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魔王軍最強の魔術師は人間だった 作者:羽田遼亮

第五章

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戦術家のサガ

 イヴァリースに戻ると、遅れていた第7軍団と 第5軍団の長が集っていた。
 魔女セフィーロとサイクロプスのウルクである。

 魔女セフィーロは勝手知ったる我が町、我が屋敷、といった感じで、俺の屋敷に上がり込み、女中たちに酒を用意させ酔いつぶれていた。

 一方、ウルクは礼儀をわきまえているのだろう。

 その巨体も俺の屋敷には合わないので、イヴァリース郊外に陣を張り、そこで野営をしていた。

 ジロンのやつは珍しく気を利かせ、ウルクに酒や食料を提供している。

 一方、セフィーロにはなにもしなくてもいいだろう、と、好き放題を許しているようだ。

 賢明な判断である。
 セフィーロは暴君ではないが、酔うと柄が悪くなる。

 ジロンの顔もいまだに覚えていないようで、もしも本人の前で粗相をすれば、ロースト・ポークになるだろう。

 俺はそう思いながら、セフィーロに話しかけた。

 彼女はワインを手酌どころか、瓶から直飲みしながら、尋ねてきた。

「こら、第8軍団長、イヴァリースの統治者よ。今までどこに行っていたのだ」

 戯けた口調なので怒ってはいないようだが、不審には思っていたようだ。この大事な時期に俺がイヴァリースにいなかったことを。

 俺は彼女に詳細を話すか迷ったが、結局、詳細を話すことにした。

 俺は彼女の酒に付き合うため、サティにつまみを用意させる。空腹に酒を入れると悪酔いするからだ。

「かしこまりました」

 彼女はそう一言だけいうと、台所から、サラミとソーセージの盛り合わせを持ってきた。この異世界ではポピュラーなつまみである。

 俺はそれを肴に、俺が暗殺されそうになったこと、その暗殺者の兄に会ってきたことを告げた。

 その言葉を聞いたセフィーロは呆れる。

「まったく、お前というやつはどうしてこうも甘いのだろうか」

「普段甘いものはあまり食べないんですけどね」

「それに冗談もへたじゃな」

「それは自覚しています」

「自覚するならば、改善して欲しいの。暗殺者をそのまま解放するだと? また襲ってきたらどうする」

「襲っては来ませんでしたし、彼女はメッセンジャーになってくれましたよ」

「エ・ルドレと会うのもどうかと思う。もしもやつがお前を捕縛、あるいは暗殺しようとしていたら、今、このサティが用意したサラミも口にできなかったのだぞ」
「ならばチーズでも食べますよ」

 と軽口を叩くと、セフィーロは珍しく、眉をつり上げた。どうやら茶化しているような暇はないらしい。ならば俺も本気で答えるしかなかった。

「エ・ルドレという男はそんな卑怯な真似をする男ではないですよ。だから安心していきました。そして彼に魔王軍に亡命するように勧めたのですが……」

「ダメだった。というわけか」

「残念ながら」

「まあ、当然じゃな。話を聞く限り、お前とその男は似ている。お前が魔王軍を最後まで裏切らないように、その男もファルス王国を最後まで裏切らないだろう。どんなにないがしろにされようと」

「そんな感じでした」

「ならばもはやその男と雌雄を決し、その男に一足先にあの世に旅立って貰うしかあるまい」

 セフィーロは断言する。
 さすがは魔族だ。わずかの逡巡もない。

「…………」

「お前も分かっているから、先ほどから浮かぬ顔をしているのだろう。まったく、本当に甘ちゃんじゃの」

 セフィーロはそう溜息を漏らすと、こう続けた。

「そういうふうに育ててしまったのは、我が友人、奈落の守護者ロンベルクのせいだが、それを忠告しなかったのは妾の不徳でもある。だから、今回に限り、その重荷を負担してやることもできるぞ」

「どういう意味ですか?」

「つまり、2ヶ月後に行われる会戦、そこでお前ではなく、妾が指揮を執ってもいいということだ。さすれば良心の呵責(かしゃく)も多少は薄れよう」

「……なるほど、その手もありましたね」

 俺はそう漏らすが、謹んで辞退した。

「なぜじゃ、お前はエ・ルドレ、という男を殺したくないのだろう。だから悩んでいるのだろう」

「たしかに俺はエ・ルドレと会って、彼との間に友誼めいたものを感じました。奇妙な感覚ですが、初めて会ったのに、長年、ともに戦った戦友のように感じた」

「ならば妾が――」

 俺は最後まで魔女に言葉を発せさせない。

「だからこそ、自分で戦いたいのです。今回に限り、指揮を他人にゆだね、楽をすることもできるかもしれない。しかし、もしもそれで一時的に罪悪感から逃れられても、俺は一生後悔するでしょう」

 それに、と俺は続ける。

「これは軍人、戦術家の悲しいさがですが、エ・ルドレほど見事な用兵家と戦うのは、奇妙な高揚感を覚えます。もしもその役を他人に奪われれば、それはそれで失望するでしょう」

「それはお前だけでなく、向こうもな」

 セフィーロは断言するが、俺は心の中でうなずいた。

 敵軍から悪魔、人殺しと叫ばれるのはなれていたが、尊敬に値する敵将から、卑怯者と思われるのは耐えがたかった。

「だからお前は自分で指揮を執るのじゃな」

 セフィーロは確認するように問うた。俺は黙ってうなずく。

 数瞬、セフィーロは仮面越しに俺の瞳を覗き込むが、しばらくすると「はあ……」と溜息を漏らす。

「これだから男は度しがたい。戦争などという不毛な行為の中にも、一輪の花を見いだすのだから」

「団長は、戦争よりも、研究、酒、それに面白いことが好きですしね」

「そうだ。だからさっさとこの戦争を終わらせ、妾を元の狂錬金術師(マッド・サイエンティスト)に戻してくれ」

 セフィーロは言い切ると、魔法を唱えた。
 イヴァリースの郊外にいるウルクと連絡を取るようだ。
 彼女は気易い口調で問うた。

「予定変更じゃ。今回、妾とお主の軍団だけでことに当たろうと思っていたが、第8軍団の軍団長様が御みずから指揮を執られる。我々はその傘下に入るぞ」

 セフィーロがそう言うと、ウルクは納得してくれたようだ。

 セフィーロの人徳のお陰だろうか。それとも俺の実績を買ってくれているのだろうか。

 元々、魔王様より三名によって迎撃せよ、との言葉を貰っているので、三人でことに当たるのは当然であったが、ウルクがあっさり俺に指揮権をくれるとは思わなかった。

 もしかしたら、事前にセフィーロがウルクを説得し、根回ししていたのかもしれない。

 そう思ったが、俺は口には出さなかった。
 例え尋ねても彼女は、その真っ赤な唇に指を一本添え、こういうだろう。


「秘密じゃ」


 と――。

 乙女というやつは秘密を多く抱えていればいるほど、魅力的になる、というのが彼女の持論だ。

 彼女が乙女であるかはともかくとして、彼女はおしゃべりな癖に肝心なことは語らない。

 それが黒禍の魔女セフィーロという女性だった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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