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18話 牢の中の子供達は夢をみる



いつもの練習場には、ミリルとレオルドの姿があった。



「なんで師匠は騎士が嫌いなのに騎士になったんですか?」



ミリルがふと尋ねる。



「そりゃ嫌いな奴らぶっ倒して、自分が一番になりゃ気持ちいいだろ」



レオルドは悪戯っぽく笑った。



「なるほど……じゃあ師匠は、カイゼル団長を超えたらやめちゃうんですか?」



ミリルは少しだけ寂しそうに言う。



「いや、やめねぇよ?」



そう言いながら、レオルドはいつものように階段へ寝転がった。


きしむように腕を枕にし、ぼんやりと天井を見上げる。


その目は、今そこにある景色ではなく、もっと遠い何かを見ているようだった。



「……あいつに勝てるまではな」



ぽつりと零れたその声をきっかけに、レオルドの意識は過去へ沈んでいく。





◇ ◇ ◇




「お前ら!!! いつまでタラタラ食べてるんだ!!! 早く作業しろ!!」




バンッ!!



金属を叩くような音がその場に響いた。


その瞬間、子供達が一斉に立ち上がり、慌てて片付けを始めた。


壁沿いにはたくさんのゴミ袋があり、ものすごい異臭を放っている。



「お前、また牛乳残してるのか。もったいねぇ」



"焦茶色"の髪をした少年が隣から覗き込み、牛乳を奪って飲み干した。



「……ぼく、これ飲むとお腹痛くなるんだもん。レオルドは平気なの?」



ラディが小さく答えると、レオルドは呆れたように鼻を鳴らした。



「平気に決まってるだろ。これだから、子供は弱っちいな」



ここでは、毎朝晩、硬いパン一つと薄い牛乳だけが配られる。


野菜や肉が出るのは月に数回だ。



「知ってるか? ハインの奴、今朝死んでたってよ。お前もちゃんと食わねぇと、そのうち死ぬぞ」



脅かすような口調だが、ラディは自分を心配しているのだと分かっていた。


牛乳を飲み干したのも残したのがバレたら怒られるからだ。


ラディにとってレオルドはいつもお世話してくれる兄貴的存在だった。



「うん、ありがと!」



ラディが嬉しそうに笑うと、レオルドは少し眉をしかめた。



「変な奴」



二人は食器を片付け、壁沿いのゴミ袋を掴み取り、テーブルに置きゴミの分別をはじめた。


缶、瓶、金属片、燃えるゴミ。

慣れた手つきで仕分けをしていく。


尖った破片で手を切ることもあるし、腐った臭いで吐く人もいる。


分別が終われば掃除し、午後は勉強。

夜には冷たい水風呂を浴びて、薄い毛布を被り雑魚寝する。



そんな毎日を、皆ただ繰り返していた。





ある夜。




薄暗い部屋の片隅に、レオルドが四人を集め小声で言った。



「なぁ。バカ真面目によぉ、毎日毎日ゴミ漁ってんの、おかしくね?皆で逃げちまおーぜ」



「……えっ!?」



ラディが思わず声を上げた。



「バカ! 声がデケェっての!」



レオルドが慌ててラディの口を塞ぐ。


周りを警戒し誰も気づいてないことを確認してから、レオルドは小さく息を吐いた。



「でもさ……逃げようとしたのがバレたら……」



栗色の髪の少年が、不安げに呟く。



「ノクス。じゃあお前、このままでいいのか?」



レオルドの声が低くなる。



「俺ら“内児組”は、自分の歳も知らねぇ。外も見たことねぇ」



内児組。


赤子の頃からこの施設で育てられた子供達のことだ。


もちろん世話をするのも子供達だった。




「このままゴミ漁って、大人になるまで生きるんだぜ?」



重い沈黙が落ちる。



「……大人になれば、皆外へ出られるでしょう?」



最年長の少女、ガーベルが静かに口を開いた。



「だったら、それまで待ってもいいんじゃないかしら」


「お、おいらもガーベルに賛成だよ……」


ノクスもおずおずと頷く。



「僕も同じ意見だね」



壁際にいた少年が淡々と言った。



「どうせ出られるのに、わざわざ死ぬ必要はない」



レオルドが顔をしかめる。



「ダス、お前まで……」




沈黙。


その空気を震える声が破った。




「……ぼ、ぼくは!」



小さな手でレオルドの手を握るラディ。



「レオルドについていくよ!」



皆の視線が集まる。


ラディは小刻みに震えていた。


レオルドは数秒ぽかんとした後、吹き出した。



「ははっ……お前、嘘下手すぎ」



大きな手でラディの頭をわしゃわしゃと撫でる。



「う、嘘じゃないよ!」


「…どっちにしろ、お前連れて逃げるのは無理かもな」



少しむすっとした表情のラディに、レオルドは苦笑した。


その後もなかなか眠れず、小さな声で話をしていた。




「ねぇ、みんなはさ」



ラディが毛布から顔だけ出す。



「大人になったら、何になるの?」


「んー……私はデザイナーかしら」



ガーベルが天井を見ながら答えた。



「でざいなー?」


「綺麗な服を作る人よ。昔ここに来た女の人がね、すっごく綺麗な服を着てたの」



ガーベルは少しだけ目を細める。



「ずっと憧れてるの…」


「いつか、ぼくのも作ってくれる?」


「任せなさい」



ガーベルの頼もしいお姉さんだ。


ラディにとっては母親代わりでもあった。



「ノクスは、なにになりたい?」



ラディが続けて質問する。



「おいらは、美味しい料理いっぱい食べる!」



考える間もなく即答するノクス。



「作るじゃなくて?」



ガーベルが突っ込むと、くすくすと笑い声が広がる。



「……ダスは?」



ラディが尋ねる。


だが、返事はない。



「なんだよ。恥ずかしいのか?」



レオルドが茶化す。


ダスはそっけなく呟いた。



「……言う必要ない」


「恥ずかしいってことな」



レオルドは肩をすくめ、それから少しだけ笑った。



「じゃ、次は俺な」



その瞳が、暗い天井を真っ直ぐ見上げ、その手を上げる。



「俺は騎士になる」


「きし?」


「国を守る奴らだよ。強くて、かっこよくて……英雄みてぇな奴」



レオルドはラディの方を見て笑った。



「そういうの、なんか良くね?」



ラディはしばらく考えてから、小さく呟く。



「……じゃあ、ぼくも騎士になる」


「は?」


「レオルドについてく」



数秒の沈黙の後。



「はははっ!! お前には無理だ!」



レオルドが笑う。



「一人でトイレも行けねぇくせに!」


「い、行けるもん!!」



皆がくすくす笑った。


その夜は、外の世界の話をたくさんした。


食べてみたい料理。


見てみたい景色。


やりたいこと。


そしていつの間にか、皆眠っていた。





翌朝。




ラディが目を覚ますと、ガーベルがしゃくり上げながら泣いていた。



「……え?どうしたの?」



まだ頭が回らないまま視線を向ける。



その隣で。



ノクスは目を閉じてとても静かに眠っている。



ラディが体に触れるが、それはとても冷たかった。








しばらくレオルド編に入ります。

作品の雰囲気がガラッと変わりますが、

この物語のなかでとても重要な回になります。


少々シリアスな内容になるので

気分がいい時にお読みくださいm(_ _)m


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