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【第四章:正面から血反吐を吐いて戦うのが好漢なら、天降る奇兵こそが真のヒーローだ! 監督! ヒーロー役は俺にやらせろ!(ヒーロー)】

 前線陣地へ到着したばかり的人間の大隊長は、装甲営からの要請を受けるや否や、二つ返事で配下へ出撃命令を下した。


 その時、一台の暴走した砲車が狂ったような速度で斜面へと突進してきた。 オールドマンがマイクを握りしめて怒鳴りつけようとした瞬間、通信機の向こうから静かな声が響いた。


『――人間、黙ってろ。さっさと部下を連れて失せろ』


 エルフの副官が前線へと躍り出たのだ。全乗員へ敵への突撃と全火力の開放を命じる。 彼は疲れ切った瞳で、車内に吊るされたバイの軍官の軍帽が揺れるのを見つめながら、淡々とマイクへ呟いた。


『――これは俺がお前と、あいつに返すべき借りだ。ハイエルフに栄光あれ……』


「……不朽あれ」と言い切る前に。 猛獣のごとき烈炎が正面から砲車を呑み込んだ。 時間がゆるやかに減速していく。同じく疲弊しきり、自ら最後の一便に乗り込んだ乗員たちと共に、エルフの副官は清々しい笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。 (――今、逢いに行くぜ。俺の最初の異人種の友よ……)


 集中砲火を喰らった砲車が凄まじい大爆発を起こす。 鮮烈なオレンジ色の火光がオールドマンたちの顔を真っ赤に染め上げた。 次の瞬間――西の彼方から、雷鳴のごとき爆音天空を揺らして響き渡った!


 ヒュンヒュンヒュンッ! 空を切り裂く絶無の光弾が北側の敵陣へ着弾し、猛烈な大爆発が敵の攻勢を瞬時に叩き潰す。 その隙を逃さず、オールドマン率いる軽歩兵隊は斜面を駆け下り、無事に平地へと脱出して連合軍の本陣へと後退を続けた。


 オールドマンはふと振り返り、煙を上げて沈黙する砲車の残骸を見つめた。ぽかんと口を開け、ボソリと呟く。 「クソったれが……」


 両軍の激しい砲撃音の中、異質な重低音が鼓膜を叩いた。 頭上を低空飛行で通り抜ける四軸トランスポート。開け放たれたハッチの奥に、巨大な影が立ち塞がっている。 ロープが投げ落とされ、巨大な影と重武装の者たちが次々と地上へ飛び降りてきた!


 ドスゥゥンッ! 頭部モニターに『( ≧∀≦ )』を浮かべた巨大機甲――『機甲トロル』が着地。 砲車ほどの巨銃を軽々と掲げ、北側の敵へ向けて火を噴く。 直後、放たれた紫の熱線が機甲のスネの装甲板を捉えた。


 機甲トロルは片脚を上げ、ドロドロに溶けた金属板を凝視。 表示が瞬時に『( ・_・ )』から――『( ಠ益ಠ 』へと切り替わる!


 機甲トロルが身をかがめると、右肩の大型キャノンが目まぐるしく輝き始めた。凄まじい熱波が周囲を歪める。 電光石火の一閃! 火赤の巨光が砲口から噴出し、遠方の紫の砲車を一瞬で穿ち破った。貫通した光線はそのまま後方の砲車まで木っ端微塵に吹き飛ばす!


 機甲の背部、キャノン砲を支えるハッチの上。 ゆらゆらと揺れる小さな人影が取っ手を握りしめ、呆然と突っ立っているオールドマンに向かって叫んだ。 「よぉーっ! この老いぼれ! 少しは大人しく一箇所にじっとしてられないのかよ! あちこち走り回りやがって、お前の居場所を探すのにどれだけ苦労したと思ってんだ!」


 オールドマンと共に口をぽかんと開けていた狂特ハイエナ。 懐かしい臭いを嗅ぎつけ、引きつっていた顔が徐々に歪んだ笑みへと変わっていく。 「……ベビー? お前なのか……!?」


