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【第五章:銃ならある。分かっている。戦車もある。それも知っている。……格好いいロボットだってある。見りゃ分かる。で、武器の共有とやらはどうなったんだ?】

 夜幕が下り、慌ただしく立ち回っていた兵士たちは、奪還したばかりのエリアで急ピッチで防衛陣地の構築を進めていた。


 一人で臨時医療テントへと向かったオールドマンは、衛生兵に手当てを受け、左腕に包帯を巻いてもらった後、重い咳を漏らしながら人通りの少ない場所へと向かい、チームのメンバーたちと合流した。


 全身が金属とパーツの組み合わせで構成された機甲(きこう)トロルを見つめ、オールドマンは横たわる太い丸太を見つけて腰を下ろす……。


 それを見た機甲トロルも、地面にあぐらをかいて座り込んだ。その頭部ディスプレイには、『 ( ̄ー ̄) [家人] ♡( ≧∀≦ )♡』と表示されている。


 オールドマンは狂特ゴブリンに視線を向け、問いかけた。 「さて……一体どういうことなのか、順を追って説明してもらおうか」


 対面に立つ狂特ゴブリンは、至極当然といった様子で答える。 「見ての通りだぜ。ベビーが……」


 文脈の噛み合わない返答に、オールドマンは手を挙げて相手の言葉を制した。 「こいつがベビーだってことは分かってる。だが、その身体は……」


 狂特ゴブリンは要領を得ない様子で言葉を濁す。 「いや、だから……」


 ゴブリンが双頭のトロルから機甲トロルに至るまでの経緯を語り終えると、事情を把握したオールドマンは、機甲トロルへと視線を向け、ゆっくりと問いかけた。 「ベビー……お前……今の……その身体……受け入れてるのか?」


『( ・_・)?』 『[ ◎ 皿 ◎ ]< [家人]』 『[家人] ➔ ♡( ≧∀≦ )♡』


 問いかけに応じるように、機甲トロルの頭部ディスプレイの表情がくるくると変化していく……。


「そんな単語ごとに切って話さなくてもいいぜ。今のあいつは長文だって理解できるんだからな」 狂特ゴブリンは心底解せないといった視線を向け、聞き返した。 「それより老いぼれ、ベビーが無事に戻ってきたってのに、何をそんなに気にしてやがるんだ?」


 オールドマンは深呼吸をし、直後に軽く咳き込んだ。それから重々しい口調で狂特ゴブリンに問い質す。 「世界中に、ベビーと同じような存在が他に一台でもいると思うか?」


 狂特ゴブリンは両手を広げ、分かったような分からないような顔で聞き返した。 「……タブーのことでも心配してんのか?」


 オールドマンは唇を尖らせ、苦々しくため息をついた。単刀直入に切り出す。 「違う。戦争の真っ最中に道徳や倫理を気にする奴なんざいねぇ。問題なのは……二台目、三台目を作り出せるかどうかだ」


 狂特ゴブリンの身体がガクリと跳ね上がった。脳の処理が追いつかず、思わず声を漏らす。 「は……?」


 オールドマンは黙ってうなだれる狂特ゴブリンと恋銃癖を見つめ、わずかに眉をひそめて淡々と告げた。 「お前がベビーを復活させたこと自体を責めるつもりはねぇ。だが……考えたことはあるか? 今のベビーがどれほど危険な立場に置かれているか。軍はもちろん、連合議会や連合帝国の全体が、絶対にベビーを放っておくはずがない」


 利害関係を冷酷に突きつけられ、狂特ゴブリンは初めて事の重大さに気づいた。背中に冷や汗が吹き出し、しどろもどろに言葉を詰まらせる。 「そ、それは……俺……」


『( ;∀;) ( ̄ー ̄) ➔ ( ಠ益ಠ NO! 』 『[ 家人 ] ➔ ♡♡』


 話し合いの重苦しい空気を察し、傍らで見守っていた機甲トロルのディスプレイが次々と表情を変えていく。


「大丈夫だ、ベビー。お前を責めてるんじゃない」 画面の表情の変化に気づいたオールドマンは、まずベビーに数言かけて安心させた。それから再び、首を垂れる狂特ゴブリンへと視線を戻す。 「俺の言いたい意味が分かったか、ゴブリン?」


