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Sid.99 悩み多きお姉さんだった

 ギルドでも教会でも悪魔の話は出てこなかった。ただ、神の加護があり寵愛もある、そう実感せざるを得ないことが僕の身に起きてる。そうなると神は存在すると思うわけで。

 そして神が居るなら悪魔も居ておかしくはない、その程度。

 何ら確証もないから存在の有無と本当に体を得られるのかどうか。

 質問してみることに。


「居るんですか? 悪魔」

「それなんだけどね」


 一部SNSでの噂話が元になっているらしい。


「大元の情報源はプレイヤーキラーらしいけど」


 やっぱりそうなのか。以前トゥオモさんを人質にしようとした奴は、帰る気はないなんて言ってた。この世界で体を得る手段があるから、そんな言葉が出たのだろう。

 とは言え存在を肯定するだけの要素は無いなあ。


「誰か確認したんですか? 悪魔の存在を」


 少しの間。


「確認したって言う情報はないみたい」

「じゃあ眉唾の可能性もありますよね」

「冷静に考えるとそうなるのかな」


 そもそもSNSなんて玉石混交だし、嘘や誇張にデマの宝庫と言えるでしょ。誰もが好きに発信できるけど、発信者は内容の責を負うことがない。根も葉もないものでも容易に広めてしまうし。

 キャッチーな言葉やインパクト勝負だしねえ。

 真偽を確かめるには一次情報が不可欠。拡散されてしまうと辿り着くのも困難だけど。


「そもそもプレイヤーキラーは悪魔と接したのか、ですよ」

「うん。それは気になってた」

「誰が最初に言い出したのかも不明ですよね」

「だからね、僅かでも可能性があるならって思ったんだけど」


 僕と話をしてみて何一つ存在を示す客観的証拠がない、と理解したそうだ。


「人って、都合の良い話に飛びつくから」

「それはあると思います」

「あたしもうっかり飛びついちゃった口だけどね」


 日本で生活していて不満がある。今のまま生きていても先々希望が見えない。大学在学中はそれなりに楽しんでいた。卒業し就職して以降は人生がつまらないと。

 毎日職場と自宅の往復。週に二日の休日にしても知人と町に繰り出すだけ。休暇があれば旅行もするが気分が盛り上がらない。


「結婚とかもね」


 全くその気になれない。むしろ手枷足枷を嵌められ自由が無くなる、そんな感覚に囚われるそうだ。

 幸いにして両親ともに結婚しろ、などとは口にしないそうで。

 それでも考えはする。


「例えば年収二千万の男と結婚して、それで幸せなのかなって」


 もちろん二千万の男なんて高望みだと理解してるそうだ。あくまで仮の話し、として聞いてと言われた。

 金銭的にゆとりはあっても相手は自分をどうしたいのか。近い将来子供を産んで育てて、いつの間にか年食って衰えた頃に子育てから解放される。

 体が動く間は子供に翻弄され、老いてからやっと自分の時間を持てる。


「それって幸せなのかなって思うの」


 子供の成長を見て幸せを感じる人が居ることは否定しないそうで。でも自分は考えられない。手も掛かり金も掛かり時に反抗され、育て方を間違えればモンスターが出来上がる。子育てを学校や行政、企業や地域に丸投げできるはずもない。

