住職1
「本当によろしいのですね?」
「はい」
毅然とした態度が癪に障る。不機嫌が表情に出ていることには気付いていたが取り繕うのも馬鹿らしかった。
「事情はよく知りませんが、正直私はどうかと思いますけどーー」
「私の家族なので私が決めます」
まるで踏みつぶすかのようにこちらが喋り終える前に彼女は重ねて喋った。
気に食わない。毎月お布施を払ってきた客だぞと言わんばかりの上から目線と、仏に仕えていると言いながら所詮は仏をだしに金をせびっている守銭奴程度にしか思っていないのがありありと分かる蔑んだ視線。慣れてはいるし否定もしないが、自分よりも二回りは下の小娘にそんな目で見られる筋合いはない。
第一、この女と直接言葉を交わすのはこれが初めてだった。これまでは恭一という彼女の父親が顧客だった。
彼は良かった。品のある見た目と振る舞いに見合った額を毎度包んでくれた。亡くなった妻を想う態度や言葉にどこか嘘臭さがあるのはいただけなかったが、こちらとしてはもらえるものをもらえればそれで十分だった。なのに彼が死んで出てきたのがこいつだ。今よりまだ青臭い頃を見てきただけに、あの頃の陰気な女がどう育ったかと思えばこの始末だ。
家を潰すから母の魂を抜いてくれ。しかも自分にも分からないような場所へ移せときた。全く意味が分からない。まだ父の四十九日も終えていないというのに。
ーーこのガキまさか……。
葬式だけは仕方なくやったが、その後の面倒は一切見ないつもりか。四十九日という現世とあの世の境界線にある魂を放置するとは俄かに信じがたいことだが、彼女の態度からしてどうやら本気らしい。
正気とは思えない。信仰心があろうがなかろうが日本は仏教の価値観に染まっている。宗派によって内容は異なれど、死者を正しくあの世に導くのは我々住職だけではなく生者の義務だ。それを放棄するなんて閻魔も恐れぬ冒涜だ。だが、
ーー勝手にしろ。
こいつは駄目だ。止まらない終わった人間の目をしている。救いようがない。結局は客商売で決めるのは向こうだ。自ら地獄を選ぶのであればそれもよかろう。天国だけが正しい選択ではない。人によっては地獄が必要な場合もある。
「ま、好きにしてください」
そう言い捨て俺はさっさとその場を後にした。