 機甲トロルの背中にしがみついた狂特ゴブリンが、満面の笑みで返した。 「他に誰がいるってんだ、マヌケ犬」


「おい、俺は……」 感無量の混乱に陥っていたオールドマンだったが、即座に我に返り、再結集した仲間たちへ怒鳴り散らした。 「話は後だ! 狂特戦隊! 密集せよ! 火力掩護で軽歩兵どもを安全圏へ退避させろ!」


 狂特戦隊の合流と機甲トロルの圧巻の重火力により、連合軍の防衛網は一気に強化された。 惨劇の台地には紫の残骸がうずたかく積み上がり、交錯する銃砲火線と爆音が徐々に収まりを見せ始める……。


 だが、息をつく暇もなく、通信機から特遣隊の悲痛な叫びが上がった。 『――東南方向より第二波軍団接近! 繰り返す、東南方向より第二波軍団接近!』


 新領袖と人間の大隊長が即座に防衛命令を下す中、オールドマンはトロルの真相を問いただす暇もなく、苦虫を潰した顔で双眼鏡を覗き込んだ。


 傍らの機甲トロルのモニターが『( ̄ー ̄) [↑] [ p(◎-◎)q ]』と表示される。 直後、巨大な金属の手がオールドマンを優しくすくい上げ、自らの肩の上へと腰掛けさせた。


 見覚えのある所作に、オールドマンは思わずニヤリと笑った。 肩の上から双眼鏡で東南の地平線を見渡す。黒々と押し寄せる大軍の中に、ひときわ異質な人間のシルエットが浮かび上がっていた。


 目を凝らしたオールドマンの表情が固まる。 その深淵の輪郭は――バイの指揮官そのものだった。 双眼鏡を下ろし、険しい眼差しでその方角を凝視する。 「おいおい……あのスカした深淵の面、俺の『マブダチ』と生き写しじゃねぇか……」


 銃を抱えた恋銃癖がぬっと歩み寄り、静かに告げた。 「疑う余地もない。以前、平行世界の存在について議論しただろう。見知った顔の敵が現れたとて、驚くには値しない」


 メンバーを見回すオールドマンに対し、狂特ゴブリンが片眉を上げて嘲笑った。 「何じろじろ見てんだよ? お前が今までやってきた暴挙で、他人の都合なんて考えたことがあったか?」


 オールドマンは鼻で笑うと、すぐに表情を引き締めた。 「あいつを仕留めるぞ。現実にいるバイの指揮官って奴は、決して舐めてかかっていい相手じゃねぇ」


 第二波の軍団が凄まじい圧迫感で迫る中、連合軍も突貫で弾薬を補給し、臨時陣地を急ピッチで強化していく。


 新領袖とオールドマンの声が完璧にハモった。 「「全軍聞けッ! 余力のある者は前線で敵を食い止めろ! 疲弊した者は後方で弾薬補給に回れ! 交代で息を整えつつ、長期戦に備えろ!」」


 敵の大軍が3キロ圏内へ到達。陣形が三つの軍団へと分たれ、中央の砲車が高高度へ向けて砲門を持ち上げた。


 プレッシャーを感じた新領袖がマイクに向かって絶叫する。 『――全車散開! 遮蔽に隠れろ! 砲車、二号砲門! 徹甲弾! ターゲット敵砲車、距離3点3キロ! 撃てぇぇッ!』


 オールドマンもマイクを握りしめて叫ぶ。 「大隊長! 左翼の軍団の抑えを頼む!」


『――任せろ!』


 人間の大隊長の即答と同時に、両軍の砲門が爆光と轟音を撒き散らした! 敵砲車が徹甲弾に貫かれ、跳弾の火花が飛び散る。直後、飛来した敵の弾幕が連合軍陣地周囲で狂乱の爆発を引き起こした。


 第一波の砲撃が収まるや、オールドマンは周囲を見回して叫んだ。 「波及弾でやられた負傷者を後方へ下げろ!」


──────────────────────────────────


『――レディース・アンド・ジェントルメン! 爆発パーティの始まりだぁぁッ!』


 オールドマンの言葉が終わるか終わらないかのうちに、通信機から陽気なダウナーボイスが轟いた。 鋼索に吊るされた超重砲車が、低空飛行するトランスポートからドスンと地上へ叩き落とされる!


