Sid.94 特殊鋼でできた剣を入手
ここの受付嬢はレベル五十と思っている。門衛も同じく。スタッフも当初そう思っていたようだ。
でも治療の際にタグを見てアデプトになっている、と言うことで僕が手も足も出ないモンスターが居るとなり、急遽、町の近くにある森へは立ち入り禁止となった。
フレージアに関しては高レベルな僕が大怪我をしている、と言うことで受付嬢も門衛も気付かなかったようだ。容体が落ち着いたことでスタッフは気付いたけど。
「理解はしましたが」
「これ以上説明することがないです」
「町の住人に危害を加えたりは」
「ないです」
敵対しなければ悪戯っ子ではあれど、陽気な存在だと言っておく。
仮に危害を加える存在であれば、クスタヴィの娘の命はなかった、かもしれないし。でも実際には命を奪わず驚かせていただけだ。まさに妖精の所業と言えると思う。
家族にも危害は加えていないし。精神的には追い詰められただろうけど。肉体や物品に損害を生じたわけじゃない。
だから危害は加えていないと言える。
「制御は可能なんですか?」
「僕の言うことは概ね聞きます」
「ヒロトの言うことなら聞くよぉ」
とりあえず問題が無ければフレージアの件は不問となった。
あとはあれだ。
「農地を荒らすモンスターなんですけど」
「依頼を受けたんですか?」
「それで森に入ったんです」
依頼は達成できたのかと問われ、途中で放棄せざるを得なかった、と正直に申告しておく。
聞きたいことがあり質問してみる。
「モンスターって無限に発生するんですか?」
「無限と言うと?」
「現状だと森に棲むモンスターを排除したとしても」
次々湧いてくるのであれば、結局、何度も討伐に向かう必要がある。神殿や古城もそうだったし、洞窟も際限なく湧いてくる感じだ。
それを止めない限り農地は荒らされ続ける。そこで働く人も危険な状態のまま。根本的な解決は図れないのかってことで。
「確認は取れていませんし」
推測の域を出ないそうだけど、モンスターには発生源があると考えられているそうだ。
どこかにモンスターを生み出す何かがある。それを破壊するなりすれば、発生を止めることができるのでは、というのが現時点での推測らしい。
よくあるフィクションのダンジョンで言えばコアって奴かな。
「まだ誰も発見できていませんので」
もし発生源を見つけることができれば、この世界にも平和がもたらされるだろうと。
安全に町から町へ移動し大きく発展する可能性もある。
現状では人の往来ですら困難な面もあり、町を大きくするにも莫大な予算や人手を必要とする。城壁で囲われた中でしか生活できないのだから。
そうなると森に入って確かめる必要がある。
今の実力だとあの黒い流体に手も足も出ない。もっと強くなれば探索して発生源を突き止められるかも。
「あの」
「森に入るのですか?」
「僕なら逃げることもできます」
例え大怪我をしても、こうして町に戻れる。
他に存在しないアデプトでレベル六十と言うことで、僕だけが森に立ち入ることを許可された。
レベル六十に至れた理由も聞かれたけど、神の加護と寵愛を授かったと言うと、目を丸くして驚いていたようだ。
今日はこれでリコールすることに。
次回来たら森の探索をしよう。あれと出会ったら逃げる。今は戦いようがないから。
明日で夏休みが終わる。
夏休み最終日、四時間の枠を取りテューネスへ。マリッカと会ってないなあ、なんて思いながらも、まずは依頼を何とか達成したい。
流体モンスターにはギルドで名称が付けられた。
マヴロイグロ。
それが漆黒の流体モンスターの名称に。推定レベルは七十以上とされ、冒険者に対してはテューネス近郊の森には立ち入り禁止。僕が対処できるまでの間。
それとモンスターの発生源を突き止める。これはギルドからの依頼となった。
