしていってます!」
「役に立てれてうれしい」
人の役に立つことができると思うと自然と笑みがこぼれてしまう。
「きゃー、先輩かわいい! 今度デートしましょうね!」
「おい、いきなり抱き着くな!」
雫にくっつかれるが、押し返すのも野暮だと思いそのままにしておいた。
……人肌も悪くないもんな。
「あーもう、今日はこのまま終わるぞ、またなー!」
:あー、これはてぇてぇですわ
:女の子の抱擁はいいですなー
:手の平返しで草
:魔女の生存率があがるのはいいことだよな
:俺らも安心できるしなー
:またなー!
:せなが来てからほんと世界が変わったよな!




