第九章 第二選別――崩壊
時間の感覚がなくなっていった。
なな、セレネ、ゆい。
三人は同じ部屋に置かれたまま、長時間にわたって薬物と恐怖に晒された。
最初に崩れたのは、ななだった。
「……セレネ、ここにいて……」
いつもの明るい声ではない。
セレネは隣まで移動した。
「いる。いるから」
自分も震えているのに、ななの手を掴む。
指を離そうとはしなかった。
ゆいは壁に背を預けていた。薄紫側の羽はすでに濁った紫へ沈み、その色が金色の羽の付け根へまで滲み始めていた。
りんがいたら。
こんな時でも、きっと強がって文句を言っただろう。
「……ほんと、こういう時だけいないんだから」
誰にも届かない独り言だった。
モニタールームでは、視聴者数が増え続けている。
コメント欄には、三人の恐怖を面白がる言葉が流れていた。
投票まで始まった。
『次は誰?』
投票率だけが、上がっていった。
再び扉が開く。
ひなたとせなが戻ってきた。
ひなたはせなに支えられている。
残った尾の一本が、またせなの影へ向かった。
「せ……な……?」
名前を呼んだ。
せなの足が止まる。
ほんの一瞬だけ、ひなたを見る。
「……ひなた」
すぐに表情を消す。
そして、ひなたを連れて部屋を出ていった。
その短いやり取りを見て、ゆいは目を伏せた。
ななは泣いた。
セレネは何も言えなかった。
その後、三人には選択が突きつけられた。
従えば扱いを変えるかもしれない。
逆らえば、ひなたやりんと同じ別館へ送る。
ゆいは最後まで交渉しようとした。
「……本当に、助ける気はあるの?」
はっきりした答えは返ってこない。
ただ、「可能性」だけは否定されなかった。
「そんなの信用できるわけないでしょ」
セレネは首を振った。
「でも、何もしなかったら終わる」
「だからって……」
言葉が続かない。
ゆいは目を閉じた。
正しいかどうかを考えるのは、もうやめた。
「……分かった。言う通りにする」
声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「ゆい……?」
ゆいは振り返らなかった。
「生き残れる可能性があるなら、私はそっちを選ぶ」
ななはすでに会話できる状態ではなかった。
ゆいは提示された条件に従った。
途中で拒まなかった。
終わったあと、ゆいは自分の手を見た。
震えていなかった。
――できてしまった。
その事実だけが、妙に頭に残った。
けれど今は、それについて考えないことにした。
ふと、さっきせながひなたに名前を呼ばれて足を止めた場面が蘇る。
前は理解できなかった。
どうして、せながあんなふうに立っていられるのか。
どうして命令されたまま動けるのか。
今なら分かる。
ゆいも、同じことをした。
そこまで理解してしまったことが、何より苦しかった。
最終的に、三人とも競争へ戻れる状態ではなくなった。
配信画面が暗転する。
『綺羅星なな、汐見セレネ、天羽ゆい、脱落。』
終わった。
ゆいには、それだけは分かった。
生き残るために選んだ。
ただ、その答えを抱えたまま立ち続けることだけは、できなかった。
明かりが消える。
部下が入ってくる。
三人は別々の担架で運び出された。
ななの明るい声。
セレネの大げさなツッコミ。
ゆいの落ち着いた口調。
それらはもう聞こえなかった。
空になった部屋に、視聴者のコメントだけが残った。
第二ノルマを突破したのは四人。
・るる
・みこと
・つみき
・いぶき




