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第22話 天才錬金術師、『金剛石作戦』を始動させる

【1日目】


 時は流れ、運命の11月15日を迎えた。時刻は朝7時。

 今日から【自由開放地区】開設を祝う祭りの前夜祭が行われる。


 ガルシア工房店の従業員アルカディアは、店の前で準備を行なっていた。

 店内にはガルシアがおり、前夜祭の開催期間中は店に付きっきりになる。


 マキナとセキエイは対決相手のセブルス商会の下へ行っている。

 と言うのも、両陣営の間で幾つかの約束事が交わされた。


 一つ、不正を防ぐため各陣営から2人を監査役として派遣する。


 二つ、1日終了ごとにその日の売上の集計を行う。これは両陣営立ち合いのもと行う。


 三つ、相手の合意がないのに、強制的に購入させるなどの行為は禁止する。(これはアルカディアが提示したルールだ。セブルス商会が行う可能性があるため)


 そんな約束が交わされ、監視役としてマキナとセキエイが派遣されている。もちろんアルカディアの方にも監視役はいる。


 何やら大きめの屋台風リヤカーの整備をするアルカディアの顔は真剣そのものだ。ここ2週間ちょっと死に物狂いで準備を行なってきた。


(やれるだけのことはやった。1週間でどれだけ売れるか、例の品は十分な数があるし、応援も呼んである。そろそろ来る頃だと思うんだけど……)


「あっ」


 顔を上げたアルカディアの視界に入るのは4人。


「ア〜ル〜〜!!」


 そう名前を呼びながら手を振るのはキースだ。その横にはガルラの姿も、さらにそのガルラが背でおぶるのは、ファリアだ。

 その後ろからは、保護者兼臨時従業員としてのフランマもいる。


「おお、キース。ガルラにファリアも、それにフランマさんもありがとうございます」

「ったく、こんな朝から呼び出してんじゃねえよ。この女は朝弱いんだ……おかげで俺がおぶるはめになった」

「ごめんごめん。ちゃんと約束は守るから」

「絶対だぞ」

「うん」

「……ならいい」


 愚痴を言うガルラとアルカディアが交わした約束は――助っ人に来たら、ガルシアに好きな武器を作ってもらえるというものだ。


 ちなみに、ファリアもこれを餌に呼び寄せている。

 キースは、いつもアルカディアにお世話になっているからと、来てくれた。


「ファリアはまだ寝てるの?」

「うん、起こそうと思えば起こせるんだけど……()()()が怖くてね」

「ははは、確かにね……」


 アルカディアも起こした際の未来を想像し、冷や汗を流す。


「それで、今日は何をするつもりなの? 単に店舗で売るわけじゃないんでしょ?」


 かなりの改造を施された特製屋台風リヤカーに視線をやりながら、キースが尋ねる。


「もちろん、そのためのリヤカーだからね。とりあえず今日の予定をざっくり説明するから、みんな集まってよ」


 アルカディアは手招きして、全員を集めると説明を始めた。


「まず、基本的には店舗販売とリヤカーを使った移動販売の2チームに別れてもらう。今日はまだ初日だからね、焦らずにいこう。店舗は通常営業しつつ、移動の方はリヤカーで地区内をぐるっと回る。そんな感じかな」

