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第21話 天才錬金術師、対決準備のため奔走する

 時は流れ、翌日の午後3時を迎えていた。

 いつもの工房へ集合をかけたアルカディアは、並々ならぬ声量でことの顛末を話した。


「――と、いうわけでセブルス商会もといキモ男に吠え面をかかせてやりましょう!」


「「「…………」」」


 アルカディア以外の3人から返事はない。

 それどころか、全員目を閉じ何かを考えている様子だ。


 事情を話せば必ずやる気になってくれると踏んでいたアルカディアは、思わぬ結果に唖然とする。


「あ、あれ……みなさん。返答がないようですが……」


 シーンと静まり返る中、初めに口を開いたのはガルシアであった。


「何をやっとるんだ、お前は……」


 呆れて大声を出す力もないといった表情だ。

 それもそうだろう。自分の知らぬ間にこんなことになったのだ。


「……まさか、私達がいない数十分の間にね〜。うふふ」


「笑い事じゃないぞ、姉貴」


 ガルシアに続いて喋ったマキナが面白おかしく笑う様を、セキエイが真面目な顔で諌める。


「ごめんなさい。でも、これが笑わずにいられる? ふふ……」


「確かに一理あるが……」


 そう言うセキエイも、よく見ると口元がピクピク動いている。

 そして、予想とは真反対の展開になり、アルカディアが焦り始める。


「もしかして、とんでもない事をしちゃいましたか……?」


「うーむ……相手が相手だからな」


 意味ありげな発言をするガルシアに、アルカディアはさらに言葉を重なる。


「セブルス商会ってそんなに有名なんですか?」


「有名と言っても、()()()()でな」


 そう話すガルシア曰く、セブルス商会は裕福な者達をターゲットに、高級志向な商品を多数取り扱い、一気に名を上げた新進気鋭の商会なのだとか。


 だが、その背景には犯罪すれすれの行為などがあると言う。公になっていないため、表側はかなり上品なイメージを持たれている。


(嘘だろ……あんな下品なやつが……表では上品ぶってるってわけか。これは、ますますやる気が出てくるな……)


