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第18話 金色のライオンは気高く慈悲深く

 オレ食べられちゃう!

 物語はここで強制終了!(錯乱)


 そんな混乱をよそに目の前に立っていたのは――

 金髪の巻き髪が特徴的な女性。


 身長たかっ!


 まず一言感想が出る。

 すらりと伸びた体躯。

 その影に俺の身体はすっぽり隠れてしまう。

 目線を前にすると、胸元あたりにしか届かない。

 圧倒的な体格差。


「ごきげんようですわね、せなさん」


 目の前の胸から声がする、実際は頭上からだが。

 ゆっくりと顔を上げる。

 陽だまりの中に立つ彼女は、まるで光を背負っているようだった。

 白いブラウスの上に、淡いベージュのロングコート。

 細身の黒いパンツは脚のラインをすっきりと見せ、上品さの中に凛とした印象を与えている。


 めっちゃいい匂いするんだけど!


 バカな感想が頭に浮かんだ。

 そんなオレをよそに彼女は優雅に口を開く。


「はじめまして、わたくし金城麗華《かねしろれいか》と申します。お見知りおきを」


 完璧なお嬢様ボイス。

 絶対カーテシーが似合うやつだ。


「は、はじめまして。つきとせな、です」

「知ってますわよ!」


 即答。

 雫の時と同じパターンだ。


「あら、魔石を持ってきてくれたんですの? 助かりますわ!」


 俺の腕に抱えられた黄色い魔石に気づいた瞬間、彼女の表情がぱっと明るくなる。

 ついさっきまでの気品あふれるお嬢様の面影が少しだけ和らいだ。

 完璧なお嬢様だったのに、今はちょっと年相応だ。


 大学生くらいか?

 赤里ちゃんよりは上だよな、たぶん。


「う、うん。フラウさんに頼まれて持ってきたんだけど迷子になっちゃって」


 小さくそう告げて『助かったよ』と付け足す。


「まあ。それは大変でしたのね」


 彼女は目を丸くし、それからやわらかく微笑んだ。


「立ち話もなんですし、わたくしの家でお昼でもご一緒にいかが?」


 そう言うなり彼女は肩にかけた小ぶりのバッグからスマホを取り出し、手際よくそれを操作する。

 事前の話で機械オンチとは聞いていたけどスマホは大丈夫らしい。


 数分も経たないうちに黒塗りの高級車が静かに横付けされた。


 え、早くない?


 流れるように乗車を促され気づけば後部座席。


 ……これ、大丈夫だよな?


 ヤのつく職業の事務所に連れていかれる可能性が頭をよぎる。

 緊張しすぎたせいか、道中の記憶はほとんど残っていない。



◇◇◇◇◇◇



「ちょっと厄介な魔物がいますの」


 金城さんはそう言いながら銀のカトラリーを優雅に操る。

 オレは皿の上に盛られた小さな肉をもぐもぐ。


 たぶん高級。

 でも味がよくわからない。

 魔物のオレはどうやら庶民派らしい。


 いきなり連れてこられた豪邸。

 中は無駄に広い。

 天井も無駄に高い。

 調度品も無駄に豪華。

 ぐるりと見まわして、


「はえー」


 最後は語彙力が死んだ。


「全国に別荘がありますの、ここもその一つですわ」


 彼女はナプキンで口元をそっと拭いながら何でもないことのように言った。


「それにしてもせなさん。ナイフとフォーク、使えますのね」


 彼女がそう言ってこちらをじっと見つめてくる。


 え?

 オレってそこまで常識ないと思われてる?


