第12話 コミュ障との会話、そして……
私がこれほどの緊張を覚えたのはいつ以来だろうか。
優秀な魔女を集めフラウ隊を結成してからは一度もないだろう。
無理もない。
目の前にいるのは今、全国を騒がせている張本人がいるからだ。
「はじめましてせなくん。私がフラウ隊を纏め、このスカイ号の艦長をしているフラウだ、よろしく。そして雫くんを助けてくれてありがとう」
「……」
無言。
隊長机の前に置いた椅子に彼女はちょこんと腰かけている、だが視線をこちらに合わせようとしない。
隣には雫くんが彼女の味方をするように立っている。
赤里くんも同席を望んだが今回は許可しなかった、交渉において人数差は無言の圧力になるからだ。
あえてこちら側が一人になることで彼女に安心感を与えたいという意図がある。
……つまり私は無防備というわけだ。
彼女がその気になれば、フラウ隊の壊滅も日本の崩壊も絵空事ではない。
緊張しているのも頷けるだろう?
それでも笑みを崩さない、作り物ではない自然な笑顔を。
静かにせなくんが言葉を放つのを待つ。
すると彼女は隣の雫くんの袖をくい、と引いた。
顔を寄せ耳元で小さく何かを囁く。
「え? なんですか? ……いいですよ。はい、はい、わかりました」
雫くんが頷きながら彼女の言葉を聞いたあとこちらへ向き直る。
「えーっと、我々に敵対の意思はない。投降するので捕虜でもなんでもいいから命だけは取らないでと言ってます」
我々?
どうやら雫くんはいつのまにか魔物側の勢力となっているらしい。
「誤解しないでくれ、私たちは君を歓迎したいんだ。こちらに攻撃の意思はない」
「……」
彼女は再度雫くんの袖をくいっと引き、こちらを横目で見ながら小さく囁く。
「はい、え? いや、そうなっても一人で入ってくださいよ。私は付き合いませんよ?」
魔物側だった雫くんが早々に寝返ったらしい。
「えーと……牢屋とか、そういう場所にいれば安全に過ごせますよね。怖くないところで保護してほしい、とのことです」
くだらないことを言わされてるなと言った顔で話をしてくれる。
「何度も言うが私たちは敵ではないから君はここで普通に過ごしていい。どうだろう、我々と一緒に生きていく意思はないかな?」
またくいっと袖を引いた彼女に、今度は雫くんが身を寄せる。
「はい、はい。いいですけどずっとこの形でラリーを続けるんですかぁ? 先輩が喋ってくださいよー」
雫くんの肩がわずかに揺れる、苦笑だ。
無理もないか。
まさか自分がここまで仲介役になるとは思っていなかったのだろう、再度彼女の言葉をそのままこちらへと話し出す。
「床磨きでもなんでもしますのでどうか仲間に加えてください。スカイ号って素敵な名前だしかっこいいですよね……だそうです」
「……ふふっ」
堪えたつもりだったが無理だ。
雫くんも言い終えるころには肩を震わせていた。
最強の脅威が今や雑用係を志願中である。
「ありがとう、そしてようこそフラウ・ウィッチ隊へ。私たちは今から仲間だ! 本当は今ここで握手を交わしたいところだが、それは君がもう少し慣れてからにしよう。ちなみに雑用は不要だよ」
銀の髪を揺らしながら彼女がぶんぶんと首を縦に振った。
その無邪気な仕草に目の前の存在が魔物であることを忘れそうになる。
雫くんも自然な手つきで彼女の頭を撫でた。
待て、君は確か後輩ではなかったか?
「さて、今後のことを話そうか」
一拍置いて続けた。
「せなくんにはこれからも、魔物として生きてもらいたい」
「!?」
彼女の瞳が大きく見開かれる。
仲間として迎えると言った直後に魔物として生きろ、矛盾して聞こえて当然だ。
「実はね、君の活躍は全部配信されていた」
「えっ!?」
はじめて彼女がまっすぐこちらを見た。
「そう全国配信。君はすでにけっこう人気だよ」
「えええっ!?」
「やはり知らなかったのか、人間なら誰しも知っていることなんだが」
なぜか彼女はぷるぷると震えだし、
「ごめんなさいっ!」
勢いよく頭を下げる。
「いつかの魔女の武器、壊しちゃいました!」
「……そこ?」
思わず聞き返してしまう、雫くんに至ってはとうとう吹き出した。
「いったいどれだけの命を救ったか忘れたのかな? 武器など、いくらでも作り直せる」
彼女が顔を上げる。
「それにあれはうちの管轄じゃない。予算も痛まない」
思わず口元が緩む、あの配信を思い出してしまったのだ。
「先輩、そんなに慌てなくて大丈夫ですよ」
雫くんがあわあわしている彼女の背にそっと手を添える。
「みんなちゃんと知ってます、先輩がどれだけ優しいのか」
落ち着かせるように雫くんはゆっくりと彼女の背中を撫でた。
「さて、さっきも言った通りだ。君が魔物であることはもう知られている、しかも人気者だ」
彼女の目をまっすぐ見た、今なら私と目を合わせて直接話してくれるはずだ。
「ならこれから君がするべきことは何だと思う?」
彼女は一瞬きょとんとする。
「えっと……みんなにお願いする、とか? 悪い魔物じゃないから倒さないでって……」
その答えに思わず息を吐いた、ずっとそんな悩みを抱えていたのか。
雫くんも呆れた顔をしている。
「違う!」
思わず椅子を蹴るように立ち上がった。
彼女がびくりと肩を震わせるが構うものか。
天井を指さす勢いでびしりと人差し指を突き上げる。
「せなくんには――アイドルになってもらう!」
「「ええええっ!?」」
なぜか雫くんまで絶叫している。
せなくんを元気づけるために私は胸を張り、高らかに笑った。
―――さあ、フラウ・ウィッチ隊はこれから忙しくなるぞ!




