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第23話 天才錬金術師、反撃の狼煙をあげる

【2日目】 


前夜祭二日目の朝7時。

 昨日とは違い、ファリア以外の全員が店内へ集まっていた。


 代表してアルカディアが一番に口を開く。


「それじゃあ、昨日の総括と二日目からの予定をお話しします。まず――昨日の売上は銀貨9枚でした。移動販売チームはどうでした? 上手く出来ましたか?」

「上手く、というか……人が集まってるところに突撃して、ダイヤとビラを配るだけだったからね……。でも、反響だったりはすごかったよ。噂が人から人へ伝染していたと思うよ」


 どのような感じだったか、聞かれたキースは少し戸惑いながらもそう答える。

 配るだけの仕事だったので、戸惑うのも当然だ。


 一方、アルカディアは最後の方の言葉を聞き、内心ではガッツポーズをしていた。


(ようしっ、人から人へ伝染することが分かっただけでも収穫だ)


「なら良かった。これで今日からの戦い方がうんと楽になる」

「うーん? そうなの……?」


 首を傾げるキースだが、その後は追及せずにアルカディアの話に耳を傾ける。


「それじゃあ、二日目からの動きを説明します。ガルシアさんは昨日と同じように、店の営業をお願いしますね。僕は今日から移動販売の方に回るので……1人になっちゃいますけど大丈夫ですか?」

「問題ねえ。家内と娘が手伝ってくれるらしい。お前は自分のことに専念しろ」

「分かりました。……そして、肝心の移動販売はビラにも書かれてましたけど、()()()()()()の格安販売を行います」


 アルカディアがそう言うと、他の面々の顔が渋くなる。

 すると、手を挙げたキースが、皆の気持ちを代弁する。


「アル、どれだけ安くても()()()()ダイヤモンドじゃ……」

「「「…………」」」


「……分かってる、キースの言いたいことはね。けど、それはあくまで今出回ってる錬成産の質が悪いからだ。自然産のものと比べるとその差は明らかだからね。でも、自然産に匹敵するほどの錬成産が出てきたらどうなるか……? 本来高すぎて手が出さない人達にも、格安で提供できるんです。これはもはや、革命です!! 謎の天才錬金術師A(エース)による傑作が、錬成産金剛石(ダイヤモンド)の市場を塗り替えるはずだ。僕はそう信じてます、どうか最初は騙されたと思って協力してください」


 かなり長めの演説風になったが、ありったけの熱量がこもっていた。そして演説主のアルカディアは静かに頭を下げた。


 今この場に、この演説を聞いて一蹴する人はいなかった。みな誰もが、このアルカディアとの縁で繋がっているのだ。


「――全員で必ず、勝ちましょう。そして、あの憎きキモ男の顔を絶望で歪ませましょう!!」

「「「おおおおお……!!」」」


 こうして、ガルシア工房店から反撃の狼煙が上がったのだった。


「んみゃっ……んぅ、うるさい……」


 二階で就寝中のファリアにも、その声が届いていた。



 ◇◇◇



 場所は移り、ガルシア工房店移動販売チームは、人が多く集まる広場へ来ていた。時刻は10時を回っており、人で溢れかえっている。


 さらに、広場を囲むように屋台なども多くあり、広場は喧騒に包まれている。


「――それじゃ、始めますか」


 アルカディアが一人そう呟き、片手に持つ変声機を口元まで持っていくと勢いよく息を吸い込む。


「みなさーん!! ガルシア工房店です!! 昨日、金剛石(ダイヤモンド)を無料配布させていただいたガルシア工房店です!!」


 そんな喧騒を掻き消すかのように、変声機を通したアルカディアの声が広間に響き渡る。

 人々の間では「なんだなんだ……」という声が多数発せられる。


「ただいまより、指輪サイズの金剛石(ダイヤモンド)の格安販売を行います!! なんとその値段ッ、()()1()()で販売させていただきます……!!」


 自然産金剛石、指輪サイズの相場は金貨3枚ほどである。


 今回のは錬成産だが、質は自然産に匹敵する。そのことを考慮すると、錬成産という事実を差し引いても大特価であることは間違いない。


 アルカディアの発言に周囲の人々からは様々な声が漏れており、ガルシア工房2号店リヤカーに近付いてくる者も少なくない。


 しかし、この熱狂は次の瞬間にして冷めてしまう。


「――()()()金剛石をッ、銀貨1枚で販売します!!」


 錬成産という言葉を聞いただけで人々は落胆し、身を翻していく。

 ここで、アルカディアはもう一段声のトーンを上げ言葉を放つ。


「今ッ、錬成産と聞いて背を向けたそこのあなた! あなた! あなた! あ〜なた!!」


 とにかく指を指しながら呼びかける。

 自分かもしれないと思った人達は背を向けながらも、足を止める。


「――なぜ、話すら聞こうと思わないんですか? 錬成産だから? そうでしょう……ただッ、僕たちは違う!! 自然産に匹敵するほどの金剛石(ダイヤモンド)の錬成に成功しました!! この話が嘘だと思う人は帰ってください、けれども……実物を見て判断する価値はある!! そうすれば必ず、気に入っていただけると思っております!!」