「もし発生源を除去すると狩り場が減りますけど」
「仕方ないですね。住人の安全が最優先です」
新たに装備を整える。テューネスの武器屋を教えてもらい、頑丈な剣を一つ探すことに。フレージアには町の外に出るまでポーチで待機としておいた。
武器屋に行くと店員だろうか、僕を見るも声すら掛けてこない。ランシ・ヤールヴィの武器屋は愛想も良くなってたけど。こっちはこれからだ。
相手にされ難いのはわかってるけど、装備はある程度整えておきたい。声を掛けると嫌そうな表情を見せるし。
「何か?」
「剣が欲しいんですが」
「剣ならそこにある」
パッと見ると貧弱な剣が複数並ぶ棚。これじゃない。
「あの、頑丈な奴が欲しいんです」
じろじろ僕を見て「初心者が?」と多少の嘲りが混ざった目で見てくる。
そう言えば初心者装備のままだった。デート用の服は仕立てたけど、装備は初心者の服ばかり。
まあいいや。
「とにかく頑丈で折れにくい剣を」
「金払えるのかよ」
「えっと、手形で」
「初心者風情で信用あると思ってんのか?」
レベル六十なんだけどなあ。
あ、そうだ。首に掛けてるタグを見せることに。
暫し無言の店員だけど僕を見て「まあいい。金はあるんだろうから」と言って、店員の後ろに飾ってある剣を幾つか出してきた。
「重いが頑丈さだけが取り柄のグレートソードだ」
価格は五十ベリキと言われた。五十ベリキってことは日本円で四十万。
かなり高額だけど、これでも心許無いかもしれない。これ以上の剣は無いか尋ねると呆れてるようだ。
「じゃあ取って置きを出してやる」
そう言って別室に向かい少し待つと、剣を手にして出て来た。
「素材から見直したものだ」
通常は鋼から作られるが、地球からの技術移転で作られた剣らしい。
「マルエージング鋼と言うらしい。あんたは知ってるんじゃないのか?」
航空・宇宙分野用の特殊鋼材だ。強度と靭性に優れる。
グレード三百相当のものらしい。とは言え錆には滅法弱い。そこは注意が必要な部分だ。常日頃の手入れは欠かせないな。
「ただ、数は作れない」
まず素材としてアルミが容易に入手できないそうだ。原材料のボーキサイトは入手可能でも生成ができない。電気の確保ができないからだ。電気を得るため魔結晶を用いた発電により、辛うじて少量のアルミを生産できるらしい。
全て地球から持ち込んだ技術で可能にしたとかで。
今店にあるのは一本だけ。極めて貴重な剣だから高額になると言う。
「幾らですか?」
「百五十ベリキ」
グレートソードの三倍だ。手形を振り出すにしても、ここに預けた額だけだと不足するかも。
「ランシ・ヤールヴィのギルドにも預けてあるんで」
請求すれば払えると言うと。
「他の町か」
暫し腕を組み考えていたけど「現金化に時間は掛かるが仕方ない」と言って、マルエージング鋼の剣を売ってくれるようだ。
でもこの剣、グレートソードだから大きく重いんだよね。
「レベル六十ってことだが使えるのか?」
試してみることに。まず手に持ってみて重さをみる。七キロくらいだろうか。
両手で持てば重くは感じない。ただ両手剣を扱った経験がない。少しぎこちない動きになるけど、慣れれば使えると踏んで問題無し、と言っておく。
「動きが悪い」
「慣れれば大丈夫です」
「そうか」
何を相手にするのか知らないが、破損しても修理不能と言われた。
破損したら使い捨てってことか。もし折れたりしたら百二十万が一瞬で吹き飛ぶ。でもあれに対抗するには魔法だけじゃ無理だと思う。そもそも魔法の効果が弱くて期待できないし。
剣が通じそうな感じだったから、頑丈なら何とか対抗できる、そう思った。
「それとダガーを二本欲しいんですが」
「同じ素材の物は無いぞ」
「構いません」
スティレットを二本調達した。




