3話 魔法塔見学②
「ミリル様!! ちゃんと着いてきてくださらないと危ないですよ!」
遠くから声が飛んできて、職員が小走りで近づいてくる。
「ごめんなさい。こちらの男性と……」
振り返る。
けれど、そこにいたはずの黒髪の男の姿は、もうなかった。
一瞬で消えた。
(高位の移動魔法…)
「……いえ、なんでもありません」
それ以上は触れず、ミリルは静かに言葉を引いた。
その後も案内は続いた。
魔道具の性能、研究設備の規模、さらには維持費や財政状況に至るまで、やけに細かい説明が並ぶ。
(ここまで話すなんて出資狙いね?)
内心で冷静に結論づけながら、表情には出さない。
「施設の案内は以上になります。こちらの図書館には、ミリル様のご興味に合う魔導書もあるかと存じます。どうぞご自由に閲覧なさってください。お帰りの際はお声がけを」
丁寧に一礼し、職員は去っていった。
残された扉を、ミリルはそっと押し開ける。
――息を呑んだ。
二階、三階へと吹き抜ける空間いっぱいに、本棚が幾重にも連なっている。
さらに奥には、光の差し込む庭園と閲覧スペース。
塔の内部とは思えない、広大な空間だった。
(……空間拡張魔法かな)
胸を躍らせながら、ミリルは二階へと足を進めた。
手当たり次第に本を開き、読み、また次へ。
時間を忘れるほどに没頭していた、その時――
「ミリル・レシリア様」
不意に、名を呼ばれる。
はっとして視線を落とすと、一階に一人の男が立っていた。
「初めまして。僕はユリス。ずっと君を待っていたよ」
白い髪に、透き通るような青い瞳。
柔らかな微笑みと、どこか神聖さすら感じさせる気配。
思わず見惚れるほど整った顔立ち――
(…でもさっきの人に、似てる?)
一瞬だけ、違和感が胸をかすめる。
「……! 気づかず失礼いたしました、ユリス様。すぐに参ります」
慌てて本を閉じ、階段へ向かう。
「いや、謝らなくていいよ。こちらこそ邪魔してしまってごめんね」
穏やかな声が、やさしく届く。
「何か気に入った本は見つかったかな?」
「どれも興味深いものばかりで時間を忘れ読んでしまいました」
――でも本当に探しているのは、別のもの。
闇属性の魔導書。
それを口にするわけにはいかない。
一瞬の間。
それを見透かしたかのように、ユリスがふっと微笑む。
「もしよければ――」
軽く首を傾けて、
「今からお茶でもどうかな?」




