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青い砂漠

次の日、蓮瑛はシンシャとの面会を願うと夕暮れ時に王宮の中庭に呼び出された。足を運べば既にシンシャは待っていた。


「お待たせして申し訳ありません」

「いや、大したことはない。話をする前に、少し場所を移動しよう」


そう言ってシンシャに案内されたのは王宮の西側にある石塔だった。これまで来たことのない区画にある石塔に連れて来られたことに戸惑いを隠せない蓮瑛であったが、シンシャは微笑みながら言った。


「貴女に見せたいものがある」


蓮瑛はシンシャの言葉に興味を持ち、彼に続いて石塔に足を踏み入れた。


「ここの階段は少し古びているから足元に気を付けてくれ。私が先に進むから……」


そう言って差し出された手に、蓮瑛は躊躇いながらも手を重ね、塔の階段を昇っていく。

未知のものへの好奇心の他に、胸が高鳴るのを感じる。シンシャの未来の伴侶に誤解されたくないと言う思いがあるというのに、気遣われると心が揺らいでしまいそうになる己を蓮瑛は内心で恥じた。


石塔の頂上に到着すると、目の前に広がる光景に蓮瑛は息を呑んだ。

普段は金色に輝く砂漠が、夕焼けの光を受けて幻想的な青色に輝いていたからだ。それは蓮瑛が息を呑むほどの美しい瞬間であったのだ。


「これが我が国が碧砂国と言われる所以だ」

「本当に美しいです……」


蓮瑛は思わず感嘆の声を漏らした。

そしてこの特別な一瞬を見せる為にシンシャは自分を連れて来てくれたのだと気づき、蓮瑛は嬉しさが募る。


二人は暫くの間、青い砂漠の景色を楽しんだ。風が柔らかく吹き抜け、夕陽が西の空に沈んでいく光景は幻想的で、夢の中にいるかのようにさえ思えた。完全に日が沈んだのを見届けて、シンシャが口を開いた。


「しかし、この美しい景色の裏があるのだ」


シンシャは砂漠化が進行し、碧砂国の人々の生活に大きな影響を及ぼしていることを説明した。


「どうすれば良いのでしょうか?私に出来ることはありますか?」


碧砂国の人々に世話になった蓮瑛は、自分では力になれないのかと問いかける。



「貴女には龍華国にいた頃と同じように、龍の巫女として神龍に祈りを捧げて欲しい」



予想外の返答に蓮瑛は驚きを隠せず、巫女としての力を高めることも出来なかった時のことを思い出し、混乱した。


「陛下。私は、力を失った巫女です。それに元々巫女としての力など微々たるものでした。今更祈りを捧げたところで……」

「果たして本当に貴女の力は失われてしまったのだろうか?」

「えっ……?」


シンシャは自分は蓮瑛が力を失っているとは思わないと告げる。


「オアシスで見た奇跡は只人には起こせないものだ。あの風に神威を感じたのは私だけではなかった」

「でも、私は巫女の神託を受け、皇宮に迎えられた時から体調が優れなくて……後任の巫女が現れてから、ようやく体が楽になったのです。これはきっと無能な私には神龍の加護は重過ぎるのだと皇帝陛下や神官様達も仰って……」


無力さに改めて苛まれる蓮瑛に対し、シンシャは考え込むような仕草のまま言葉を続けた。


「貴女が力を失ったと見せかけられていたとは考えられないか?」

「い、一体、誰が何の為に?」


龍華国に豊穣と幸運をもたらす龍の巫女を策謀に嵌めるなどという無意味な行為をする意図が分からない。


「例えば、加護の無い巫女が現れたのは皇帝が天意を失ったからだと大義名分を作る為だとか……」

「――ッ!?」

「神殿内の内部抗争に巻き込まれたか……」

「――ッ!?」

「貴女個人に恨みがあるとか……考えれば考えるほど、様々な可能性が浮かぶ」


衝撃的な考察によって、もはや蓮瑛は放心状態になっている。だが、シンシャは蓮瑛の言葉と状況を熟考していた。不可解な状況が重なり合い、蓮瑛が力を失った理由には何かしらの答えが潜んでいるように思えたのだった。


「ま、待ってください!陛下……私には何が何やら分からなくて……」


蓮瑛は戸惑いながらも必死に言葉を繋げるが、混乱のあまりまとまりがなかった。


シンシャの憶測が正しいというのなら、今の龍華国には神龍の加護が無いということになる。何か問題が起きれば、これまででは考えられないような惨事になってしまうのではないかと蓮瑛は想像し、恐怖に慄いた。


「不安になる必要は無いだろう。貴女が龍華国を出て一月以上が経つが、天変地異が起きたなどという話も聞かない。これまで通りの平穏が続いている」

「では……」

「だが、私は貴女が巫女の力を失ったとは思わないのだ」


自分の祈りなど必要ないだろうと言い掛けた蓮瑛の言葉を遮って、シンシャは言葉を選びながら続ける。


「これは貴女の力を信じたいという私の我儘に過ぎないのだ。それに、もし貴女が本当に力を失っていて、祈りも無駄だったとしても、龍華国には後任がいるのだから何も心配はないはずだ。貴女は信心深いだけの娘だという事実が残るだけのこと」


蓮瑛の心の内を理解し、その不安を解消するような言葉に、蓮瑛は再び心から感謝の気持ちを抱えた。


シンシャは蓮瑛の手を優しく握り、真摯な眼差しで彼女を見つめる。


彼自身は一人の少女の国の命運を託すことについて、懐疑的に考えていた。

けれども、ここ十数年の間に砂漠化の進行速度は上るものの、しかし現状を打開することできず、碧砂国はただただ手をこまねいているだけだった。だからこそ何の後ろ盾もない彼女を守ろうと、強い覚悟をもって誓ったのである。


「だが、もし本当に貴女の力が戻ったならば、龍華国が貴女を取り返しにくるかもしれない。その時は、我が身に代えても貴女を守ると誓おう」

「……ありがとうございます。私が巫女の力を取り戻すかどうかは分かりませんが、貴方様が信じてくれるのなら、私も自分自身を信じてみたいと思います」


こうして過去の迷いを捨て、新しい一歩を踏み出す決意を抱いた蓮瑛。未知の地で自らの力を信じ、新しい一歩を踏み出す覚悟をしたのだった。


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