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第20話 天才錬金術師、【自由開放地区】を訪れる

 ――『黒楼門(こくろうもん)


 王都シェルフォリアの中心にある【自由開放地区】と周りの全8の地区を繋ぐ出入口たる門だ。


 深い闇を思わせる真っ黒な外見で、王都の代名詞ともなる存在である。

 深夜12時以降、完全に閉め切られる門で、朝5時まで開くことはない。


 緊急用の小さな扉はあるが、滅多なことでないと開くこともない。


「――おおおお……!!」


 アルカディアは馬車の横窓から巨大な黒楼門を見上げ、感嘆の声を漏らす。興奮したアルカディアはそのままのテンションで、気になったことを2人に尋ねる。


「あのっ、あの門って何で出来てるんですかね!?」


「それがね〜〜分かんないのよね。知ってるのは極一部の人だけみたいよ」


 破壊、されることを危惧した国は黒楼門の材質を秘匿とし、関わった者しか知り得ない。


「おそらくだけど、幾つもの素材を組み合わせて出来ているのは違いないだろう」


「合金ってことですか……(外見が黒い金属や鉱石なんて山ほどあるからな……いつか調べてみたいものだ)」


 馬車用の通路を通っていった馬車は黒楼門をくぐり抜け、【自由開放地区】へ入った。馬車は門近くの乗り合い所まで行き、アルカディア達は降りた。


「じゃあ先に下見を済ませるか。それでいいか?」


「いいわよ〜〜」


「はいっ」


 ガルシアからのメモ付きの地図を広げながら、3人は出店する店へ向かう。黒楼門から30分ほど歩いた距離に店舗はあった。


 完全な商業区ではなく、住宅も多数並ぶところにポツンと建っている建物。周りに商売をしていると思われる店もあるが、お世辞にも立地がいいとは言えない。


 それはアルカディア含め全員が抱く感想だった。


「……ほんと、立地がいいとは言えませんね」


「だな。店舗が集中しているのは隣の区だからな」


「ガルちゃん、やる気あるのかしらね〜〜」


 ガルちゃんとは、マキナのガルシアを呼ぶあだ名だ。何とも個性的だが、最早誰も気にしない。


「そりゃあ、やる気はあるんじゃないですか?」


 アルカディアのさも当たり前の指摘に対し、セキエイが反応する。


「もっともな指摘だが、オヤジさんは案外気にしてないかもしれないな」


「え、何でですか?」


「店の営業日は週に4、5日ほどだし、本業もあるせいか、副業的な感じで捉えているみたいだな」


「ははは……贅沢な副業ですね」


「全くだ」


 そんな会話をしながら、アルカディアとセキエイはくすりと笑った。

 昼過ぎ、下見を終えた3人はあてもなくぶらぶらと散策していた。


「のどかねぇ〜」


「アルカディア、どこか行きたいとこでもないのか? 俺と姉貴はお前の付き添いだからな」


「そうですね……」


 考え込む様子を見せるアルカディア。


(……行きたいところか。あるにはあるけど……言うだけ言ってみるか)


「――それなら一つ、行って見たいところが」


「どこだ?」


「学院です」


 アルカディアは一言でそう答えた。

 約3年後、通うことになるかもしれない学び舎を見ておきたいというのは何らおかしくない。


 セキエイはチラリとマキナを見やると、二人して同時に頷いた。


「――そういうことなら、行ってみるか」



 ◇◇◇



 世界的にも有名なサンドバル王国の【自由開放地区】にある学院――正式名称・王国立錬金術師養成学院。


 長ったらしい名称なので、略して学院だ。


 他にも幾つかの学院はあるが、学院と言われれば誰もがその学院を想像する。

 他の学院は、王国立錬金術師養成学院の分院という形で、本院の試験に落ちた者が入学するようになっている。


 ただ、本院と分院では環境面や教師の質などで大きな差があり、そこを問題点だと指摘する声もある。


 そんな学院は【自由開放地区】の中心部にあり、これまた巨大な壁で仕切られている。

 基本、学生や関係者でない者が出入りすることは出来ない。


 それなのに、なぜマキナとセキエイが――理由はすぐに明かされることになる。


 ガルシア工房店(仮)から数十分歩いたところで、出入口となる『学楼門』が見えてきた。

 代表してセキエイが受付と思われる建物へ入ると、何やら手続きを行い、数分で出てきた。


「許可が取れた。建物を見るだけなら構わないそうだ」


「良かったわねぇ〜」


 マキナとセキエイは学院なのに気にする素振りも見せていない。先程から疑いの目を向けているアルカディアは、その疑問をぶつけた。


「……そんなあっさり許可が取れるとは、何か秘密があるんじゃないですか?」


「「…………」」


 途端に黙り込む2人をアルカディアはじっと見つめる。


(絶対何かあるはずだ。父上が言ってた、学院は誰もが入れる場所じゃないって。マキナさんは卒業生だから、と考えもしたが……それでも厳重な警備を敷く学区にものの数分で許可が出るなんて……)