「つまり、元は人間だった可能性もあるということですわね」


 思案するような声音。


「いつか人になれる日が来たら、素敵ですわ」


 まるで未来を願うように、穏やかに微笑む。


 ひねくれたことを考えていた自分が恥ずかしい。


 他の魔女から彼女のことを聞く限り、熱血で猪突猛進な性格だと思っていた。

 けどどうやら違うみたいだ。


「うん。オレ、人ともっと仲良くなりたい」


 自分でも驚くくらい素直な言葉。


「なれますわ」


 迷いのない声だった。

 その目はまっすぐで、疑いが一片もない。


『できるかもしれない』じゃない。

『なれる』と断言された。


 視界が少し滲みそうになり慌てて視線を逸らし、無理やり言葉を探した。


「そ、そういえばさ、厄介な魔物ってどんなやつ?」

「そうでしたわね」


 ひらり、と髪を払う仕草。

 その動き一つがやけに洗練されている。


「実際に見たほうが早いですわ、少しお手伝いしてくださらない?」


 優雅に微笑むその姿に思わず見惚れる。

 きっと彼女なら、魔物すらも品よく退けてしまうのだろう。


 そう、勝手に思い込んでいた。



◇◇◇◇◇◇



「でえい、ですわぁ!!」


 ――ドォン


「逃げるな卑怯者ですわよ!」


 ――ドン、ドォン


 金髪の巻き髪を揺らしながら、彼女は拳を地面に叩きつける。

 次の瞬間砂煙が爆ぜ、地面が陥没した。

 そこにはどう見ても自然にはできない巨大なクレーター。


 優雅とは?


 リゾート開発予定地だというこの海岸沿いの更地は、すでに災害現場の様相を呈している。

 潮風が吹き抜ける広大な空き地。


 ここに件の魔物がいるらしい。


 うるっさ……。

 めっちゃ叫ぶよなこの人。


「存在を別のものと同化しておりますの! ですからこうして手あたり次第殴っているのですわ!」


 そして脳筋だった。


 魔物は魔力を消し、周囲と同化することで気配を断っているらしい。

 この状況でまともに探し当てるのは分が悪い。


 オレはわざと魔力を漏らす。

 もし、魔物を引き寄せる性質を利用できるなら?


 ずるりと地面から現れたのは、半透明のおばけのような魔物。


「来ましたわね! 魂源解放!!」


 彼女の声と同時に拳へ奔流のような魔力が収束する。

 空気が震え、小石が舞い上がった。


「どっせーい、ですわーー!!」


 渾身の一撃。


 叩きつけられた拳が魔物の頭部を正面から砕いた。

 断末魔すら上げる間もなく、魔物は消滅していく。

 オレは消える前にさっと魔力を吸収する。


「完全勝利ですわー! オーッホッホ!」


 高笑いが響き渡る。

 彼女は片拳を空へ突き上げポーズを決めた。


 カラン、と乾いた音を立てて魔石が地面の上に転がった。

 彼女はそれを拾い上げ、くるりとこっちを振り返る。


「助かりましたわ。これでこの地域は安全になりますわね」


 潮風に金髪が揺れる、海の匂いが鼻をくすぐった。

 まるで何事もなかったかのように髪を指先で払いながら微笑む。

 ついさっきまで地面を殴り抜いていた人物とは思えないほど、仕草は優雅だ。


「あのさ、なんでそんな叫びながら戦うの?」


 率直に尋ねる。


「わたくしの戦いは、全国に配信されているのでしょう?」

「??」


 なぜそこで配信?

 オレが首を傾げると彼女は静かに続けた。


「人々は、常に魔物の恐怖と向き合っていますわ」


 波音が遠くで砕ける。


「不安に押し潰されぬようにするには安心が必要ですの。ですから少しでも、賑やかなほうがよろしいでしょう?」


 彼女が両手の拳を見つめる。


 その言葉に胸の奥が強く打たれた。


 衝撃だった。


 彼女の考えはまさに――

 オレが目指しているもの、そのものだったからだ。

 魔物を倒すことで不安を消す。

 騒がしく、力強く、安心を届ける。

 それは形が違うだけで、アイドルと同じだ。


 オレもオレのやり方で勇気を届けたい。

 人々の不安を、少しでも軽くするために。


 気づけばオレは彼女の両手を掴んでいた。

 突然のことに彼女の瞳が丸くなる。


「?」


 そんな視線も構わない。

 テンションが限界突破してる。







「師匠と呼ばせてください!」

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