「俺はただ……」 狂特ゴブリンは口ごもり、どう返答すべきか言葉を失っていた。


 オールドマンは手近なパイプに火を点け、深く一服した。台地での機甲トロルの戦いぶりを思い返し、思索に耽る。 「ベビーの姿は、あまりにも多くの奴らに目撃されすぎた。近いうちに……」


「ようやく見つけたぞ……」


 オールドマンが言葉を言い終えるより早く、樹林の奥からバイ指揮官と、その後に続くエルフ議長が姿を現した。噂に聞く巨大な機甲をその目で捉え、二人は突如として足を止め、口を揃えて絶叫した――。


「世界樹よ……! 一体何をやらかしたの!?」 「聖光よ……! 一体何をやらかんだ!?」


 噂をすれば影。解決策を思いつく間もなく現れた二人を前に、オールドマンは力なくため息をついた。 「お前ら、どんな魔法を使えばそんなすぐ俺の居場所が分かるんだ?」


 エルフ議長はパイプを咥えたオールドマンを死んだ魚のような目で見つめた。 「世の中に、四六時中パイプを咥えただらしない軍人が二人といると思う? キャンプの兵士にキーワードをいくつか尋ねたら、全員があなたが去った方角を指差したわよ」


 オールドマンはバイ指揮官を面白がるように一瞥し、エルフ議長に返した。 「案外、二人目がいるかも知れんぜ。俺なんざ紫色のバイ指揮官と出くわして、誰がダディなのかを直々に教えてやったばかりだ」


「……どうして僕を見つめながら答えるんだ? 正直、自分自身の遺体を目撃するなんて気味が悪いし、ゾッとしたよ……」 顔に縦線を浮かべたバイ指揮官は、道中で耳にした噂と光景を思い出し、鳥肌が立つのを抑えきれずにいた。


 エルフ議長はオールドマンの包帯が巻かれた左腕を一瞥し、密かに胸をなでおろした。それから視線を機甲トロルへと向け、表情を厳しくする。 「いいわ、本題に入りましょう……。あなたたちがどう戦おうと、私やバイ指揮官が口を挟むつもりはないわ。……だけど、何の相談もなく、こんな金属の……人間……?を唐突に作り出すなんてどういうこと?」


 何と定義すべきか定義しかねた様子で機甲トロルを見つめるエルフ議長。オールドマンは深く息を吸い、肩をすくめて白状した。 「分かってる。こいつは俺にとっても想定外だったのさ。まさか双頭のトロルがこんな姿になるとはな」


 目の前の機甲トロルが、あの双頭のトロル本人であると知らされ、二人は目を見開いて呆然とし、驚愕の声を上げた。 「そ、双頭のトロルだと!?」


 


 ──────────────────────────────────


 


 オールドマンから一通りの経緯を聞かされたエルフ議長は、額を押さえて力なくその場にしゃがみ込んだ。 「世界樹よ……。私にどう返答しろと言うの? 今や世界中で、連合議会が秘密兵器を開発したという噂が一人歩きしているのよ……」


 軽く咳き込んだオールドマンは唇を尖らせ、片眉を上げていい加減なデタラメを口にした。 「……世界に向けて物語をでっち上げればいいのさ。金属と水晶、それらは英雄を作り出すための主要原料だった。だが、大賢者がうっかり公式をしくじっちまった。こうして、機甲トロルが誕生した!……ってな」


 その言葉が終わるやいなや、エルフ議長は即座に白目をむいてオールドマンを睨みつけ、厳格に言い放った。 「オールドマン……。この状況が私個人の裁量でどうにかなる問題じゃないことくらい分かっているでしょう……。事の重大さは、すでに連合議会と連合帝国の提携全体に関わるレベルなのよ……」


「それに……そんなくだらない作り話……もう突っ込む気力すら湧かないわ……」 緊張の糸が切れたエルフ議長は視線を逸らし、引きつった口元でボソリと愚痴をこぼした。


「分かってるさ。肩の力を抜いてくれと言いたいだけだ。起きてしまった事実に対して焦っても意味はねぇ、どうにかなるさ」 相手の表情が和らいだのを見て、オールドマンは穏やかに口角を上げた。それから背筋を伸ばし、チームの面々を見回す。 「それに、お前も俺の性格を知ってるだろ。昔、誰も見向きもしなかった連中を、俺自身の手で集めたんだ。俺は必ず、あいつらの前に立ってみせる」


