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2話 魔法塔見学①



朝の食卓は、いつも通り静かで整っていた。

銀のカトラリーが触れる音だけが、やけに響く。



「お父様」



ミリルは、何気ない調子を装って口を開いた。



「この国で……一番、魔法に詳しい方はどなたでしょうか?」



ナイフを持つ公爵の手が、ほんの一瞬だけ止まる。

ゆっくりと視線が向けられた。



「魔法塔主、ユリス様だ」



短く、断定。



「だが——」



低く、釘を刺す声。



「滅多に人前には出ない。国王並みの権力を持つ御方だ。軽々しく会える存在ではない」



ミリルは小さく頷く。



「不老不死、と伺っております」



わずかに、父の目が細まる。



「よく知っているな。王国の礎だ。興味本位で近づくな」





——それでも。


(この人に会わないと、私は終わる)




胸の奥で、未来の記憶が静かに軋む。

あの断罪の光景が、逃げ場を塞ぐ。




「……魔法研究に、興味がございます。どうか魔法塔に行かせては頂けないでしょうか」




魔法塔は国の最重要機関である。


しかしその国王でさえ、塔主が断れば入ることは許されない。


ミリルは無理を承知で頭を下げた。




一拍。


公爵は視線を外し、静かに息を吐いた。





「見学の許可を取っておこう」




父の意外な返答にミリルは内心驚いていた。




「…ありがとうございます、お父様」




いつも通りの礼。



だが心臓だけが、速く打つ。








塔は街から切り離されたようにそびえていた。



高く、静かで、どこか生き物じみている。




足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。


新緑に囲まれているかのような澄んだ空気。




「お待ちしておりました。ミリル・レシリア様」




案内役の説明を聞きながら歩いていると、


ミリルの視線は、ひとつに引き寄せられた。



水晶。


属性を測る、透明な塊。



(……これで、分かるわね)



人の目が切れた一瞬。



ミリルは立ち止まり、そっと手を伸ばした。



次の瞬間——




音もなく、光が灯る。


金色。


静かで、それでいて目を奪う輝き。




(光属性……?)




「……ほう」



背後から落ちてきた声に、空気が沈む。



振り返る。



そこに立っていたのは、黒い髪黒い目をした若い男だった。


立っているだけで場の輪郭が歪むほどの威圧感。



視線が合った瞬間、逃げ場が消える。



(……だけど、この人何か懐かしい感じが)



「勝手に触れるとは」



静かな声。



「いい度胸だな」



ミリルはすぐに姿勢を正す。



「……申し訳ございません」



「謝罪はいらない」



その言葉を聞き、ミリルは頭を上げた。


その瞬間男が近づく



「お前——」



口元が、ほんの少しだけ歪む。



「面白いな」



背筋が、冷える。


 


ミリルは身を引きながらも



「……これは、光属性なのでしょうか」



あえて、踏み込んだ。



沈黙。



視線が絡みつく。


内側まで覗かれるような感覚。




そして——



「偽の聖女、か」



ぽつり、と。


心臓が跳ねる。



「……どういう意味でしょうか」


「そのままだ」



男はもう一歩、距離を詰める。



「それは“光に見せているだけ”だ」


「本質は、別にある」




ミリルの指先が、わずかに震えた。


未来の光景が、はっきりと重なる。




断罪。

処刑。




「では……私の属性は」




問いは静かに落ちた。


男は、楽しむように目を細める。


そして、囁く。




「闇だな」




音が、消える。


喉が動かない。




ミリルは運命を変える魔法により、


光属性に変わったのかもしれない…と


淡い期待を抱いていた。




何かを言おうとしても言葉にならない。


目の前の男だけが、くっきりと浮かび上がる。




その瞳が、愉悦に細められる。




まるで——すべてを知っているかのように。

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