Sid.95 古城で両手持ち剣の鍛錬
久しぶりに剣士としての装備を入手した。これまで魔法で楽な戦闘ばかりしてたから、たぶん体も鈍りきっていると思う。古城に出向いて少し剣に慣れてから、森に向かうことにした。
門まで向かうと門衛が「調子はどうだ?」と聞いてくる。
「元通りです」
「まあ、そうだよなあ」
腕組みして「羨ましい限りだ」なんて言ってるけど、昨日のことが気になるのか腕組みを解き、少し神妙な面持ちで聞いてきた。
「また向かうのか?」
「依頼が未達成なので」
「勝てるのか?」
「今は無理だと思います」
幾ら死なないとは言え痛みはあるだろうと。苦しい思いをしてまで引き受ける理由がわからないそうだ。
他の冒険者であれば住人の依頼すら引き受けない。適当に行きたい場所に行き魔結晶を入手し、支払額が少ないだのレベルが少ししか上がらないだの。文句ばかりで住人の役に立とうとする人は居ないそうだ。
「なんでだ?」
「力があるからです」
相好を崩す門衛が居て「確かにそうだが、とんだお人好しだ」なんて言ってる。
「まあでも、あまり無理はするな」
住人の役に立ちたい、その想いがあるだけ他の冒険者より尊敬できる、だそうで。
「そう言えば名乗ってなかったな」
急にそう口にすると「ヤンネだ。門衛歴十五年のベテランだけどな弱いんだよ」と笑いながら言って手を差し出してくる。冒険者から見れば、の話だよね。
握手を求められてるようだし。手を差し出し互いの手を握ると「名前は?」と聞かれ名乗っておいた。
「今後長い付き合いになるのか、一過性なのかわからんが」
頼りにしてる、だそうで。
たぶん、それなりに長い付き合いになると思う。生活の軸足はこっちに置くつもりだし。将来マリッカとなんて考えてるくらいだから。アイナの件をどうするか悩むけど。
あまりここで立ち話をしていると先へ進めない。
「あの、古城に行くので」
「そうか。もしかしてその剣を試すのか?」
「そうです」
「なんか良さそうだな」
高そうな剣を背負っているのには気付いていたようで。やっとレベル相応の装備を持ったのか、なんて言ってる。ただ、服が粗末だから「もう少し金掛けた方がいい」と言われた。
服なんて幾ら掛けても意味無いんだよね。単に見栄えの問題でしかない。
でも口にはしない。頷いて先を急ぐことに。
古城に向かうと見慣れたモンスターが出迎えてくれる。
剣に慣れることが目的だから魔法は暫し封印。フレージアが姿を現し「ヒロトって剣士だったの?」なんて言ってるし。魔法剣士だから万能なんだけど。一般的には器用貧乏なだけで強くはないそうだけどね。
僕は例外らしい。
長くて扱いづらい剣を振り回し、じゃなく振り回される感じで、勢いと重さだけでモンスターを排除する状態が暫し続く。
当然だけど攻撃を防ぐには不便で、リーチを生かした攻撃が主体になる。
「ヒロト、振り回されてるぅ」
「いいんだよ」
「剣が主みたいだよ」
「今はね」
剣が主の間は流体モンスターに対抗できない。剣の主になれば対抗できると踏んでる。
面倒でも使いこなすしかない。
ただ、古城のモンスターが相手だと明らかに格下。戦闘自体は楽すぎる。
とは言え未攻略の部屋に進むと徐々に手強くなってきた。
「剣に対して魔法攻撃されると」
「律儀に剣を使う必要ないと思うよ」
「そうだけど」
魔法を使うモンスターが増えてくる。力押しだけの脳筋モンスターを相手にしたいのに。
魔法を使うモンスターの体は脆い。剣であっさり倒されてしまう。
そもそも魔法では僕にダメージをほとんど与えられない。だから意味が無いんだよね。
幾つもの部屋を通り古城内を進むと二階へ上がる階段があった。
「上に行けるよ」
「ここから第二ステージかも」
「強いの居るのかな」
「居てくれないと困る」