 続いてオークやエルフの戦士たちが次々と飛び降りてきた。 兵士たちの間に興奮のどよめきが広がる。オールドマンの耳にも、『勇者パーティ』という言葉が鮮烈に飛び込んできた。


 もう一台のトランスポートが右翼の敵陣真上へ突入。 後部ハッチから飛び降りた重装甲の人間の男が、着地と同時に敵を踏み潰す! 刺突を仕掛けてきた人間の深淵に対し、男は振り返りもせず左手を伸ばして首根っこを掴むと、そのまま己の額へ力任せに叩きつけた。深淵の頭部が木っ端微塵に砕け散る!


 爆炎が男の傍らで吹き荒れるが、揺らめく障壁がそれを防ぐ。 遠方の女性エルフがヒステリックに怒鳴り散らした。 「こらバカ野郎! 戻ってきなさい! 敵のど真ん中に突っ込んで格好つけてんじゃないわよ! 勇者のパフォーマンスにも限度があるでしょ!?」


 無口な『勇者』は腰の宝刀を一閃させ、迫る敵を一撃で両断。 投げ捨てると同時にライフルを抜き放ち、のけ反りざまに左側から襲いかかる深淵の背頭へ銃口を向け――引き金を引いた。


 バァンッ! 深淵が爆散する。 勇者は重装甲のマイクを通じて静かに告げた。 『――戦士たちよ、恐れるな。勇者パーティ、参戦する!』


 勇者パーティの降臨に、限界を迎えていた連合軍の士気は一気に沸騰した。 主役の英雄が全視線をさらっている隙に、オールドマンは無言で首を振り、瘋狂特戦隊の面々を見つめた。


 機甲トロル以外のメンバーは一瞬で察し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、素早く弾薬を再装填した。


 敵の大軍の注意が勇者パーティへ集中する中、激しい砲火の陰で、瘋狂特戦隊は密かに南側の側翼へと滑り出していた。


 主戦場から距離を置き、敵の側腹深くへと潜入していく。 爆音の喧騒に紛れ、各自が暗殺と狙撃で沿道の散発的な敵を無音で処理していく。


 敵の大後方へ接近するにつれ、警戒網は過密さを増していく。 双眼鏡を覗き込むオールドマンだったが、一向にお目当ての「標的」が見当たらない。


(――相変わらず泥棒ネズミみたいに悪賢い奴だ……)


 オールドマンは地図を広げ、敵の配置と退路を割り出した。 マイクを掴み、後ろの二人に命じる。 「ゴブリン、恋銃癖。俺とハイエナで奴らの背後に回り込む。合図を出したら……機甲ボボの全火力を叩き込め。混乱を起こして掩護しろ。その後即座に本隊へ合流だ」


「ハイエナ、俺と一緒に逃げ出すドブネズミを挟み撃ちにするぞ」 オールドマンと狂特ハイエナは身を低くし、草むらに身を隠しながら高速で敵の背後へと回り込んでいく。


 追従する狂特ハイエナがニカッと笑った。 「今日はクライマックスの大一番には打ってつけの日だな!」


 定位置へ到着するなり、オールドマンはマイクへ囁いた。 「ネズミ捕り、セット完了」


 言い終わるや否や――! 刺さるような火赤の巨光が草むらを切り裂き、深淵の集結地へと爆進! 光線が通り過ぎた大地はドロドロに溶け、紅蓮の火の海と化した。


 続いて無数の小型光弾と、間隔を置いた重厚な砲光が同じ方向へ傾注され、降り注ぐ。 全てをその目に収めたオールドマンは、懸念を隠せずに眉をひそめた……。


 狂特ゴブリンたちの突襲により、敵の後方陣地は大混乱に陥る。 その隙を見逃さず、オールドマンは観察を続けた。やがて、一隊の統制の取れた深淵の護衛隊が、慎重に陣地を離脱し始めたのを見逃さなかった。


