Sid.97 門衛に担ぎ込まれていた
町に戻るべく移動するけど、ボスを倒しても雑魚は出てくるわけで。何度でも出現すると言うことは何かしら仕掛けがあるんだろう。
それを解明すれば冒険者の狩り場と、安全な場所を作り出すこともできそうだ。
「ねえ、ヒロトぉ」
「何?」
「無力化しちゃえば楽だよ」
「しなくていい」
怪我の度合いが酷いこともあり、フレージアが無力化すると言うんだけどね。
魔法で倒してしまえば体に負担は掛からない。剣での戦闘は無理だけど。
「ヒロト大丈夫?」
「何が」
「ふらふらしてる」
出血多量で体が重いのは確かだ。意識も遠くなりそうな感じで、歩みが遅くなってるのだろう。お構いなしに出現する敵を排除しながらだから、きついと言えばきつい。
でも古城から町まで距離はそれ程ない。出てしまえば何とかなる。
とは言え、やはり意識が飛びそうだ。辛うじて保っているに過ぎない。
ついには剣を杖代わりに移動する。
「ヒロトぉ」
少し休めばいいと言ってるけど、休んで回復するわけじゃないし。破損の程度が酷いから戻って修復が必要。
過去に何度かあったから今回も何とかなる。仮に戦闘を熟せなくなっても今はフレージアも居るし。無力化してもらえるから気分的に楽だ。
剣を杖代わりに何とか古城を出ると、さすがにしんどい。歩くのも嫌になるし誰かに運んでもらいたいと思う。運んでくれる人は居ないけどね。フラウが居れば最低でも傷口を塞いでもらえるんだろう。回復職だけでも同行してもらった方が良かったのかも。
今さらだけど、もう少し剣を使った戦闘に慣れておくべきだった。
朦朧とする意識の中、移動を続けると町が見えてきて「人、呼んでこようか?」なんて言うフレージアだ。モンスターとしか認識されないから、その必要はないと言っておく。
そろそろ限界かも。目の前にフレージアが居て名前を呼ばれてる。でも答える気力もない。
「おい、どうした!」
声が聞こえる。この声は門衛のヤンネかな。街道まで出て来たの? 何やら叫んでいるようだけど、眠気が勝り意識を手放したようだ。
どの程度経過したのか、目覚めるとギルドの待機室だった。と言うことは強制的に日本に戻ったわけじゃない。ペナルティを負わずに済む。
「あ、気付いた」
「酷い状態でしたし相当無理をしたようですね」
「大怪我してるのに無理するから」
「とりあえず簡単な処置は済ませてます」
フレージアとスタッフの顔がある。フレージアには心配掛けたようだ。
待機室のドアを激しく叩かれ出て見れば、門衛が僕を担いで「重傷だ、早く処置を」と言って、ベッドに寝かせてくれたようで。
ヤンネが町に辿り着く寸前で倒れた僕を運んでくれたらしい。
遠目に見て様子が変だと思ったそうで。駆け付けると意識を喪失する寸前。声を掛けるも反応が無く急いで運んだ。
「受付のエルミも心配してましたよ」
受付嬢ってエルミって言うんだ。全然名乗ってくれなかったからなあ。冒険者ってことで嫌悪感を抱かれていたのだろうけど。
まあいいや。好かれるとは思ってないし。
「起き上がれますか?」
簡易処置は施されてる。出血も止まり傷口は塞がれてるようだ。
体を起こすと「リコールしますか?」と聞かれ、魔結晶の換金を済ませたいってことで、待機室を出て受付に向かうことに。
「ヒロト、大丈夫なの?」
「心配掛けたけど大丈夫」
「そう?」
「問題無いよ」
フレージアには球根に収まってもらっておく。受付嬢が見たら恐怖するだろうから。
待機室を出て受付に向かうとエルミが僕を見て「もう大丈夫なのですか」なんて聞いてくる。問題無いとしておいた。
「魔結晶の換金と当座預金に」
「あ、え、はい」
僕を見ながら「あの、失礼ですけど服装」って言われ自分を見ると、穴だらけで切れてるし端切れ状態だし。血塗れでドス黒く汚れてるし。新調せざるを得ないか。
