Sid.98 お姉さんから相談される
フレージアには一週間後に、と言ってリコールする。
僕が居ない間は球根で待機するのか、と思ったら「発生源を探しといてあげる」と言い出す。
「でも球根は僕が」
「この部屋に置いといてもらえれば」
近隣の発生源を探しに行けるそうだ。フレージアの行動半径は球根、つまり魔結晶から二千メートルらしい。その範囲内なら自由に移動できるとか。モンスターから攻撃されることもない。同質の存在と認識されるからだそうで。
例の黒い流体モンスター、マヴロイグロもフレージアには攻撃しない。何ら危険も無いのだと。
球根はスタッフが管理してくれていれば良いらしい。レベル六十以下の冒険者では、フレージアを倒すのは不可能だとかで。まあ無力化できるからだろうね。
ただ球根を冒険者が手にしたら売られてしまう。事情を知るここであれば、間違って市場に流されることはない。でも他のギルドなら資源扱い。
「だからね、ここのおじさんが管理してくれれば」
スタッフを見ると困り顔だけど「厳重に管理しますよ」だそうだ。
スタッフを信用してリコールすることに。
「じゃあ探しておくね」
「頼んだ」
「では丁重に扱いますので」
フレージアに見送られリコールすると、薄暗い小部屋が視界に入る。起きて急いでトイレに駆け込み施設をあとにした。
電車待ちの間、スマホを見るとメッセージが複数入ってる。
マサやフラウにヴィーラからだ。それとユズからも。全部目を通すとマサは復帰できるそうで、次回から参加するそうだ。ヴィーラはその報告だった。
ユズは次回の予定を教えろとなっていたから、一週間後として返信。
フラウは会って話がしたいとあった。なんだろう。もしかして向こうで生活したいと本気で思ったのかな。悩んでたみたいだし。
メッセージで待ち合わせ場所を尋ねると。
「誰にも聞かれたくないから家に来て欲しい」
家にって、妙齢の女性の家に?
ちょっと、いや、かなりハードル高いんですけど。まあ如何わしいことにはならないだろうけど。僕なんかを相手にするわけないし。世の女性の理想像は極めて高い。
家ってどこですか、と送信すると住所が送られてきた。それと「真剣な話だから」だそうで。
行くしかないか。いつ行けばいいのか尋ねると「明日の二十時」だそうで。
一度家に帰り夕食を済ませて向かう、としておいた。
翌日、家で食事を済ませ出ようとすると、母さんから「どこに行くの?」と聞かれ、知人の相談を受けに行くと言うと。
「あんまり遅くならないようにね」
だそうで。高校生じゃないし大学生なのだから、少々遅くても何なら朝帰りでも問題無いと思うけど。もう十八歳だよ。成人してるのだから、自身で責任を負える範囲で行動するのは自由だと思う。法に反しないことは当然として、倫理に悖る行為も無ければね。
まあ親から見ればいつまでも子供なんだろうけど。
「行ってきます」
「心配はしてないけど連絡はしてね」
母親は面倒な存在かも。父さんは何も言わない。男子大学生が夜遊びなんて普通だっただろうから。
電車に乗り三つ先の駅で下車。そこから徒歩で向かう。
マップを頼りに進むと単身者向けマンションがある。ひとり暮らしなのだろうか。マンション名を確認し郵便受けでも名前を確認、と思ったら部屋番号だけで名前は無し。名字すらも示さないんだ。危ない奴が多いからかな。
オートロックになっていて部屋番号を押し、呼び出しボタンを押すと返事がある。
「こんばんは。ヒロトです」
「開けるから待ってて」
ドアが開き中へ入るとエレベーターに乗り、七階に向かい降りてフラウの部屋に向かいドアホンを鳴らす。
すぐにドアが開いて「ごめんね。こんな夜に」と言いながら招き入れてくれた。
