第六章 第一選別――二人
別館。長い廊下を歩かされた。
せな、りん、二人の足音だけが響く。
二つの部屋が並んでいる。
鉄の扉が二つ。
ここは配信部屋ではなかった。
せなが室内を見回した。
「……何、ここ」
壁には薬品棚。
室内には椅子とカメラ。
ひなたが消えていった先と、よく似ていた。
「おい……ふざけんなよ」
りんの細い竜尾が、隠しきれない緊張で硬く伸びている。
鉄の扉が閉まった。
二人は別々の部屋へ入れられた。
隣の部屋から、りんの怒声が響いた。
「離せって言ってんだろ!」
隣の部屋から、金具の鳴る音がする。
せなも腕を捻ろうとした。
外れない。
「……何、これ」
しばらくして、壁の時計を見る。
もう一度見る。
針の位置を確認したはずなのに、何分経ったのかが出てこない。
扉を見る。
薬品棚を見る。
また時計を見る。
「……頭、回らない……」
隣から、りんの声が聞こえ続けていた。
「こんなんで……あたしが折れると思うなよ……」
少し間が空く。
「……聞いてんのかよ」
返事はない。
次に聞こえた声は、さっきより掠れていた。
二人は同じ部屋へ移された。
カメラが回っている。
視聴者のコメントも流れ続けていた。
そして、二人に問いが投げられた。
「どちらを助けてほしい?」
せなが、投げかけられた言葉を繰り返した。
「……助ける……?」
りんが顔を上げた。
「何言ってんだ……」
せなの視線が、鉄扉へ向く。
ひなたが消えていった先。
さっきまで、りんと別々に閉じ込められていた扉。
「せな、答えろ」
せなの目が揺れた。
りんを見る。
自分の手を見る。
そして、消えたひなたを思い出す。
「……私を……」
声が止まる。
「おい。言うな」
「……私を、助けて……」
小さな声だった。
りんは一瞬、何も言わなかった。
それから、いつものように強い目でせなを見た。
「……ばか」
怒っているようにも、呆れているようにも聞こえた。
次の瞬間、黒服が動いた。
「触んな……!」
床を蹴る音。
何かが倒れる音。
やがて、声が止んだ。
黒服に抱えられたりんが、鉄扉の向こうへ運ばれていく。
せなは、その背中を見ていた。
自分が選んだ。
その事実だけが残った。
配信が終了する。
部屋には、せなとオーナーだけが残った。
「……」
「何でも、するよな?」
せなは顔を上げた。
開いたままの鉄扉の向こうを見る。
ひなた。
今、運ばれていったりん。
「……する」
しばらくして、もう一度。
「何でもするから……あっちには、行きたくない……」
目の前に衣装が置かれた。
顔を隠すためのもの。
そして、新しい役割。
アシスタント。
「……これを着れば……別館には行かなくていい?」
返事の代わりに、衣装が差し出された。
せなはそれを受け取った。
その日、第一ノルマの敗者は二人だった。
一人は別館へ。
もう一人は、競争そのものから外れ、オーナー側へ立つことになった。
第一ノルマ終了時点。
競争に残ったのは七人。
るる、みこと、いぶき、なな、つみき、ゆい、セレネ。