 それを聞き、エルフ議長は小さくため息をついた。長考の末、ようやく口を開く。 「……帝国側には、私から折衷案を提示してみるわ。勇者一行を優先的に帝国へ派遣し、深淵の撃退を支援させる、という形でね」


「だけど、戦争が終われば、機甲トロルの存在は必ず両国間の議題に上るわ」 相手が口を開く前に、エルフ議長は苦渋と躊躇いを滲ませて続けた。 「あなたにも、私の立場を少しは考慮してほしいの……」


「で、どうするつもりなんだ?」 オールドマンは、エルフ議長がまだ口にしていない言葉を静かに待った。


 エルフ議長はまず全員を見回し、目を閉じて深く息を吸い込んでから、告げた。 「最善の選択は……機甲トロルを封印することよ……」


 その言葉を聞いた瞬間、狂特ゴブリンの目が激怒で吊り上がった。 「ふざけるなッ! 何を言ってやがる!」


「ゴブリン……」


 オールドマンは即座に狂特ゴブリンを一瞥し、手を挙げて制した。相手が言葉を飲み込んだのを確認すると、再びエルフ議長へと向き直る。 「いいだろう。ただし、身体だけだ。機甲トロルの頭部の中には生体脳がある。理屈から言えば、頭部まで兵器として接収することはできん」


 責め立てられる覚悟をしていたエルフ議長は、オールドマンが筋を通してくれたことに胸をなでおろした。彼女は全員に向けて深く手を重ね、畳手礼をして申し訳なさそうに告げた。 「こんなことを言えば、全員を敵に回すことは分かっているわ……。理解してくれて感謝するわ、オールドマン」


「ゴブリン、お前は自分の部族と決裂することはできても、世界全体と敵対することはできねぇんだ。退路を失えば、誰かを守るための最低限の条件すら失う。その道理が分かるか?」 片手で口元を押さえて咳を漏らし、オールドマンは狂特ゴブリンを見つめ、次いでエルフ議長へ視線を向けた。 「だが、前提条件だ。この戦争を終わらせた後で、身体を引き渡して封印させる。それで手打ちにしてやる。高望みじゃねぇだろ?」


 エルフ議長は伏し目になり、しばらく熟考してから答えた。 「分かったわ。それも既定路線ね。いずれにせよ、私達と帝国は共通の敵に直面しているわ。勇者一行を帝国へ派遣し、機甲トロルにはこちらの戦線を維持させる。そうすれば帝国側も文句は言えないはずよ」


 解決策の着地点が見えると、オールドマンは少し考え込み、二人に向けて尋ねた。 「エルフ議長、バイ指揮官。少し個人的に話す時間をくれないか? ずっと心に引っかかっている望みがあってな。長引きすぎて全身がムズムズしてるんだ。協議したいことがある」


 二人は顔を見合わせ、オールドマンがまたどんな企みを隠しているのかと怪訝に思った。バイ指揮官が答える。 「明日の朝にしよう。僕は数日間、ここに駐留する予定だからね。議長は明日の午後に至高の首都へ戻らなければならないが」


 オールドマンはパイプを外し、軽く咳き込んでから、満足げに頷いた。 「よし、決まりだ。俺達は適当に休む場所を探す。お前らも早く休め」


「それと……最後にもう一つ」 エルフ議長は心配そうな表情でオールドマンの前へと踏み込み、不意に彼のパイプを力任せに奪い取った。 「これ以上、吸うのは禁止よ。自分の身体をこんなにして……周りであなたを心配している人の気持ちを考えたことがあるの?」


 突如とした彼女の行動に、オールドマンは一瞬呆気にとられた。彼は黙って、エルフ議長がパイプの灰を叩き落とし、それを持ったままバイ指揮官と共に去っていくのを見送った……。


 去り行く二人の背中をじっと見つめ、オールドマンは静かにふっと笑った。それから、軍外套の胸ポケットから、悠然と「もう一本のパイプ」を取り出したのだった――。

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