15話 天才騎士の試験
剣術訓練の初日。
ミリルは髪をきゅっと団子にまとめ、動きやすい長袖長ズボン姿で木剣を腰に下げていた。
副騎士団長が来ると聞いて少しだけそわそわしている。
(……緊張するなぁ)
練習場で待っていると、遠くから怒鳴り声が響いてきた。
「だから離せって言ってんだろ団長!!ガキの相手するぐらいならこんなとこやめてやる!!!」
「暴れるなこの馬鹿!!」
次の瞬間。
カイゼル騎士団長が、誰かを小脇に抱えて現れた。
完全に荷物の持ち方だった。
「離せこのクソゴリラ!!」
ゴッ!!
「痛ぁっ!!」
少年は頭を殴られながら暴れている。
そのままカイゼルはずんずん歩いてきて、ミリルの前で少年を地面へ下ろした。
「ミリル様。お待たせして申し訳ございません。レオルドを連れて参りました」
(えっ……!?)
ミリルは思わず目を丸くした。
(この子が、あのレオルド副騎士団長!?)
目の前にいるのは、想像していた屈強な騎士とは程遠い少年だった。
小柄な体格で、身長は160cmあるかどうか。
顔立ちは驚くほど整っていて、中性的という言葉がぴったりだ。下手をすると、可愛い女の子にも見えてしまう。
騎士学校三年課程を一年で修了した天才。
昨年、十七歳という異例の若さでレシリア公爵家の副騎士団長に就任した人物だ。
ミリルは勝手に筋骨隆々の大男を想像していた。隣に立つカイゼルとの差が凄まじい。
それは、もはや親子だった。
「おい、お前」
レオルドがポケットに両手を突っ込んだまま、じろりと睨んでくる。
「俺はなぁ!!ガキのおままごとに付き合ってる暇ないんだよ!!分かるか!?」
めちゃくちゃ目つきが悪い。
完全に喧嘩を売っている。
ミリルが反応に困っていると、
ゴッ!!
「いっっっっ!?!?」
カイゼルの拳骨がレオルドの頭へ炸裂した。
「この馬鹿もんが!!」
「いってぇ!?何すんだゴリラ!!」
「口を慎め!!」
ゴッ!!
「痛ぁ!!」
ゴッ!!
「待っ、連打はずるっ──痛ぁぁ!!」
ミリルは唖然としていた。
というか、レオルドが普通に可哀想になってきた。
「ミリル様、本当に申し訳ありません。こいつ、戦術の才能だけは本物なんですが……口が壊滅的に悪くて」
「そ、その……彼の頭は大丈夫かしら……?」
ミリルは口の悪さより、殴られた頭のほうが気になっていた。
「えぇ!!こいつは頭だけは良いので問題ありません!」
(そういう意味ではないのだけれど……)
「そ、そうですか……」
とりあえず話を合わせるミリルだった。
「ゴリラ!あ、間違えた。団長!!絶対このガキ、俺が平民の出だから舐めてるんですよ!!」
ゴッ!!
「痛!!殴るのってパワハラって言うんですよ!? 知らないんですか!!」
涙目で抗議するレオルド。
「知らん!!!!」
一蹴だった。
「そうかゴリラだから知らないのか…」と呟くレオルドを無視してカイゼルは謝る。
「ミリル様、本当にすみません。こいつ、なぜか私の言うことしか聞かないんです」
(なんとなく、理由は分かるわ……)
「今回、公爵様からのお願いということで連れてきましたが、本人はかなり不服みたいで……」
申し訳なさそうにするカイゼル。
「大丈夫です」
ミリルは小さく微笑み、レオルドの方へ向き直った。
「レオルド様。ミリル・レシリアと申します。私は身分で人を見下したりは致しません。今回、お時間を頂けて本当に感謝しております」
そう言うと、深く一礼する。
するとレオルドは、じっとミリルを見つめ、
「……ちっ、胡散臭ぇ」
ゴッ!!!!
「だぁぁっ!!?」
今日一番綺麗な拳骨が決まった。
「これ以上無礼を働いたら一週間飯抜きだからな!!」
「それは横暴だろ!!!」
頭を押さえながら抗議するレオルド。
「ミリル様、こいつに何か粗相があれば後日お伝えください。適切な罰を与えますので!私は任務があるのでここで失礼します!」
そう言ってカイゼルは颯爽と去っていった。
静かになった練習場で、レオルドは大きなため息を吐く。
「……分かったよ」
やる気ゼロの声だった。
「お前が俺の試験に合格したら、ちゃんと面倒見てやる」
「試験…ですか?」
レオルドはどこからともなく小さなモモンガを取り出した。
(あら、かわいい…)
モモンガはミリルを見て「キュッ」と鳴いた。
「エリアはこの練習場のみ。一時間以内にこいつ捕まえられたら合格」
レオルドは意地の悪い笑みを浮かべた。
「…スタートだ」