フラウの格好。地味なルームウェア姿でラフだなあ。色気の「い」の字もない。髪も少しボサボサな感じだし。
「狭いけど」
玄関正面奥に扉があり廊下には左側に下駄箱とキッチン。右側には扉が二つあり風呂とトイレなんだろう。洗濯機置き場もあって、その先に扉があり居室があるようだ。
扉を開け「どうぞ」と招き入れるフラウだ。
七畳ほどらしい居室の正面にカーテンの掛かった窓。窓側には洗濯物が干してあるのか。右側にベッド。左側にローシェルフと箪笥がある。ベッドとローシェルフの間にテーブル、いやコタツっぽいのがあり、ノートパソコンが置いてある。それとスマホも置かれてる。
「床は狭いからベッドに座って」
「あ、はい」
「何か飲む? あ、お酒は駄目なんだよね」
「はい」
少し緊張するなあ。入った瞬間、家とは違う香りが漂ってたし。窓側を見ると洗濯物が目に入ってしまう。なんかヤバそうなものも。
「あ、仕舞ってなかった」
ドキッとすると「見た?」と言われ「目に入りました」と言うと笑いながら「大学生だよね。下着くらい見慣れてるよね」と言われるけど。実は未経験で彼女居ない歴がまんま年齢と言えるくらい。モテない男とは認識してないのだろうか。
角型ハンガーを持ち風呂場に持って行ったようだ。戻ってくると飲み物を用意し、グラスをコタツに置き「話があるって言ったけど」と切り出してくる。
隣に腰を下ろし僕を見て「えっとね、前に裏技みたいなのがあるって」と言って真剣な表情を見せた。なんか距離が近い。でも真剣な顔してるし。
「その裏技だけどね」
突飛な話だからと断りを入れ語り出すフラウだ。ツッコミは話を全部聞いてからにしてと。
「魔族が居るのはヒロトは接してて知ってるでしょ」
「そうですね」
「他にね、元締めみたいな悪魔が居るらしいの」
魔王が居るとは聞いてるけど悪魔ねえ。まあ神が居るのは確かなようだし、対極の存在として悪魔が居てもおかしくはないかな。
「その悪魔が向こうで体を与えてくれるって」
神の領域でしょ。創造神と同じことを悪魔ができる?
「ただね、制限があって」
元の世界には帰れなくなる。精神体の移動は不可能だから、向こうで骨を埋める覚悟が必要らしい。
神の手によって肉体を得た場合は、元の世界と行き来ができると言っていたような。悪魔だと制限があるとすれば事実っぽいかも。
「神様に認められれば一番なんだけど」
自分には無理だろうと。僕が認められたのも奇跡的と思うそうで。
「だからね、悪魔と契約して体をと思ったんだけど」
ここに来て踏ん切りがつかない。元の世界に戻れなくなる、と言うことは日本に一切の未練を残さない、それが前提になってしまう。
家族や友人とも気軽に会えなくなる。会おうと思えばアーススパイアホール経由で会える。でも自分は日本に行くことができない。
「迷っちゃって」
それに現地の人と馴染みきれるかもわからない。
一生を過ごすとなれば一人で生きるにはつらい世界だ。誰かしらパートナーを求めたくなるだろうと。でも現地の人は芋っぽくて、なんて言ってる。何より清潔感に欠けている。毎日風呂に入ることもできないし、スマホは使えないし、娯楽も無いに等しいから悩んでるそうだ。
「食事もね」
すぐに日本が恋しくなりそうだと。
そう思うならやめた方がいいと思う。確実に後悔するだろうから。
僕だって日本の快適性は捨てられない。向こうの食事は一日で飽きると思う。娯楽は限られてるしネット環境もない。無い無い尽くしの世界だから。
でも行き来できるのであれば、向こうでの生活を主として、時々日本に帰るのはありだと思ってる。
フラウとは状況が違うから。
「どう思う?」
まあ答えは出てると思うけど。
「やめた方がいいと思います」
「だよね」
「あの、一つ気になることが」
「何?」
悪魔の存在だ。