「じぃ――」


「…………もうっ、そんな目で見ないでぇ〜。喋るから、ちゃんと喋るから〜」


 マキナが音をあげると、アルカディアは疑いの視線から通常へ戻した。


「それで、どういう訳なんですか?」


「うっ……実はね、私達()()()()()なのよ」


「…………ぇ、ええええ!?」


 想定なんて遥かに越えたカミングアウトに、アルカディアは腹の底から声を上げ、驚きを露わにする。


「ちょ……ほ、ほんとですか?」


 今度はセキエイに尋ねるアルカディア。


「……ほんとだ。教師と言っても、あくまで臨時だがな」


 セキエイはあくまで臨時と言うが、今はそんなことなどどうでもいい。真実なのか嘘なのか、その事実が何よりも大事だ。


「なんで黙ってたんですか……」


「えっと……サプライズをしたいなあって思っててね〜」


「サプライズって……普通に言ってくれれば良かったのに……。(まあ、それでも驚く自信はあるけど……)」


 モヤモヤが晴れ、すっきりしたアルカディアは現教師案内の下、未来の学び舎を散策したのだった。



 ◇◇◇



 学院のある学区散策を終えたアルカディアは1()()()帰り道を歩いていた。

 学区を出る直前――別の関係者に呼び止められたマキナとセキエイは、急用らしく駆り出されてしまった。


 そのため、アルカディアは1人で店まで戻ることになった。


(急用が何なのかは気になるけど、仕方ないな。……そう言えば、店舗の中を詳しく見てなかったっけ。鍵は預かってるし、ちょっと覗いてみよう)


 行きの記憶を頼りに戻ってきたアルカディアは、足を止める。


「……誰だ、あれ?」


 見慣れない人――それも3人組が店舗前で何やら話しをしている。気になったアルカディアはその3人組に声をかけた。


「あの……何かご用ですか?」


「あ? ってガキ――いや、子供か」


(今ガキって言ったよな。やっぱり柄の悪い人達みたいだ)


「子供に用はないの。分かったらあっちに行くんだ」


「いえ、その店舗の従業員(仮)なものでして……」


 アルカディアが従業員(仮)であることを伝えると、リーダーと思われる男の態度が変わる。


「何……従業員だと? お前がか?」


「はい。なので、何かご用があるのかなと」


 そう言うと男は少し考える様子を見せ、指をパッチンと打ち鳴らした。

 打ち鳴らす際ドヤ顔なのが妙にうざい、とアルカディアは思った。


「そうかそうか、それなら一つ聞かせてもらうがね。()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 あまりにも上から目線な言い方。

 アルカディアの態度も少し変わり、強気に出る。


「どういうことですか?」


「どういうことです、も何もだな……ここ一帯は我が()()()()()()のナワバリなんだ。許可もなく出していい理由がない」


「ナワバリって……そんなルールどこにもないですよね? 国で定められてるわけでもない、それならどこで商売しようと自由じゃないですか」


 屁理屈を言われたアルカディアは、理屈で返す。

 対するセブルス商会の男も引かず、自己中心的な考えで言ってくる。


「馬鹿言っちゃいけないよ、坊や。商売には商売なりの暗黙のルールがある。どうしてもここで商売したいなら、うちの傘下に入ることだね」


「却下でお願いします」


「ならぁ……仕方ない。うちのナワバリ使用権として、上納金を支払ってもらおう」


 勢いづいた男は気色悪い顔と声で、そう要求してくる。


「もし、断ったら……?」


 数瞬、間を置いた後――男が言った。


「――()()()


 瞬間、アルカディアの纏う雰囲気がまた変化する。だが、拳をギュッと握り締めながらも会話を続ける。


「それは()()()に、ですか? それとも――商売的な意味ですか?」


「どっちもさ」


 少し煽るような聞き方をしたアルカディアだったが、返答を聞いた途端何かが切れる。


「――やれるものならやってみろよ」


 アルカディアから出た言葉は、6歳の子供が言うようなものではなかった。声色もさらに低く、ドスの利いた声だ。


 明らかな挑発を受けたセブルス商会側で、我慢の限界がきたのはリーダー格の男ではなく、両端に控えていた黒服・黒サングラスの男2人だった。


「んのガキィ」


「あんまり調子に乗るなよ……」


「――来いよ」


 アルカディアの誘いをきっかけに、2人が攻撃を仕掛けてきた。一人がただ拳を突き出し、アルカディアに迫る。


(……遅いんだよ)


 内心イラつきながら最小動作で避け、懐へ潜り込んだアルカディアは錬素で身体強化を行った右腕で、鳩尾(みぞおち)を打ち抜く。


「……ぐぬぅ、ごっ……」


 人とは思えぬ奇声をあげた男はよだれを垂らしながら倒れる。

 相方が瞬殺されたことで怯んだもう一人は、後ずさる。


 アルカディアは一歩で再び懐へ入ると、容赦なく腹パンをお見舞いした。


「………っ」


 もう一人も前屈みに倒れ、リーダー格の男だけとなった。

 そんな男に向け、アルカディアは睨みつけながら言葉を放つ。


「これで、物理的に()()なくなりましたね。どうします?」


「…………わ、分かった。物理的に()()のはやめよう。だがぁ、商売的には潰す。――勝負をしよう」


 男は潰すことを諦めず、勝負の提案を持ち掛けてきた。


「勝負?」


「ああ。20日後の11月15日から、自由開放地区の開設20周年を記念した本祭りの前夜祭が1週間行われる。その期間中、どちらが多くの売上をあげられるか、勝負しよう。坊やが勝てば、こちらは何も口出ししない。――だぁがぁ、こちらが勝てば店を明け渡せ。……そして、土下座して(くつ)を舐めろ。どうだ?」


(……よくもまぁ、ここまで汚らしい言葉を吐けるもんだ。靴を舐めるか……そんな経験、したことないな)


「……分かりました。その勝負、受けて立ちましょう。――――吠え面かかせてやる」


「ガァキがぁ……」



 こうして、アルカディア対キモ男(アルカディアの呼び名)の戦い(商売)が幕を開けた。









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