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19話 牢の中の子供達は異変に気づく



ラディが目を覚ますと、ガーベルが泣いていた。

小さくしゃくり上げる声が、薄暗い部屋の中に響いている。


隣では、レオルドが唇を強く噛み締めていた。

拳は震えるほど固く握られている。


ダスだけは、いつも通り何を考えているのかわからない顔をしていた。



「……ガーベル?」



ぼんやりした頭のまま、ラディは視線を向ける。

そして、息を止めた。


ノクスが横たわっていた。

目を閉じたまま、静かに眠っている。

あまりにも静かだった。


ラディはそっとノクスへ触れる。


その手は、氷みたいに冷たかった。



「ノクス、朝だよ。起きて」



声をかけながらも、ラディは理解していた。


もう二度と起きないことを。



「……なんだってんだよ……」



レオルドが掠れた声を漏らす。


握り締めた拳から、ぎり、と骨の軋む音がした。



ふわり、と甘い匂いが鼻を掠める。

ラディは眉を寄せた。


(……甘い匂い?)


ノクスの身体から、かすかに漂っている。

眠る顔は妙に穏やかで、その爪だけが青白く変色していた。


胸の奥がざわつく。



「……ノクスは、なんで死んじゃったの?」



ラディが小さく呟く。

ガーベルは涙を拭いながら、掠れた声で答えた。



「……わからないわ……」




重たい沈黙が落ちた。




「…とりあえず、この件は僕が報告する。お前らは食堂へ行け。遅れると面倒だぞ」



ダスが静かに言い残し、部屋を出ていく。

ラディの鼻がピクリと動いた。



「……行くぞ」



レオルドも低く言い、出口へ向かう。


ガーベルはもう一度だけノクスを見つめ、俯いたまま部屋を後にした。


ラディはその場でノクスの口元へ顔を近づけ、静かに匂いを確かめる。



「この匂い……やっぱり……」


「ラディ!! 急げ!!」



遠くからレオルドの怒鳴り声が響いた。

ラディは数秒だけ室内を見渡し、静かに後を追った。



その日は一日中、誰もまともに口を開かず重苦しい空気に沈んでいた。





その夜。



薄暗い部屋の中で、ノクスが寝ていた場所だけが、ぽっかりと空いている。

その空白が、嫌に目についていた。



「やっぱりノクスが死ぬのはおかしい」



壁にもたれたレオルドが低い声で言う。

鋭く細められた目には、苛立ちが滲んでいた。



「そうよ…あんなに元気だったのに……急に衰弱して死ぬなんて、ありえないわ」



ガーベルがその場所を見つめながら呟いた。


沈んだ空気の中。



「……殺されたのかもしれない」



静かに口を開いたのはダスだった。



「最近、不可解な死に方をする人が増えてる」



淡々とした声だった。

感情を隠しているのか、本当に何も感じていないのか、わからない。


レオルドは舌打ちし、乱暴に頭を掻いた。



「やっぱり……ここを出ようぜ」



ガーベルが不安そうに膝を抱える。



「……でも、どうやって?」


「出入口の鍵を取るんだ」



ダスが眉を寄せた。



「監視員の腰についてる鍵は取れないだろ」


「ああ。でも監視室にも裏口専用の鍵がある」



レオルドは声を潜める。



「ゴミの搬入口で頻繁に使う鍵だ。そこを押さえりゃ、外へ出られる」


「……監視室そのものに鍵が掛かってるぞ」



ダスの指摘に、レオルドが言い返そうと口を開く。


その時だった。



「……ぼく、トイレ行きたい」



突然、ラディが口を開いた。


皆の視線が集まる。



「レオルド、一緒についてきて」


「はぁ?」


レオルドが呆れたように眉を顰める。


「今、大事な話してんだぞ。一人で行けるだろ」


「……おねがい」



ラディは俯いたまま、小さく繰り返した。

その声音に、レオルドは小さく舌打ちする。



「……ったく、仕方ねぇな」



立ち上がり、ラディと共に部屋を出た。

薄暗い廊下には、二人の足音だけが響く。


トイレの前まで来ても、ラディは扉を開けず、ただ、その場で立ち止まって俯いた。



「おい、どうした」



レオルドが怪訝そうに声をかける。


ラディは少しだけ周囲を見渡し、小声で呟いた。





「あのさ……ノクスのこと……」




その声は、少し震えている。




「……殺したのは」




ラディがゆっくり顔を上げる。


暗がりの中で、その目だけが妙に鋭く見えた。




「ダスかもしれない」





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