リコールの際に初期装備の服を用意してもらおう。
「あとで新調しておきます」
「では、こちらに」
トレーをカウンターに用意するけど載せきれない。もう一つ用意してもらい以前と同様ポーチを外し引っ繰り返す。
ジャラジャラと大量に出てくる魔結晶だ。やっぱり驚いてるけど「心配したんですよ」なんて言ってるし。なんで僕の心配をするのだろうか。嫌悪感しか抱かれてないだろうに。
全部出し終えるとチェックするようで、背を向け後方のカウンターで作業してる。
「あの、これなんですが」
「え」
急に振り向いて「登録に無い魔結晶があるのですが」と言って見せてきて気付いた。
「あ、それは売り物じゃないです」
フレージアの球根まで出しちゃってた。急いで返却してもらいポーチに収納。
疑問を抱かれているようで聞いてくるエルミだ。
「それは何の魔結晶なのですか?」
あまりにも美しい輝きを放つ魔結晶は見たことがないものらしい。鑑定済み魔結晶便覧にも未掲載だとか。つまり妖精の討伐は無いってことだよね。
「えっとですね」
「怪我をしたのと関係しますか?」
「それとは別です」
深く追及はしないそうだ。ただ何の魔結晶なのか教えてもらえれば、他の冒険者が持ち込んだ際に買い取り額を予め決めておけると。
相当な金銭的価値がありそうだとも言う。売り物じゃないし。すでに仲間だし。
「大切なものなので」
「そうですか」
もし金額が気になるようなら鑑定するそうだ。鑑定不要。何ものにも代え難いものだし。
作業が終わると預かり証を手渡される。剣を買った際に全額使ったけど、また同じような額になってる。稼いだなあ。死にそうになったけど。
僕をじっと見つめるエルミが居る。
「何ですか?」
「あ、いえ。なんでもありません」
目を逸らした。
ギルドに誰か来たようで視線が僕の後方に向かうエルミだ。
「クスタヴィさん。どうされましたか?」
え、クスタヴィ?
振り向くと僕を見て「あれから数日経過しましたが、何も出て来ないので」と言いながら傍に来る。
向き直ると「依頼は達成と言うことで」と言って、懐から小袋を取り出し貨幣を出すようだ。保留にしていたものか。でも要らないんだけどな。お金より貴重な存在が僕の元に居るし。
「あの」
「まだ依頼料を支払っていません」
「えっと、不要です」
「え」
困惑してるけど金目当てじゃないし、依頼料が少額ってことは金銭的に楽じゃないだろうし。
無理はせず家族のために使ってと言っておく。やたら恐縮して「それでも幾らか支払いを」と言う。
「依頼料のお支払いが済んでないのですか?」
エルミが疑問を抱き口を挟んでくるけど。
「古城とか森とか神殿で稼げるので」
「ですが正式な依頼なので対価は」
「要らないです。困っていた住人からは受け取れません」
感謝の気持ちだけで充分としておいた。
なんか収まりが付かないようだけど、お金が欲しくて依頼を受けたわけじゃないし。
深く頭を下げるクスタヴィだ。頭を上げると「娘も感謝しているので一度家に来て欲しい」だそうで。無碍に断ると角が立ちそうだけど、でも面倒だし気持ちだけ受け取っておく、としておいた。
やっぱり納得してないような。きりが無いので帰ります、と言ってギルドをあとにする。
またも深々と頭を下げるクスタヴィが居るし。過剰だってば。
待機室に入りフレージアを呼び出す。
「ヒロト、さっき売ろうとした」
頬を膨らませ怒って見せるフレージアだ。どうやら状況は把握してたらしい。
「ごめん。間違えただけ」
「酷いな。心配してたのに売ろうとするなんて」
「だから間違いだってば」
泣き真似をしながら「罰として毎日冒険ね」とか言ってるし。
「無理だから」
「なんでよぉ」
僕は学生なんだっての。