 アルカディアは一人だけ謎のやる気を出している。意外とゲスな一面を持ち合わせているのかもしれない。


「それなら、尚更成敗しなくてはなりませんね。ナワバリや上納金がどうとか言ってたんで、他にも被害を受けた店は多いかもしれません」


「……ただの面白話のはずが、たくさんの人の(かたき)まで背負った大戦になるのね〜〜」


「そうですマキナさんっ。全員で力を合わせて、この戦いに勝利しましょう!!」


 いつの間にやらやる気になっていたマキナは、かなり仰々しい大義名分を作っていた。

 それに呼応したアルカディアが、再度呼びかける。


 ――これに応える声はまだ二つあった。


「よし、やろう。(合わせといた方がややこしくなくて済む)」


「仕方ない……。元はと言えば、俺がアルを店の従業員に抜擢したことから始まったんだ。勝てば大きな利益も入るんだ、やるなら本気でやるぞ」


「はいっ」


 ただの売上対決が、まるで世界の命運を分ける戦いさながらの熱量を持った瞬間だった。


「――早速ですが、ガルシアさんにお願いしたいことが……」


「ん? 何だ?」


「実は――」



 ◇◇◇



 決戦の日まで時間は長くない。残り18日をどう使うかで、結果は大きく変わってくる。

 全員で決意を新たにしたのが、昨日だ。今日、アルカディアはガルシア案内の下、とある場所へと向かっていた。


 アルカディアが企む秘策その一のためだ。


 二人がやって来たのは【金剛石(ダイヤモンド)】地区の隣、【灰輝石】地区のとある工房である。


「ここにガルシアさんの同業者の方が?」


「ああ、とりあえず一番信用できるやつだ。他にも知り合いはいるが、まずはコイツからだ」


 ガルシアと同じく店舗を持たない鍛冶屋を営んでおり、建物の外見はただの一軒家だ。

 ノックもせずに上がり込んだガルシアは一回り大きな声を張り上げる。


「ギランッ!! 俺だ、ガルシアだ!! 入るぞ」


 そう言って廊下を進み、奥の部屋へ。近付くにつれ、カァンカァンと叩く音が聞こえてくる。

 扉を開け、中に入ると熱風が顔に襲いかかって来た。


「うわっ、熱い……」


「ギラン!!」


 一言叫ぶと、座って打っていた大柄な男――ギランが振り向いた。


「何じゃい、ガルシアか……。こんなとこまで何の用じゃ?」


「用があるのは俺じゃねえ。こいつだ」


「どうも、アルカディアと申します。――突然ですが、今日はいい商売の話を持ってきました」


 そう話すアルカディアの顔はあどけなさの残る6歳ではなく、一人の商売人の顔をしていた。


「商売じゃと? お前がか?」


「はい。6()()の僕がです」


「…………面白い。聞かせてみい、たまらんかったら放り出すぞ」


 ギランの言葉に頷いたアルカディアは、早速商売の話をする。


「――まず、これを見てみてください」


 そう言ってアルカディアは拳大の大きさの金属を手渡す。

 ギランは視線を落とし、一瞥すると呟く。


「鉄じゃな」


「はい、その通りです。それでは、この鉄が自然産か錬成産かお答えいただいてもよろしいでしょうか?」


 突然、鍛治師の質を試すような質問がされ、ギランの目が一層鋭くなる。

 ギランは触ったり軽く叩いたりして、すぐに答えを出した。


「……自然産じゃな」


「正解です。次に、この鉄がどちらかお答えください」


 アルカディアはさらにもう一つの鉄の塊を渡す。

 受け取ったギラン、今度は見ただけですぐに判断した。


「錬成産じゃ。質が悪い、どこぞの素人が錬成したんじゃろ」


「……正解です。それでは、最後にこの鉄はどちらでしょうか?」


 今度は少し時間がかかり、ギランは鉄の塊を見て、音を聞いて答えを出す。

 質の良さに興味を抱いたギランは錬成主を聞き出そうとする。


「…………錬成産じゃ。が、恐ろしく質がいい。自然産に匹敵するくらいじゃな……これは誰が錬成した?」


「とある天才錬金術師A(エース)が錬成したものですね。詳しいことは、秘密ということで」


「むう……まあ仕方ないか。それで、何がしたいんじゃ?」


「本題はここからです。もし、僕がこの鉄を売ると言ったら、ギランさんは買い取ってくれますか?」


 アルカディアが本当に聞きたかったのはこれだ。

 その前の質問は失礼だが、ギランのレベルを測るためのものだった。


「――買うな。二つ目のは論外だが、最後の鉄なら買う。錬成産でもかなりいい品が作れるはずだ」


(よしっ。これだ、この言葉が聞きたかった。あとは――)


「ちなみに、いくらなら買取ますか?」


 アルカディアにとって、この質問は相場情報に精通している人の考えを知りたいという意図がある。


「そうだなぁ……今の相場からだと、1キロ銅貨5、いや4枚だな」


「分かりました。それじゃあ、この錬成産の鉄を1キロ銅貨2枚でギランさんに売ります!」


「は……?」


 先程まで仮の話しだったのだが、いきなり売る方向へ変わった。ギランが呆気に取られるのは当然だ。

 真意を読み取れないギランはよりいっそう警戒心を持ち、会話を続ける。


「売る、か。それでお前さんに何の得がある?」


「少し込み入った事情がありまして、二つの条件を呑んでくれるならば、相場の半額で販売します。……改めて言いますが、これは商売の話です。ギランさんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「――!!」


 最後の言葉は脅しのような感じだが、本来商売とはそういうものだ。アルカディアは別に、ギランに買ってもらわなければいけない訳ではないのだ。


「……条件は?」


「一つ目は、支払に関してです。面倒をおかけしますが、11月15日から22日までに、自由開放地区のガルシア工房店で支払ってもらいたいのです。そして二つ目は……ギランさんのす知り合いの方達に噂を流して欲しいんです。天才錬金術師A(エース)の良質な鉄のことを――」


 アルカディアは以上の条件を提示したが、買い手側のデメリットなどはほとんどない。支払いが面倒なだけで、特に可笑しな点もない。


 少し考え込んだギランは鋭い眼でアルカディアを射抜くと、口を開いた。


「――良かろう、その条件を呑む。とりあえず、その錬成産の鉄50キロを買わせてもらう」


「……お買い上げ、誠にありがとうございます。商品は先にお渡しした方がよろしいですか?」


「いや、支払いの時でいい。トラブルになるのはごめんじゃからな」


「かしこまりました。それでは、ガルシア工房店でお待ちしております」



 ◇◇◇



「ガルシアさん。これで第一段階は終わりです。ご紹介ありがとうございました」


「それくらい構わんが……第二段階があるのか?」


 ガルシアからの問いに、アルカディアはニヤリとする。


「もちろんです。――今対決で肝になる、『金剛石(ダイヤモンド)作戦』の準備に取り掛かります」






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