神の執着に気付いても、もう遅い
「お父様の差金?何のお話を……」
「わざわざ田舎から聖女を見つけ出すなんて、美しい親子愛だ。それで君が僕を諦めるなんて、そんなはずないだろう。ああ、どうかそうだと言ってくれ」
音を立ててレースのカーテンに稲妻の光が走る。大きな雨音が辺りから聞こえてくる、天蓋の隙間から見えるのはただ、暗闇ばかりだ。
目を白黒とさせているエリザに顔を近づけ、神は問う。
「ずっと僕の花嫁になりたがっていたろう、どんな未来を想像していたんだい?」
神々しい濡羽色の髪が顔を隠す
白いかんばせに影が落ちた。
「そうか」
納得したように頷いて、一言。
「────君は華やかな結婚式がしたいんだね」
心の中を覗き込まれるような感覚にエリザは身震いした。
見栄も、強がりも、隠し事も、全てが筒抜けで、透明な箱の中に閉じ込められたかのようだった。
「もう少ししたら、君の望むような素晴らしい式を挙げよう。神々を招いて、僕の美しい花嫁を自慢すると誓うよ。けれど、少しだけ、君を独り占めさせてほしい。どこの神だか知らないが、まだ数百年も生きていない若造が、エリザに触れるなんて、────許せない」
一息にそう言い切った後、ようやく満足したかのように神は穏やかに目を細めた。
「まあ、しばらくは君を誰にも見せたくないんだ
少なくとも百年はね」
当たり前のように話す神に、エリザは一瞬、聞き間違いかと思った。
「私、そんなに、生きられないわ」
エリザが恐る恐る返事をすれば、神はきょとんとした顔でエリザを見た。
そして、やれやれと仕方がないものを見るように眉を下げる。心底愚かで愛おしいと言いたげな顔をしていた。
「まだわからない?」
「神の花嫁になるとは、そういうことだよ」
黄金の瞳は、神秘的な色を湛えてこちらを見つめている。いつも惚れ惚れしていた美しいその瞳が、今は、酷く、恐ろしかった。
「僕が怖いかい」
耳元で囁く。
「今更、今更だよ」
堪えきれないとばかりに、くすくす笑う。
「もう遅い」
神はとても嬉しそうに、明るく笑っていた。
「君にだけ、僕の名前を教えてあげるよ」
聞いてしまったら、もう二度と戻れない確信があった。
けれど、エリザは既に、指先ひとつ動かすことが叶わない。
「僕の名前は、トゥアイハス」
エリザの魂に刻み込むように、深く、深く。
「愛しているよ、エリザ、僕の愛おしい花嫁」
美しい神が、私に情熱的なキスをする。
酸素を求めて身体をよじっても、追いかけてくる熱からは逃れられない。
絡みつく白い腕が、ゆっくりと、拘束していく。蝶の羽を手折るように、ゆるやかに、エリザは自由が奪われていくのを感じた。
エリザはそれでも、嬉しかった。
一方通行の愛が、報われるならば、何を投げ捨てたって後悔などなかった。
けれど、エリザの頭の片隅に、ふと父親の顔が過ぎる。
その瞬間、息もできないほど熱く抱きしめられた。
「エリザ」
ドロリとした低い声が鼓膜を揺らし、エリザの小さな耳を甘く噛んだ。
エリザは悟った。
何もわかってなかったのは、エリザの方だったのだ。
もう、どうしたって、逃げることはできはしないのだろう。
愛されて育った我儘な一人娘は、ある日忽然と姿を消してしまった。
家族は嘆き悲しんだが、誰も彼も、娘が拐かされたことを知っていた。
一千年以上もの間、ずっとこの国に降り立っていた神が、その日を境にぴたりと姿を見せなくなったからだ。
だから、あれほどにまで、神の花嫁は、聖女でなければいけないと、言い伝えられていたというのに。
end
エリザ
実は千年前から何度転生しても、必ず神に恋をし続けている。
一番最初の人生で、恋した神に告白したが、ふられる。次に生まれ変わった時は、私を愛してくれますか?
いや、生まれ変わったら僕のことを忘れるよ
いいえ!!私は必ずあなたをまた愛します。ずっと、愛し続けます!!
からの、有言実行の鬼。
途方もない長い年月をかけて、神を振り向かせる。粘り勝ち。
今回の生では初めて神の地雷を踏んでしまい、ついに人外デビュー。
とはいえ、そもそも両思いなので幸せに暮らします。
トゥアイハス
千年前に出会った少女に熱烈な告白をされた。が、人の子あるあるとして当たり障りなく聞き流していた。しかし、何十回転生しても必ず自分を愛する姿に心をうっかり動かされる。
赤子の頃から老年まで、全部見てきた上で彼女を魂ごと愛している。
あまり自分から干渉しないようにと思いつつ、ついつい泣いてたらほっとけなくて声かけて、また好かれる。
というか好かれる為に声かけてるんじゃないか?疑惑。
色んな時代を見て来たから、現代の成人が何歳かちょっとわかんなくなったりして、えーっと、今世の君はもう成人したっけ?みたいなノリ。時間の感じ方が人間と違いすぎる。老人ムーブ。
人間としての生を奪うのは抵抗があったが、我慢がたたって今回一気に爆発した。
基本的に優しいが、そもそも存在が神のため、普通に常識外れな思考をしている。理不尽に罰を与えようとすることに、抵抗はない。
今日中にあと一話、ちょいギャグ後日談みたいなの書いて完結です。誰かの性癖に刺さったら嬉しいです。
お盆休み終わらないで。




