7話 父との朝食
レシリア家には、朝食は必ず家族全員でとる決まりがある。先代からの教えらしい。
真面目な父は義務的に従っているが、自分との食事はつまらないものだろうとミリルは考えていた。
兄が留学に出てから、朝食の時間はより静かなものになった。
いつも通り父と2人で朝食を食べていると。
「魔法塔はどうだった」
父が珍しく質問をしてきた。
ミリルが何か粗相をしていないか気にしているのだろう。
「奇妙な魔道具や魔法設備があり、とても学びの多い機会となりました」
「そうか」
氷のウォルダリア公爵。
父は裏でそう呼ばれている。
属性が水魔法ということもあるが、その冷淡な性格ゆえに氷と称されているのだろう。
いつも通りの無表情とそっけない返答に、少し息が詰まった。
いつもならここで会話は終わる。
だが、今日のミリルは言葉を続けた。
「ですが」
ミリルはフォークとナイフをその場に置き、勇気を出して言葉を振り絞った。
「ご存知の通り、私には魔力がありません」
嘘でも、その言葉を口にすると胸が苦しい。
魔法鍛錬に打ち込んでいた未来の自分と、これまでの自分の感情が一気に流れ込んでくる。
「あぁ」
自分の覚悟に反して父は相変わらず冷静だ。
ミリルは小さく苦笑した。
「なので、魔法の授業の時間を剣術の稽古に変えたく、騎士団のどなたかを先生につけていただけないでしょうか」
「構わないが、貴族に必要な護身術程度なら既に身についているだろう?」
言葉自体は穏やかでも、その威圧感は計り知れなかった。
まるで、お遊び気分で大切な騎士の時間を割くなと告げられているようだ。
「他人を、まもれる人間になりたいのです」
ミリルは父の目をまっすぐ見つめ、力強く言葉を返した。
昔の私は、全てを諦めていた。
未来の私は、時に流されるまま死んだように生きていた。
今、声に出して初めてミリルは自分の本当の気持ちに気づいた。
あの日、未来の自分の記憶や想いに触れて、
それは自分なのに、どこか他人のもののように感じていて、
悔しくて悲しくて可哀想で、
断罪を逃れ、犯人を見つけ“彼女”の無念を晴らしたい。未来の自分である彼女を守りたい気持ちが芽生えていた。
あの記憶の中で、今のミリルは初めて誰かを守りたいという気持ちを知った。
「わかった。今日からでも変えるよう話をしておこう」
なんとか、熱意が伝わったようだ。
「ありがとうございます」
先日の魔法塔への見学許可といい、最近お願いばかりしている。
父は煩わしく思っていないだろうか。
表情を伺ってみても、その心はまるで読めなかった。
「お父様は、私が死んでも何とも思いませんか?」
未来の娘が虐げられていても見向きもしなかった父に、腹が立っていたのだろうか。
気づけばそんな言葉が口をついていた。
しまったと口に手を当て父を見た。
「……っ」
その表情を見て、ミリルは思い出す。
(お母様が亡くなったときと、同じ、冷酷な目…)
私を守るために亡くなった母。
父は怒っているのだろうか。
いつも以上に冷たい目が、ミリルへ向けられていた。
「申し訳ございません。今日の私は、どうかしているようです。ごちそうさまでした」
そう言い残し、ミリルは逃げるように席を立った。
残された公爵へ、側近の執事が静かに尋ねる。
「お答えしなくてよろしいのですか?」
「……あぁ」
短い返答とは裏腹に、その表情はどこか哀しげだった。
執事は小さく息を吐く。
「全く……貴方様はいつも素直ではありませんね」




