第10話 青い魔女との出会い
失敗した!
街中で子供と遊ぶのに付き合ってあげたり人を助けた時に転移を使ったりと、オレの魔力量が少なくなってきていた。
存在維持が危ういなんてことはなく、人間で言うところの『小腹が空いた』程度ではあるんだけど。
ならなぜ失敗したかだって?
そりゃあもっと上手に人とコミュニケーション取れたはずだよなぁって反省だよ。
人前で魔力を使ったことは反省する必要性ないからな?
あれ? 魔力感知されてたらマズかったのか?
まぁいいや、見つかってないんだし大丈夫だろ。
以前イノシシの魔物を倒してからの数日は魔物が出現してなくて人間の世界は平和だった。
ただ、魔物に出てきてもらわないと魔力の補充ができない。
魔力が発生しそうな所を探してみるものの、魔物の出現に関しては条件がわからないのでただ当てずっぽうにしか行動できてない。
すると以前子供と遊んだ公園から魔力の発生を感じ取れた。
やっと来たかと考えながらオレは急いで現場に向かう。
どうやら誰かがすでに戦っているみたいだ。
気づかれないよう公園に設置してある遊具の影へ身を隠し様子を窺う。
すぐそばでは噴水が絶え間なく水音を立てており、こっちの物音をある程度かき消してくれるはず。
見えたのはオレに背を向けている魔物、そして魔物と対峙している魔女だ。
魔物の姿は人型で手足がある、完全に人の姿というより楕円形の胴体に手足が生えていて全体的にのっぺりとしていた。
魔女を見れば、青色の髪の毛でこれまた青い刀身が短めのシミターを両手に持っている。
二刀流か!
そして私服、だよな?
ということは魔女にこれといった決まりの服はないのか。
「魂源解放!!」
青毛の魔女が叫ぶと同時に近くにある噴水から水が勢いよく飛び出し、彼女たちの足元を水浸しにした。
水の動きに攻撃性が一切なく、オレは不思議に思いながら濡れた足元を見ていると青毛の魔女が地面へ沈んでいった。
魔女の姿を見失った魔物が慌てて彼女の姿を探すため周りをキョロキョロと見渡す。
あの魔物には顔がないけど視界が存在してるのか?
くるりと体を回した魔物の背後から青毛の魔女が勢いよく飛び出し、クロスした両手に持っていた双剣で魔物の背中を切り刻んだ。
無防備な背を切られてよろめいた魔物が後ろを振り返るが、魔女は再度地面に潜っていて彼女の姿を見ることができない。
水のある所へ潜ったりして隠密みたいな技を使うんだな。
一方的に斬りつけた割に魔物に思ったほどダメージを与えられてないのを見ると攻撃力はあんまりなさそうだ。
考察しながら二人の戦いを見続けていると、今度は魔女が魔物の足元に上半身だけ現れて目の前にある両足を一閃する。
足を切られた魔物は当然立つことができなくなり公園の草の上にあっけなく倒れた。
「人型で良かったです、足の健を切りましたので立てないはずです」
立ち上がれずもがいてる魔物の近くにいつの間にか魔女が現れていた。
「技能を使われる前に仕留めます、水よ!」
魔女が両手を天に掲げると、地面を濡らしていた水が彼女の双剣へと吸い込まれていく。
刀身の青色が淡く光り始め、両手を振り下ろし魔物を切ろうとした瞬間だった。
彼女の背中に無数の切り傷が生まれ、足元からは血しぶきが飛びうつ伏せの状態で彼女が倒れた。
魔女の手から離れた双剣が虚しく草の上に転がる。
「ぐぅ! 一体何が、まさか!?」
倒れ伏した魔女の目の前で、さっきまで立つことすらできなかった魔物がゆらりと起き上がる。
なんだ? どういうことだ!?