 アルカディアは魂の演説を終えると、木の台座から降りる。

 そんか彼を臨時従業員の面々が出迎える。


「……アル、もう立派な商人じゃない?」


 キースがそう言ってくるが、アルカディア自身にそんなつもりは全くない。全力でやった結果、今のようになってしまっただけだ。


「はは、それは今だけだね。根っこは錬金術師のつもりだからさ」


 そう話すアルカディアは内心では、冷静に今の状況を見極めていた。


(最初のつかみは終わりだ……あとは人が来てくれるかどうか。見る限り全員が全員興味のないわけじゃなさそうだ)


 確かに、ざわざわしながら人々は周囲と相談したり考え込んでいる姿も見える。


(……1人だ、まずは1人。人は誰しも最初の1人になるのに躊躇(ためら)いを見せるものだ。誰か1人が来てくれれば、後に続く人は出てくる。だから頼む……誰か、誰か来てくれ)


 アルカディアは真剣な面持ちで、最初の1人を待ち続ける。

 そして、その時は訪れる。


 とある男が1人、確かな足取りでガルシア工房二号店の真ん前までやって来たのだ。


(よし、来た……!)


「いらっしゃいませ」

「お、おう。とりあえず、話だけでも聞かせてくれや」

「もちろんです」


 アルカディアは営業スマイルで接客すると、バレないようにサクッと男の上から下までを見る。


(ふむ……左手に指輪、か……。結婚してる可能性が高いな)


「それでは、こちらの金剛石(ダイヤモンド)を手に取って見ていただけますか?」


 鍛冶師ギランの時と同じような手法で、実演販売を進めていく。

 アルカディアは昨日配った自然産金剛石を客の男へ手渡す。


「どうでしょうか? 色合いや光を当てた時の感じは正真正銘自然産金剛石だと思います」

「……ああ、詳しくはないが分かる。店で置いてあるようなやつだな」

「はい。それでは、次はこの金剛石と見比べてみてください」


 二個目として手渡したのは、そこら辺で販売されている錬成産だ。だが、見るからに色も悪く質が良くないことが伺える。


「こいつぁひどいな。自然産と比べると一目瞭然だ」

「そうですよね……。では、最後に我々が販売する錬成産と比べてみてください」


 客の男は受けとると、真剣な目で見比べる。光に当てたりしながら、確認していく。

 そして、その質に驚愕する。


「……二つ目のもんとは比較にならんが、自然産と比べても違いが分からない。これは本当に錬成産なのか?」

「もちろんです。お客様もご存じのはずです。錬成産を自然産と偽ることは大変な罪であると。犯罪者になりたくてやっているわけではありませんからね。100パーセント錬成産です。――改めてどうでしょうか? 当店の金剛石は……」

「あ、ああ……。すごいな、これが銀貨一枚とは……」


 客の男は少し困惑しながらも、素直な感想を述べる。しきりに触り、光に当てたりする客の男を見ながら、アルカディアはあと一歩だと思う。


(天秤は確実に購入の方へ傾いてる……ラスト、ここで勝負を決めるっ)


「お客様。大変失礼ですが、ご結婚されているのではありませんか?」

「あ、ああ……結婚はしているが……」


 言質を取ったアルカディアは悪魔のささやきの如く、優しくなでる声でそっと言う。


「それでしたら、奥様にプレゼントでもいかがですか……? 錬成産ではありますが、見た目・質はごらんの通りです。滅多に買えないようなものだからこそ、この金剛石の価値は計り知れない……」

「……んぅ」


 男はゴクリと唾の呑み込む。あと少し、天秤の傾きはもうすぐ――


「……こちら、前夜祭終了までの()()()()販売となっておりますが……」

「――――ひ、一つ買おう」

「ありがとうございます」


 こうして、最初の客を皮切りに続々と客がやって来た。

 

 二日目は同じ広さの広場を数か所回り、それなりに賑わいを見せたのだった。


 ――二日目終了時点での、両陣営結果報告。


 ・セブルス商会 二日目時点での売上額・白金貨6枚(金貨60枚)


 ・ガルシア工房店 二日目時点での売上額・金貨6枚










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