 自分には荷が勝つと思うらしい。

 パートナーに対しても愛情を持ち続けられるのか。互いに気持ちが冷めてしまえば、一緒に居るだけで苦痛になるだろうと。

 そんな状況に耐えられるとは思わないそうだ。


 かと言って一人暮らしを謳歌してるわけでもない。

 日々流されるまま。何となく生きてると思うそうだ。

 いろいろ抱えてるみたいで。こんな話を聞かされても僕じゃどうにもならない。親とかカウンセラーなんかの専門家に相談した方がと思う。


「あ。これはヒロト君への相談じゃないから」


 まだ社会にすら出ていない僕に相談に乗れ、とは言わないそうだ。

 ただの愚痴だから聞き流して構わないと。


「それでね、異世界に行ってみたら」


 違う自分になれた。向こうの世界が楽しいと感じるそうだ。

 ああ、そういうことか。向こうのフラウとこっちのフラウが違う、と感じた理由。向こうだと少し子供っぽい。こっちはお姉さんって感じだし。

 開放感があるんだろうな。


「そうなるとね、ずっとなんて思って」


 結果、信ぴょう性の欠片もない戯れ言に飛びついた。もしかしたらと微かな希望を抱いてしまったそうだ。

 そして僕と言う存在が居る。

 神の加護や寵愛を受け異世界で肉体を得られる、その可能性が極めて高いのだろうと。


「ヒロト君を見て自分も、なんて」


 都合の良い話だけど、現実に不満があれば逃げたくなるものらしい。

 軽いため息を吐くと「羨ましいな、ヒロト君が」と口にする。


「恋も冒険も楽しんでる」


 いずれ異世界に定住できる可能性がある。周りから愛される存在となって。


「あたしは欲塗れだから神様も認めないよね」

「でも、誰かのために行動すれば」

「居ないんだけど」

「フラウさん、回復職ですから教会で住人の役に立つとか」


 マリッカの回復効果は低い。現地の住人としては能力はあると思う。でも冒険者と比較すると効果は低いから。

 フラウなら高い効果を示す。治療効果が高ければ感謝する人も出てくると思う。

 現地の人のために働くのであれば、神様から何かしら恩寵は与えられそうだけど。


 フラウが目を丸くして僕を見てる。


「その手があったんだね」

「え、その手って」

「冒険者のために、じゃなくて住人のためにだよね」

「まあ、そうです」


 高レベルな回復職になれば様々な回復魔法を使えると思う。それを住人のために使えばと単純に思っただけ。

 レベル上げのために冒険者と行動し、普段は教会で治療士として勤める。

 何も難しく考える必要はないよね。いずれ何かしらあるかもしれない。かと言って期待したら神に見透かされる。無心で取り組んでいれば救いはあると思う。


「ありがとう。ヒロト君」


 微かであれ光明が差し込んだらしい。


「ねえ、キスしてあげようか?」

「え」


 なんか不敵な笑顔を見せてる。


「あの、それはちょっと」

「冗談だってば」

「心臓に悪いです」

「シスターと受付の子に、でしょ」


 今は二股だけど近い将来、いずれかに決めるんでしょと言われる。

 二人とも良い子そうだから、幸せな家庭を築けるだろうだって。それはわからない。でも願望はある。


「ヒロト君って、子供っぽいのに大人びてる」


 常に一歩引いた感じで物事を俯瞰して見られるのだろうと。何より慈愛に満ちているのだろうと思うそうだ。

 賢さもあると見て取れるらしいし。賢くはないな。勉強ができるだけで。


「こっちでは女子にモテないの?」

「全然です」

「どうしてかな」

「容姿と優柔不断と輝いて見えないから、じゃないんですか」


 急に顔を近付けてくるフラウだ。近いって。吐息が掛かりそうだし見つめられると恥ずかしい。


「悪くないのに」

「何がですか」

「顔」

「中の下だと思います」


 そんなことはない、と言うけど容姿は並み以下だと思う。


「顔だけ良くてもね」


 大切なのは中身だそうだ。顔だけで中身の伴わない男は幾らでも居ると。

 金だけの男も多い。金を稼げると言うことは、ある特定の分野に突出した才はある。でも人間性とは別だと言う。

 長く付き合い続けられるのは人間性に優れる人。


「あ、そうだ」

「なんですか?」

「ちゃんと名乗っておくね」


 別にフラウで問題無いと思うけど。


「名字が広崎で花の音で花音(かのん)

「え」

「こっちでは花音って呼んでね。ヒロト君は?」


 少しずつ距離を縮めてくる感じの、えっと花音さん。

 で、僕のフルネームも所望されてるわけだ。


「倉井です」

「ヒロトって字は?」

「大きく翔けるです」

「良い名前ね」


 名前負けしてる、と言えるんだけどね。

 微笑みながら僕を見て「よろしく大翔君」だって。

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