第13話 魔女の宣言と魔物の表明
―――どうしてこうなった!
体の震えが止まらない、ガクガクと情けないほどに。
元々立派ではないけどな!
フラウさんと話してから数日。
ついに今日、とある劇場を貸し切り全国へ向けてオレのお披露目が決行された。
合図があるまで裏で待機しておいてくれと言われている。
フラウ隊に誘われたあと、オレは今までの配信を見せてもらった。
チャット欄を覗いても、オレがいなくなったあとの皆の反応を見ても。
―――どうやら悪く思われてはいないらしい。
他の魔女たちとも話してみたが、敵意はまるで感じなかった。
……それだけで安心できるほどオレという存在はこの世界において単純なものじゃない。
「みんな今日はありがとう、フラウ・ウィッチ隊のフラウだ。さっそくだが始めよう。今、世間を騒がせている魔物――月都星奈くんについての話だ」
あぁ始まっちゃったぞ……。
舞台袖からそっと覗いてみる。
スポットライトを浴びたフラウさんは隊長室で見た時以上に凛々しい。
まっすぐ前を見据え微塵も迷いがない。
あそこには一体どれだけの人が集まっているんだろう?
考えただけでもっと緊張してきた。
もしオレが人間だったら? とっくに心臓が破裂してたな!
「確かに彼女は魔物だ、これは事実だ。だが同時に彼女がこれまで何をしてきたかもまた事実」
演説するフラウさんの両脇には雫と赤里ちゃん。
二人とも背筋をぴんと伸ばしている。
……?
雫、お前はなんでそんなにニコニコしてる?
そこは真面目な顔をしろ。
「彼女は自らの危険を顧みず何度も魔物から人々を守ってきた。破壊ではなく救済を選び、憎しみではなく共存を望んだ」
よく通る声が劇場いっぱいに広がる。
その言葉を聞きながらオレはそっと自分の姿を見下ろした。
ひらりと裾が揺れる。
ピンクとブルーを基調にしたフリルだらけのドレス。
星型の装飾に、金のライン。動くたびにきらりと光を弾く。
胸元の大きなリボンに肩からかかるマント風のケープ。
どう見てもアイドル衣装です、ありがとうございました。
いつもはパンツスタイルだからむき出しの足が妙に心もとない。
「私は断言しよう。彼女は敵ではない、脅威でもない。むしろ我々が守るべき『希望』だ」
希望。
そんな言葉がオレに向けられているらしい。
けれどひとつも頭に入ってこない。
もうすぐだ、次はオレの出番。
もし舞台に出た瞬間に罵声が飛んできたら?
石なんか投げられたら、いや石で済むか?
喉がからからに乾く、足が今にも逃げ出そうとする。
……いまなら、転移で消えられるんじゃないか。
「せなくんは悪い魔物ではない。彼女は――私たちと共に生きる仲間だ!」
舞台の中央でフラウさんがこっちを見る。
最低な考えをしていたらついにその瞬間が来てしまった。
まっすぐな視線。
そしてゆっくりと手が差し出される、光の中へ導くみたいに。
「おいで、せなくん。君の声をみんなに届けよう」
やっぱり怖い。
オレはぎゅっと目を閉じたまま、光の中へ一歩を踏み出す。
足先の感覚だけを頼りに進む、そのとき背中にそっと触れる手があった。
……きっと雫だ。
言葉はない、けれどその温もりが「大丈夫」と言っている気がした。
温もりに導かれて足が止まる、ここだ。
目を開けたら真正面にはきっと大勢の視線。
オレは胸の前で両手を握りしめた。
意を決して目を開ける。
そこには視線の海……ではなく客席に並べられた数台のカメラだけ。
赤いランプが無機質に光っていた。
「……え?」
思わず振り返る。
フラウさんは顔を背け、肩を震わせている。
赤里ちゃんはいたたまれないといった顔で視線を泳がせた。
雫に至ってはぐっとこちらへ親指を立てていた、満面のドヤ顔で。
「どうですか先輩、びっくりしました?」
雫が楽しそうに話す。
「安心していいのよ? ここには私たちしかいないわ。観客は――画面の向こうだけ」
赤里ちゃんが少し申し訳なさそうに付け足した。
「種明かしだ、今は生配信中だよ」
フラウさんが笑いを堪えきれずに言った。
オレはゆっくりと客席を見渡す。
誰もいない??
「……なーんだ!」
カメラの一台をびしっと指さす。
「じゃあオレはこのカメラを相手に話せばいいってこと?」
さっきまでの緊張はどこへやら。
「もう、初めからそう言ってよ! 対面じゃないなら楽勝だよ、よゆー! よゆー!」
嬉しくなって、その場でくるりと一回転。
ひらりと衣装の裾が舞い上がり、スポットライトを受けてきらめいた。
さっきまで震えていた足が今は軽い。
「おーい、みんな見てるかー?」
カメラに向かって手を振る。
「オレの名前は月都星奈! 今日から『アイドル』始めるからな、推してくれてもいいぞ!」
軽くステップしながら舞台を歩き回る。
「こーんなかわいいんだから、応援しない理由なんてないよな!」
スカートの裾をつまみ、カメラへ向けて弾けるような笑顔を投げた。
「みんなのことはオレが守ってあげるからな、もう心配することなんてないぞー」
カメラを順番に見つけては指を差し、ウインクして、また手を振る。
こういうのたしか『ファンサ』って言うんだよな?
ふと、視界の端に三人の魔女の姿が映り込む。
「ほんとに? ほんとにオレって人と暮らしていいの?」
配信のことを忘れて三人へと歩み寄る。
その問いにフラウさんはわざとらしく咳払いをひとつ、そして芝居がかった仕草で手を掲げた。
「あぁ、私がここに宣言しよう! せなくんを正式な魔女として迎え入れると!」
びしりと舞台に響く声。
その声に釣られ背中を押されるように、オレは腰に手を当て胸をぐっと張る。
自然と口元がゆるみ、生まれてから今までで一番のドヤ顔をする。
そして、舞台のど真ん中で叫んでやった。
「オレは、わるいまものじゃないよ!!」




