第11話 二人きりで何も起きないはずはなく
デジャヴ!!
目の前には肩で息をする青毛の魔女。
前にもあったな魔物を倒したあと魔女と二人きりになる展開。
あの時は赤毛の魔女だったけど。
「私、見ての通り動けませんので捕まる心配はないですよ?」
弱々しく笑いながら訴えてくる彼女の瞳はどこか寂し気で、少しだけならここに残ってもいい気がした。
何でかはわからないけどいつものように逃げたいという感情が湧いてこなかったからだ。
「……おまえ、オレのこと知ってるのか?」
「せな先輩、ですよね?」
ずっと胸に引っかかっていた疑問に彼女は迷いなく答えた。
名前を言い当てた時点で確定だ。
こいつはオレを知っている。
「けどオレは、おまえを知らない」
「そうでしょうね」
魔女の青い瞳が揺れる。
確かにオレはこの魔女を知らないはずなのに、昔からこいつを知っているような感覚が心の中にあるのはなんだ?
「雨野 雫。私の名前です」
自分の感覚に少し戸惑っていると彼女が名前を教えてくれた。
「しずく? えっとオレは、月都星奈、です」
「あはは、知ってるって言ったじゃないですか」
かわいく笑うが背中と足からは心配になるくらい血が流れていて、笑い方にも力が無い。
咄嗟に彼女のケガの様子が気になって近づこうとする。
「待ってください、この距離で話しましょう。その方が先輩も安心できるでしょう?」
何でかこっちの心配をされてしまった。
「なぁ教えてくれ、オレは一体何者なんだ?」
「魔物、ですね」
オレの名前を言い当てた時と同様に彼女はためらいもなく返した。
頭では理解していたけど、第三者、それも魔女にきっぱり言われるとさすがに堪えるな。
「魔物のオレをなんでおまえは先輩って呼ぶんだ?」
「二年前に私が魔物から襲われているところを助けてくれたのが先輩だからですよ」
「意味がわからないしその記憶はオレにはない、それにさっきも言っていたけど魔物なんだろ?」
ふぅ、と彼女が小さく息を吐く。
彼女に対する記憶を持たないことへの落胆なのか、傷みに耐えるためなのかはわからない。
「私にもわからないことだらけです。ねえ先輩、私と来てくれませんか? 先輩が知りたいこと、私たちにもわからないことを一緒に解決していきましょうよ」
「……」
「大丈夫です、私は魔女ですけど先輩を倒そうなんてこれっぽっちも思ってませんよ」
「でも」
「別の魔女がどうかってことですよね。それは……大丈夫だと証明する手段が残念ながら今はないですね」
「それなら考え――」
「少し考えてみてくれませんか? 私も動くことができませんし」
こいつ、聞きたいことを全部先回りしてくるな?
話している間にも彼女の傷口から血は流れ続け、呼吸は目に見えて荒くなっていく。
「それも時間稼ぎかもしれないって思ってるでしょ?」
そんな状態でも彼女はオレの思考を読み取ってくる。
「実はですね、回復のできる魔女がすぐ近くに来てくれてるんですよ」
「えっ!?」
思わずガバッと振り返る。
けど当然ながら人影なんて見当たらない。
あるのは公園の景色だけだ。
「いるわけないじゃないですか、先輩を安心させるために見えない所で待機してもらってるんです。……まぁ正直、今の私だいぶギリギリの状態なんですけどね」
ぼそっと付け足したその言葉をオレはしっかり聞いてしまった。
―――――どうする?
魔物として生まれてからずっと求め続けていた人との共存が手の届くところまで来ている。
チラっと彼女を見ると、オレが迷っているのを見透かしたように黙って待ってくれていた。
答えはもう出ているかもしれない、けどどう生きればいい?
魔物として生きるなら、すべての人が受け入れてくれるのか?
もしくは人として生きた場合、魔物だとバレてしまった時はどうなる?
一人で抱える問題ではないとわかってる、ただ彼女の提案を受け入れるなら相応の覚悟が必要になる。
「……先輩、……ごめんなさい私もう、限界です」
彼女を見るとすでに息も絶え絶えになっていて、顔色は血が抜けて真っ青だ。
「今日はここまでにしましょう……、次に会えた時は、答えを聞かせてくれますか?」
足が自然と前に出ていた。
言葉を紡ぐだけでも苦しそうな彼女の体を、オレは優しく抱き寄せる。
「……先輩?」
虚ろな声が痛々しい、でも安心しろ。
オレは彼女を抱きしめたまま、ある能力をそっと使う。
次の瞬間彼女の傷は跡形もなく消え失せ、代わりにオレの体に無数の切り傷が走る。
けど問題はない。
魔力を巡らせれば傷なんてすぐ元通り、ほらな?
人型の魔物が使う転化の能力。
傷を移せるなら逆もいけるはず!
半信半疑だったけど、どうやら正解だったみたいだ。
抱きしめる必要はなかったんだけど、人の温もりをオレは感じたかったのかな?
キズが消えた彼女をもう一度遊具へ寄りかからせる。
「何でもありなんですね、すでにラスボスじゃないですか?」
さっきまで動けなかったくせに、回復した途端これだよ。
大量に血を流したせいで彼女の瞳はまだ揺れている。
それでも口元がいたずらっ子みたいにくいっと上がっていた。
「くだらないこと言ってないで、一緒に行くんだろ? 立てる?」
ため息交じりに彼女へ手を差し伸べる。
「ちょっとダメみたいですね、血を流しすぎました」
青ざめた顔で苦笑する彼女は、どう見ても自力で立てそうにない。
「しょうがないな」
オレは彼女の前で背を向けそのまましゃがみ込んだ。
「ホラ」
短く促すと彼女はわずかにためらってから、そっと背中に体を預けてきた。
「どこに行ったらいいんだ? 道案内してくれよー」
「あっちで応援の魔女が待機してくれてますよ」
彼女の指さす先へ足を向ける、背中から小さな声。
「やっぱり優しいですね、先輩は」
優しい?
優しくなんてないよオレは。
いつでもおまえのケガを治せたくせに、こんな状況になるまで引き延ばしたんだぞ?
歩きながら考えていた。
やっぱりオレって悪い魔物だよな。
……オレみたいな存在を、人間が受け入れてくれるのか?




