第八章 第二選別――別室
三人が連れて行かれた先には、ひなたとせながいた。
ななが目を見開いた。
「せなちゃん……?」
セレネも、目の前の姿を信じられずにいた。
「……なんで、そこにいるの」
ゆいは何も言わなかった。
部屋の奥。
椅子に座らされたひなたがいた。
以前の面影は残っている。
けれど、呼びかけてもほとんど反応しない。
かつて七本あった黒い尾は五本まで減っていた。残った尾にも以前の濡れたような艶はなく、視線も定まらない。
その隣に、せなが立っていた。
手には記録用のクリップボード。
顔の一部を隠す衣装。
三人が知っている「せな」とは、まるで違う。
せなが三人を見た。
「……遅かったね」
ななが、かすれた声で尋ねた。
「せなちゃん……何してるの?」
せなは答えなかった。
カメラのレンズに、赤いランプの光が反射する。
なながカメラを見上げた。
「……これ、配信してるの?」
せなが平坦に答えた。
「この部屋は配信されている」
視聴者数が増えていく。
ななの視線が、カメラからひなたへ戻った。
「やだ……なな、こんなのやだ……」
セレネが声を張り上げた。
「まだ終わってないでしょ。わたしたち、ちゃんと九万まで……!」
ゆいは三人の中でただ一人、カメラから目を逸らさなかった。
「……ルールはルール、ってこと?」
返事はない。
黒服が三人の腕を取った。
「離して!」
金具が鳴る。
少しして、ななが何かを言おうとして、言葉に詰まった。
誰かが見ている。
コメントしている。
数字が増えている。
自分たちが苦しむほど、視聴者が増えていく。
せなは淡々と記録を読み上げた。
「七尾ひなた。脱落後の経過を報告します」
クリップボードへ視線を落とす。
「呼びかけへの反応はほとんどありません。意味のある発話も減っています」
ページをめくる。
「ただ……時々、『せ』という音だけ確認できます」
指が止まった。
ほんの一瞬。
「床に線を描く動作は、現在も残っています」
また、平坦な声に戻った。
「……ひなたちゃん」
ななは泣いていた。北斗七星の星紋は七つとも残っているのに、光はほとんど消えていた。
セレネは拳を握っていた。
ゆいはオーナーを睨みつけた。
「これを見せて、何がしたいの」
答えは返ってこない。
「怖がらせたいだけ?」
それでも返事はない。
セレネが吐き捨てた。
「……最悪」
三人に短い処置が行われる。
次第に、まともに立つことも難しくなっていく。
ななはひなたを見て泣いている。
セレネはカメラを見るたびに顔を背ける。
ゆいだけが、まだオーナーから目を逸らさなかった。淡い金と薄紫に分かれていた羽から、細かな鱗粉が止めどなく落ちていた。
途中、ひなたの拘束が外された。
小さな体が床へ崩れそうになる。
せなが支えた。
その瞬間。
ひなたに残った尾の一本が、せなの足元の影へ向かってほんの少し動いた。
「……せ……」
せなの手が止まる。
ななも、セレネも、ゆいも、その音を聞いた。
「……ひなた」
一度だけ。
名前を呼び返す。
しかしすぐに表情を消した。
ここで止まれば、自分も戻される。
せなはそれを知っている。
「……来て」
ひなたを別の部屋へ連れていく。
その背中を、三人は見送った。
しばらくして鉄扉が閉まった。
残された三人に、次の処置が始まった。
カメラだけが回り続ける。