魔物が見下ろすように魔女へ歩み寄り、両手で彼女の首を締め上げようと迫った。
オレはすぐさま走り出しそのまま魔女が落とした双剣を拾い上げ、振り上げる勢いで魔物の胴体を逆袈裟に切り裂く。
「武器、借りる!」
「っ! 先輩!?」
背後から魔女が何か話しかけてくるが、勝手に借りた双剣の苦情は今受け付けてない!
それとオレの名前はせんぱいじゃない、せなだ!
双剣を構えたオレの前には、切られた胴体を手で押さえながら睨みつけてくる魔物。顔がないから本当に睨んでいるかはわからないが。
戦いとは関係ないことを考えていると、胴体を切り裂いたはずの魔物の傷が一瞬で消え去ると同時にオレの体へ激痛が走った。
「痛ってー!」
「その魔物は与えられた傷を『転化』させるみたいです先輩!」
「そういうことか!」
魔女から魔物の能力の情報を聞いて、オレと魔女にいきなりキズが現れたことに合点がいった。
傷を与えるだけならまだしも、移し替えで自分の傷が無くなるってずるくないか!?
まず自分の傷を魔力で塞ぐことに集中する、回復には攻撃以上の魔力を消費するが問題ない。
なぜなら、
――魔力はオレがこの魔物を倒して補充するからな!!
じわりと魔物がこっちに歩み寄る気配を感じると、後ろで倒れている魔女を抱えてさっきまで隠れていた遊具まで距離を取る。
遊具の影から様子を見ると魔物はのそりのそりと歩いているだけだ。
あいつ、動きがそこまではやくないな?
「すみません先輩、それからありがとうございます」
「……」
背中から血を流す魔女を少しでも痛みが和らぐよう腕側からそっと横向きに遊具へ寄りかからせる。
彼女を背にかばいながら、オレは再び魔物へと視線を向ける。
それにしてもこの魔女はさっきからオレの事を先輩と呼んでくるが、別人と勘違いしてるのか?
今は戦いに集中するため考えている暇はない、再び構えを整えて握りなおした双剣へ視線を落とす。
「装着している魔石は青の魔力ですけど、使えますか?」
双剣へ視線を向けたオレの意図を察したのか魔女が問いかけてきた。
魔石や魔力には色がある?
いやそれよりも、話しかけられるたびに思考が途切れるから今はちょっと黙っててほしい。
魔物もいまだゆっくりだがこっちへ着実に近づいてきてる。
まず右手を挙げて剣に魔力を注ぎ込んでみる、すると剣に吸収されていた水が球状になって宙へと浮かんだ。
そのまま剣先を前方に向けて浮かんだ水の球を魔物へ放つ。
避けもせず水球がぶつかった魔物は濡れた自分の体を見下ろしているだけだった。
あいつは水を脅威として感じていないんだな?
即座に左手の剣からも水を引き出し、さらに噴水の水まで強引に引き寄せる。
やがて魔物を丸ごと包めるほどのデカい水球が宙に完成した。
「てえい!」
両手を振り下ろして水球を放ち、魔物を水の中へ封じ込める。
攻撃じゃないからこっちにダメージは来ないよな?
けどあいつは苦しむ様子を見せない、どうやら『溺れる』という概念自体が通じないらしい。
さてどうするか?
オレは天に突き上げるように両手を掲げ、持っていた剣をクロスさせる。
「はぁ!」
気合とともに水球が一瞬で豆粒以下の大きさまで収縮する。
閉じ込めた魔物ごと圧縮するように魔力を水へ込めておいた。
圧死というやつだな、中の魔物は何が起きたのか理解する暇もなかったはずだ。
小さくなった水球から魔物の魔力を吸い込むと、魔石がコロンと落ちた。
よし一段落、そう思っていた時期がオレにも(略
「もうほんとめちゃくちゃな戦い方ですね。それより先輩、少しお話しませんか?」
振り返ると、血を流し肩で息をする魔女がこっちを見ている。
……一段落どころか本番はこれからみたいだ。




