6話 生き残るためには
その夜。
ミリルは、破滅を回避する方法を考えていた。
どれだけ運命を変えても、魔力が暴走して怪物になってしまえば意味がない。
だが、その点については希望があった。
ユリスの計らいで、クロノスという師のもと魔法を学べることになったからだ。
「とはいえ……魔力が暴走しなくても、私は処刑されるのよね……」
学園で聖女を虐げた罪。
さらに断罪の夜会では、王子と聖女のグラスから毒が検出され、その首謀者としてミリルは処刑された。
もちろん、どれも身に覚えはない。
けれど未来で見た人々の目は、誰一人としてミリルを信じてはいなかった。
「王子との婚約も、貴族学校への入学も、避けないと」
だが、ミリル・レシリア公爵令嬢である限り、それはあまりにも難しい。
いっそ死んだことにしてしまうか。
そんな考えが頭をよぎり、ミリルは自嘲気味に息を吐く。
「ミリルではなく、別人として生きる…か」
幸い、兄がいる以上、跡継ぎの問題はない。
問題は、その後どう生きるかだ。
この国には、貴族、平民、農民という明確な階級が存在する。
平民街は仕事が少なく、治安も悪い。
女性が一人で生きるには厳しすぎる環境だった。
農民は王から土地を与えられ、代々受け継いで暮らしている。途中から入り込む余地はほとんどない。
商会を作るにも、国外へ逃げるにも、結局は貴族の後ろ盾が必要になる。
公爵令嬢という立場を捨てれば、国境を越えることすら難しいだろう。
「……なら、騎士?」
その瞬間、不意に道が開けた気がした。
騎士になるのに、身分は関係ない。
レシリア家は、王家に次ぐ規模の騎士団を有している。
数千の騎士を抱え、その実力は王宮騎士団すら凌ぐと噂されるほどだ。
「木を隠すなら森の中、ね……」
もし未来の断罪劇そのものが、公爵家の没落を狙った陰謀なら、ミリルだけ逃げても父も兄も助からない。
その点、領内の騎士であれば見張ることもでき好都合である。
「…そのためには、騎士学校を卒業しないといけないのだけど」
問題は、女では入学できないことだった。
最短で受けられるのは、三か月後の四月。
本来なら年齢制限にも届かない。
だが父の公務を手伝っていた関係で、戸籍管理についての知識はある。
平民街に住む十五歳の少年。
その程度の偽装なら、不可能ではなかった。
「性別や年齢は誤魔化せても……身長が足りないのよね」
ミリルは自分の身体を見下ろす。
たしか、入学条件は百六十センチ以上。
未来の自分は、それくらいには成長していたはずだ。
「……それまでは、できることをやるしかないか」
魔力操作。
体力づくり。
剣術の鍛錬。
やるべきことを並べていくと、不思議と心が落ち着いていく。
「人を一時的に死んだように見せる魔法ってあるのかしら」
明日、クロノスに聞いてみよう。
そんなことを考えながら、ミリルは静かに目を閉じた。




