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アオハル  作者: 駒里倉葉
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2話 遅刻、そして思わぬ出会い

2、遅刻、そして思わぬ出会い


 「えっ、遅刻?」

寝坊してしまうとは、今日は運がついていない。そう思いながら、凛は遥と共に急いで身支度を済ませる。電車の待ち時間で軽く朝食を食べるために、机の上に偶然置いてあったおにぎりと遥が用意してくれたお弁当をカバンに押し込んだ。そして、クローゼットを開けてビニールにくるまっている高校の制服を取り出し、着慣れていないジャケットのボタンを留め、新品のローファーを履いて路面電車の駅まで急ぐ。今日履いたばっかりのローファーで走ったので、途中から足の指が靴の内側と擦れてとても痛かった。かろうじて7時55分発の路面電車に乗った時には、二人とも息を切らしてものすごく疲れていた。

 凛はちらっと遥の方を見た。遥は俺と同じく、新しい制服に慣れず、なんだか落ち着かないようだった。凛達が通う学校は中高一貫校であり、今日は高校1年生へ進級した生徒を祝う式がある。中学校の時とは違う制服を羽織り、凛達は在校生の人々から進級祝いをされる。

 今日は本当に大切な行事があったので、寝坊したことに早めに気づくことができて、本当に助かった。遥はほんの少し忘れっぽいところがあるが、それ以外は優秀でとても頼りになる。両親は家に不在、兄は海外にいて身内が近くにいない俺にとって、おそらく遥がいなければ、今日だってこの程度では済まなかっただろう。

 しばらく電車に揺られていると、凛はさっきまで見ていたあの夢を思い出した。あれは、凛の声の高さと来ていた服装を考えると、おそらく幼稚園にいた時の頃だ。しかし、幼稚園の頃にあんな事件に巻き込まれたことは俺の記憶にない。忘れているかもしれないとも思ったが、第一、俺の家族にはお姉ちゃんは存在しない。家族写真があったアルバムを見たことがあるが、あの少女はもちろん写っていなかった。それなのに、凛と顔が似ていて瞳の色まで同じ少女が夢の中にいた。あの夢の中の少女はその後どうなったのだろうか。そういえば、あの少女は、やけに幼い頃の遥にそっくりだった。一つだけ違うところを挙げると、瞳の色が、遥は栗色に対してあの少女は灰色だったことだ。

 あの夢は実際にあったのだろうか。確かに、夢に出てきた少女以外は、全部本物そっくりだったし、場所も実際近所にある空き家だった。では、あの遥と瓜二つな少女はこの世界に実在するのだろうか。

 「まもなく、大波止、大波止。」

時間はあっという間に過ぎていき、気付けば次の駅で降りなければならない。アナウンスが響き、多くの人が電車を降りる準備を始める。ここの駅は大きな商業施設が近くにあるし、港もあるので、多くの人が利用する駅だ。

 凛達が通う私立高校は電車と徒歩で合計で40分ほどかかるので、毎日電車にずっと乗って学校に行く。これが結構疲れる。多くの地元の人が使い、観光客も移動のために使い、電車が混雑するからだ。もしかしたら、混んでいるのは凛たちが電車に乗る時刻が遅くて通勤ラッシュと重なってしまったからかもしれない。

 電車が停止する音が響き、学校の最寄りの駅である大波止に着いた時には、凛の時計は8時15分をさしていた。確か、進級式が始まるのは8時30分ごろではなかっただろうか。今から走れば、8時25分には学校に到着できる。

 通りを大急ぎで走り、学校へ向かう。地元の人からは何事かと思われたぐらいだ。そして、凛の予想通り8時25分前に学校に到着し、金色の文字で「豊燈中学校・高等学校」と書かれた看板がある門を通り抜けた。本当なら、すがすがしい風を浴びながら、新たな高校生活に胸をはせて楽しみながら通りたいところだったが、こんな急いでいるのだから、そんなことはできない。

「すみません。進級式の会場はどこでしょうか。」

息を切らして事務室の先生に聞いてみた。今まで会ったことがない、50代ぐらいの女性の先生に教室に案内してもらった。他の進級生のみんなはもう準備のために、体育館の方へ向かっているという。先生は少々怒り気味だった。進級式で遅刻する馬鹿などいないと先生も思っていたんだろう。あとで担任の先生に言いつけられて、たっぷり叱られるに違いない。

 他のみんなと合流したのは、進級式で入場する直前だった。

「どうした、寝坊したの?」「大事な行事で遅刻するとか意外だな。」

みんな騒然とし、凛と遥は少しだけ恥ずかしい気分だった。館内で進級生が入場することを知らせるアナウンスがかすかに聞こえた。

 扉が開いた。進級生達は温かい拍手で迎えられて入場する。吹奏楽部がウェルカムソングを披露して、進級式を盛り上げてくれている。凛は観客席の方に目を向けた。もしかしたら、と思ったが、その保護者の中に、凛の親族はいない。父は単身赴任中で、幼稚園を卒業した頃から遠方におり、それからほとんど父と会っていない。母は持病の手術のために病院で中学生になった頃から長期入院、年の離れた兄は1年前から海外に住んでいる。誰も高校の進級式なんかに来ない。そう思って目を逸らそうとしたその瞬間、凛は自分の目を疑った。

 凛は幼い頃から、中性的な顔立ちをしており、女の子みたいな可愛らしい灰色の瞳を持っていた。また、髪色も黒に近い藍色で、その中性的な見た目で整った容姿は、男女構わず多くの人から人気を得ていた。凛が人前で笑ったことは、遥以外ないが、同級生には、微笑んだ顔はさぞかし美しいだろうと言われていた。

 その自分と瓜二つの男性が保護者席に座っている。唯一違うところを挙げれば、髪色がくすんだ赤色に近い茶髪であることだ。灰色の瞳で凛をじっと見つめている。凛の実の兄の漣だった。


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