「ハイエナ、取り巻きを片付けろ。ネズミの王は俺がやる」 オールドマンは愛銃『クズの真髄』を握りしめ、単身で敵の予測ルートへ躍り出た。


「ハッ! おいおい老いぼれ、主役はお前に譲ってやるよ!」 狂特ハイエナは制式小銃を構え、低空姿勢で護衛隊へ突撃する。


 狂特ハイエナが跳ね起きざまに連射! 護衛の深淵3体が瞬時に頭部を吹き飛ばされた。 残った護衛が反撃の火を噴く中、2体だけが深淵の指揮官をかばって後方へ逃走を図る。


 逃がすかよ――! オールドマンは銃身を両手で掴んで飛び出すと、一撃で1体の深淵の頭骨を叩き割った! 間髪入れず銃身を持ち直し、残る護衛の胸元へ銃口を密着させて引き金を引く!


 バァンッ! 砕けた魔法水晶の破片が零距離で炸裂し、護衛を肉塊へと変える。 ポンプアクションで次弾を装填した瞬間、一人残された深淵の指揮官が拳銃を抜き放ち、オールドマンへ向け射撃した!


 銃声! オールドマンは眉をひそめて身を捻り、片手で握った『クズの真髄』を敵の顔面へと叩き込んだ! 凄まじい反動で右腕が天へと跳ね上がる。破片に顔面をズタズタに引き裂かれた深淵指揮官が、崩れ落ちるように倒れ伏した。


「なあ、マブダチよ……。顔は瓜二つだってのに、お前と本物じゃ腕前に天と地の差があるぜ。もう少し狙いを澄ましてから撃つんだな……」 左腕の激痛に耐えながら、オールドマンは這いずり回る深淵指揮官を見下ろした。


 背後から迫る重厚な足音。 振り返ると、大股で駆けつけてきた『勇者』が立っていた。


 倒れた敵指揮官と、硝煙の昇る愛銃を構えるオールドマン。 勇者は彼の前へ進み出ると、敬意を込めて深く頭を下げた。 『――勇敢なる戦士よ。世界のための尽力に心より感謝する』


 オールドマンは深淵指揮官の背中を力任せに踏みつけると、不敵に笑った。 「大したことじゃねぇよ。軍人の本分を果たしたまでだ」


 勇者は穏やかに微笑んだ。 『――いいえ。あなた方のような誇り高き戦士の助けがなければ、私とて無双など叶いません』


 トドメを刺そうとしたオールドマンだったが、勇者の腰に光る名刀が目に留まった。 脳裏に悪知恵が閃く。愛銃を収め、おずおずと尋ねた。 「なら、ひとつ不躾なお願いを聞いてくれねぇか?」


『――何なりとおっしゃってください、勇敢な戦士よ』


「その腰の名刀を、ちょっと拝見させてもらいたいんだが」


 勇者は一瞬呆気にとられたが、爽やかに笑った。 『――お安い御用です』


 オールドマンは足の力を抜き、勇者から両手で重厚な宝刀を受け取った。 ――直後、滑り落ちた。 ガツンッ! 名刀が見事に、ジタバタと這いずり回っていた深淵指揮官の背中を垂直に貫いた!


 深淵指揮官はガクリと体を硬直させ、手を伸ばしたまま二度と動かなくなった。


 敵の息の根が完全に止まったのを確認し、オールドマンは恐怖に引きつった顔で勇者を見つめ、ガタガタと震えながら謝罪した。 「お、おおお悪ぃ! 重すぎて手が滑っちまった! 故意じゃねぇんだ、許してくれ!」


「ハハハ! お気になさらず!」 頭を掻いて豪快に笑う勇者。だが、軍コートに覆われたオールドマンの左腕から血が滴り落ちているのに気づき、顔つきを変えた。 『――戦士よ、怪我を……』


「勇者様だぁぁッ!」 「勇者様が敵の指揮官を討ち取られたぞぉぉッ!」


 背後からの猛烈な大歓声が勇者の言葉をかき消す。


『――い、いや、私ではなく……』 驚いた勇者が振り返り、オールドマンに手柄を譲ろうとした時には――。 そこにはもう、煙のごとく姿を消した彼の影すら残っていなかった――。

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