二十五段ほどの階段を上がり切ると扉が一つある。その先に待ち構える存在が居るようだ。
「居るよ」
「わかってる」
扉を押し開けると襲い掛かってくる無数の。
「矢?」
ヤバすぎる。さすがに防ぎきれない。
「ヒロト!」
くっそ。マジでなんなのこれ。弓矢による斉射は初見殺しだ。踏み込んだ途端にハリネズミにされる。
何本か腕やら足やらカバーしきれなかった部分に突き刺さった。
これ、マサのような盾持ちを先頭に立たせないと、レベルが低かったら倒されて終わってる。
矢が次々飛んでくるから已む無くエルドクロット連射。被弾したモンスターは爆散し数秒で静かになった。
「刺さってるよ」
「痛い」
刺さり具合は浅いけど痛いのは痛い。矢を抜くと血が出るけど、フラウが居ないから回復はできないし。それでも血が流れ続けるわけじゃない。自己治癒力もある。
少しすれば流血も治まるだろう。
先へ進むことに。
弓兵のようなモンスターが無数に居た部屋の左右に扉があり、右側から強い反応がある。左はたぶん何も居ない。
「右に行くの?」
「居るみたいだから」
「さっきみたいに」
「用心する」
扉の前に立ち慎重に押し開けると、今度は魔法が飛んできたようだ。
咄嗟に斜め後方に飛び攻撃を躱し、着地すると床を勢い蹴って部屋に転がり込み目標を視認後、剣を構え突進して突き刺し魔法で止めを刺した。
「我ながら上手く行った」
「ヒロトとは思えない動きだったよ」
普段こんな動きはしないからね。思った通りに体が動くのはレベルが高くなり、身体能力が上がったからだろう。
呑気にモンスターを確認せず倒したことで、どんな存在だったかわからない。
転がる魔結晶の大きさから言えば中ボスだろうか。
「中ボス部屋だったのかな」
「強そうだったけどヒロトほどじゃないね」
まあ中ボス部屋と言うことで、部屋の奥に一つ出現してる扉を開ける。
不用意に開けたわけじゃない。何も居ないのはわかってたから。
「どうするか」
「何が?」
「どの扉から進むか」
「左!」
フレージアが指さして言う。まあいいや。左側の扉からは反応があるし、さっさと先へ進んで片付けてしまおう。
扉を押し開けると待ち焦がれた脳筋タイプのようだ。腕が六本ある石像が居て四本の腕に剣を装備し二本の腕に盾を装備してる。
これでこそ剣の修行になるってことで、部屋に踏み込み石像と対峙。
「ヒロト、一本しか剣無いから不利だね」
「だからこそ意義がある」
「戦えるの?」
「この程度はクリアしないと」
ゆっくり一歩を踏み出す石像が四種の構えを見せ、次の瞬間駆け出し攻撃をしてきた。
上段から振り下ろされる剣と横から薙ぐ剣。突き出される剣と下段から切り上げてくる剣。
何も考えずに突っ込んだら切り刻まれるだけの状況。それぞれの切っ先が掠める瞬間、後方に飛び退くと自らの剣がぶつかってるし。
金属音が響き渡り体勢を崩す石像が居る。
足の指先に力を籠め駆け出し、まずは片側の腕を全部斬り落とす。
つもりだったけど、容易にそれをさせてくれなかった。
「防いだ!」
「当然だと思うよ」
盾を二つ持ってるから片側に集中して防御したようだ。意外と厄介な相手かもしれない。
いや、単に僕の練度が低すぎるだけか。
暫しの剣戟を繰り返すことになった。
「くっそ」
「強いね、相手」
呑気に飛び回って見てるだけのフレージアだ。こっちは息も吐かせぬ剣戟の真っ最中だってのに。
魔法を使えば楽勝な相手も、こうなると手強い相手になる。
「手助けするぅ?」
「要らない」
フレージアに無力化させれば楽勝だろう。僕の魔法でも同様。それじゃ意味がない。
傷が増えてくる。あちこち剣が掠め満身創痍状態に。
それでも隙はあるもので。
「ここだ!」
扱いにくいグレートソードが馴染む頃、やっと石像を両断できた。
いい練習になったかも。




