第四章 最初の脱落
別室は、九人に与えられた配信部屋とは明らかに違っていた。
狭い空間。
簡素な椅子。
壁のモニター。
天井のカメラ。
そして、通常の配信設備とは用途の異なる器具。
それは、九人に与えられた配信チャンネルとは別の回線だった。
誰が見ているのか、ひなたには分からなかった。
赤いランプが点いた。
壁のモニターに、数十という数字が表示される。
ひなたはカメラと鉄の扉を交互に見た。
促されて、ようやく口を開く。
「……七尾、ひなた……です……」
壁のパネルが開き、用途の分からない薬品や器具が姿を現した。
コメント欄が一気に加速する。
『え、なに?』
『これ本当に配信していいやつ?』
『誰か止めろ』
『能力使って逃げられないの?』
「……なに、それ……?」
ひなたは鉄の扉へ駆け寄り、取っ手を掴んだ。
動かない。
両手で叩く。
「お願い……何でもするから……ここから出して……!」
返事はない。
黒服が近づく。
ひなたの腕が取られ、金具の音が短く鳴った。
何か冷たいものが腕に触れた。
「……やだ」
カメラだけが、より見やすい位置へ静かに動いた。
壁の数字がまた増える。
「やめて……」
少しして。
「帰りたい……」
また少しして。
「せなに……会いたい……」
声は、呼ぶたびに小さくなった。
「……せな……」
扉の向こうで足音がする。
ひなたの肩が跳ねる。
近づく。
七本の尾が身体へ寄る。
遠ざかると、ひなたは床へ座り込み、膝を抱えた。
カメラは止まらない。
視聴者だけが増えていく。
やがてオーナーが部屋へ戻ってきた。
ひなたは顔を上げる。
足音を追うように目が動く。
けれど、焦点は合わなかった。
「……だぁれ……?」
返事はなかった。
短い処置のあと、ひなたは床へ崩れ落ちた。
配信画面が暗転する。
表示されたのは一行だけだった。
『七尾ひなた、脱落。』
視聴者七千四百人が、その一行を見つめていた。
残った九人にも通知が届く。
003号室で、みことはそれを閉じなかった。
しばらく画面を見つめていた。
机の端に、薄い霜が浮いていた。
詳細不明。
ひなたがどこに行ったのか。
生きているのか。
何が「脱落」なのか。
誰にも分からなかった。