「移動販売でもばんばん売っていくと言う感じかな?」


 説明が終わると、フランマが追加で質問をする。

 そして、その質問を待ってましたとばかりに、アルカディアが指を立てる。


「いえ! 販売はしません」

「え!? じゃあどうするのさ」

「……ふっふっふっ、()()を配るのさ!!」


 声を張り上げ、アルカディアが背後から出したのは、指輪サイズのダイヤモンドだった。


「こ、これって……」


 キースが震えながら指を指す。アルカディアは一段と低い声で言った。


「うん……この自然産のダイヤモンドを無料で配りまくるのさ」

「「「…………」」」


 寝ているファリア以外の3人が揃って口を閉ざす。

 さらにアルカディアが目の前に置いた袋の中には、同じサイズのダイヤモンドがごろごろあった。


 これも全て、自然産ダイヤモンドだ。


「――というわけで、初日の移動販売チームにはこれを人々に配る。もちろん、宣伝も忘れずにね」

「ちなみにアルカディア君……このダイヤモンドはどうしたのかな……?」


 眉をピクピクさせながら、フランマが言葉を発する。

 問われたアルカディアは堂々と言う。


「買いました。あらかじめ用意してた資金はほぼ無くなりましたけど、1週間後には全部返ってきてると思うので問題なしです」

「…………。(本当に大丈夫なのか? ダイス様によく観察しておけと命令されたけど……)」

「お、おい。ほんとに大丈夫なのか? 商売が何にも分かんねえ俺でも、何となくヤバそうなのは分かるぜ」


 ガルラが焦った様子でそう言うが、アルカディアは「大丈夫だから」と言うだけで、全く取り合おうとしない。


「それじゃあ皆さん、ぼちぼちお願いしますね。宣伝用のビラはリヤカーに積んでるので」

「お、おう」

「うん……」


 キースとガルラが返事をし、アルカディアは笑みを向けると、店内へ一度戻って行った。


 残された4人の間では数分静寂が続いたが、突然ファリアが起きたことで動き出したのだった。


「んにゃ……ここ、どこ……」



 ◇◇◇



 その頃、もう一方のセブルス商会の本店(自由開放地区)では――商会長のラキティッチ・セブルスが高級葉巻を吸いながらゲスな表情を浮かべていた。


 そこから視認できる距離に監視役のマキナとセキエイの姿もある。


「ふぅ――。おい、あのクソガキの方はどうなってる?」


 ラキティッチが横に控える秘書に尋ねる。


「はっ、え――どうやら移動販売を行うようです。そのためのリヤカーも確認しております」

「ふんっ、移動販売ねぇ……まあ好きなようにやればいいさ。ひょっと出の店なんかに、うちのブランドを超えれるわけがない。それに……おい、お得意様方に()は通してあるんだろうな?」

「もちろんです。皆様方、喜んで協力して頂けると」

「それは良かった。ふぃ――結果が楽しみだねぇ……ガキィ」


 そんなラキティッチと秘書の会話を聞いていたマキナは、セキエイに言う。


「ねぇ、あいつ殴っていい〜?」

「ダメに決まってるだろ。少しは冷静にやってくれ、頼むから」

「しょうがないわね〜」



 ◇◇◇



 そして、あっという間に時間は過ぎ、前夜祭1日目の夜10時を迎えた。

 場所はセブルス商会本店裏、ここで1日目の売上が発表される。


「えー、それでは両陣営の初日売上を公開させていただきます」


 アルカディアの方に監視役として派遣されていた女秘書が宣言する。

 先方はセブルス商会、ニヤニヤ顔のラキティッチが台に被せてある布を勢いよく取る。


 その台の上には、綺麗に並べられた金貨がある。


「えー、セブルス商会の初日売上は金貨20枚となりました。それでは監視役の方々、何か気になる点はございましたか?」


 女秘書がセキエイ、マキナに視線を送る。


「いえ、真っ当な商売だったと思います」

「はい。それではお次の、ガルシア工房店の売上を発表してください」


 順番が来て、場に緊張が走る中、ガルシアとアルカディアが互いに頷くと、ガルシアが布をはぎ取る。


 そこには――


「え、え―、ガルシア工房店の初日売上は銀貨9枚、でよろしいですか?」

「あ、ああ……」

「ぷっ……ふ、ふふ……ハハハハハハ!! 銀貨9枚かぁ〜、こりゃいかにも弱小店の売上に相応しいなぁ……。お、ガキィ」


 この世に存在しているとは思えない程に、下卑た表情を見せ盛大に煽るラキティッチ。


「…………」


 それに対し、アルカディアは表情を一切変えず、無言を貫いていた。


「おい、おい。どうしたんだ? あまりの差額に驚いて、失神してるのかぁ〜。……何か喋れよ、おぉ――い!!」

「……いえ、別に驚いてもませんし、失神もしてないですよ。それに、初日が終わっただけで一喜一憂するなんて、()()()()()じゃないですか」

「――!! 何だとぉ……」


 一触即発の状況に司会役の女秘書が、即座に解散を宣言する。


「それでは、一日目は終了ということで。また明日、今度はガルシア工房店に集合ということで……解散!!」


 それぞれが安堵の息を漏らしながら、帰り支度を始め、その別れ際――


「おい、クソガキ」


 いつの間にかクソガキに呼び方が変わっている。


「明日からの結果が楽しみだなぁ」

「はぁ……煽るのは自由ですけど、みっともないからやめた方がいいですよ。それじゃあ……」


(……もう顔も見たくない。あと6日もあの顔を見るなんて、耐えられるかな?)


 そう思い、背中を向けたアルカディアには、姿が見えなくなるまで、聞くに耐えない罵声が浴びせられていたのだった。











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